まいにちWACわく!その15(番外編:田中士長の戦い)

407 名前:番外編:田中士長の戦いその1 投稿日:04/06/27 22:02

時はさかのぼって4月中旬…

陸士長・田中大介。年齢29才、主特技は小銃、現職務は中隊本部給与付兼中隊長ドライバー
所有特技は初級装輪操縦・けん引・初級部隊通信・らっぱ・補助担架と陸士の持つ特技のほとんどを持っている
入隊は飯島士長は柳沢士長より下、田浦3曹や井上3曹より上の季節隊員
高校卒業後電気店で働いていたが、バブル崩壊後の不景気であえなく倒産したために自衛隊に入隊した
当初は2〜3任期で満期退職の予定だったが、入隊前から付き合ったり離れたりしていた彼女と結婚したのを期に陸曹になる事を決意
給与付を命ぜられてから勉強をして3回1次試験を合格。今回が2次4回目のチャンスであり、年齢的にもラストチャンスと言われていた
2次不合格の理由は体力。決して極端に悪くはないが、最近の候補生のレベルでは少し見劣りしていた

今も体力検定科目の1500m走を計測しているが、鈴木士長を始め若い連中にはだいぶ先を行かれている。後ろに三島がいるのが救いか…


408 名前:番外編:田中士長の戦いその2 投稿日:04/06/27 22:05

「5分12!」田中士長のゴールに合わせて倉田曹長がタイムを読み上げる。先にゴールした連中が歩きながら深呼吸している
「もう少し頑張らないとな〜」少し残念そうに倉田曹長が言う「…長距離は…ハァ…苦手で…」息継ぎをしながら田中士長が答える
「持続走は努力次第で伸びる!あと少しで5分切れるじゃないか」「けっこう…ハァ…頑張ってるんですが…」「まだまだ!もうすぐGWだが、しっかり走っておけよ!」

一日の訓練を終えて家に帰る、近くの2DKで妻の「かなた」と二人暮らしだ「ただいま〜って言っても誰もいないか…」かなたはバイトに出ている。食事の支度をする田中士長
ご飯ができあがる頃、かなたが帰ってきた「ただいまっ!ご飯できてる?」セミロングの髪を後にまとめたかなたは玄関を開けるなりキッチンに飛び込んできた
二人で夕食を食べる、今日のメニューは豚肉のショウガ焼きにみそ汁、ゴーヤのサラダだ「今日はどうだった?面接なんて何年ぶり?」質問をするかなた、田中士長は「ん〜?あぁ…」と生返事だ
「ちょっと〜ちゃんと話聞いてよ!」少し怒ってみせる「疲れてるんだよ…」ボソッと言う田中士長、食事もあまり進んでいない
「若い連中と一緒に走り回ってるんだから…勘弁してくれよ」「まだ若いじゃない?30代でも体力ある人いるんでしょ?」「そういう人たちは例外だよ…」「そう?」首をかしげる
「オレなんて人に自慢できるモノが無いんだから…体力も戦技もさ」「…自衛隊の事はわからないけど、今の大介クンは私でも採用しないよ」妻の辛辣な発言に思わず顔を上げる田中士長
「だってさ、そんなイジイジした人が上司になったら部下の人がかわいそうだよ」「…」「体中からオーラが出てるよ『オレは負け犬です』ってね」
さすがにカチンときた田中士長「お前に何がわかるってんだ!毎日化け物みたいな連中と一緒に体鍛えて、後輩連中にも抜かれて働いてるのは誰のためだと思ってるんだ!」
「少なくとも『私のため』なんて言わないでよ、私はあなたが頑張るためのエサじゃ無いのよ」じっと田中士長を見据えて言うかなた
さすがに言葉に詰まる田中士長「…お前にゃわかんねぇよ…」ボソッと言って残りのご飯をかき込んだ


409 名前:番外編:田中士長の戦いその3 投稿日:04/06/27 22:06

今日は朝から分隊教練、昼には演習部隊が帰ってくる。また今晩は中隊長の面接かな…?とみんな考えていた
「GW中も午前中は2次試験の錬成訓練を行う」と先任から伝えられたのは昼の集合時だった「…!」みんなの顔が曇る
「教官要員は中隊本部が持ち回りで実施する」「あの〜先任?代休とかはどうなるんで…」みんなの心配事を口にしたのは三島士長だ
「あのなぁ…そんなの心配してて陸曹になれると思ってんのか!?」と補給の林2曹「はぁ…」不満そうな顔で答える三島士長
そんな二人を手で制して先任が言う「休日の錬成は2日で1日の代休をつける、試験が終わってからも休暇が取れるようにしてやるから…」
みんな不満そうだが仕方ないといった顔をする「頑張りましょうよ!」と元気なのは鈴木士長だ

家に帰る田中士長、妻のかなたにGWの予定が潰れた事を言う「…ふ〜ん、う〜ん…わかった、頑張ってね!」意外とあっさり納得する
「もっと不満そうな顔をすると思ってたけど?」「新隊員の時とかに残留とか訓練とかってあったじゃない?もう慣れたわよ」
「そういや地震で3種勤務がかかってデートの約束が潰れた時もあったもんなぁ」「あの時に一度別れたもんね、よく覚えてるわよ」
お茶を飲んで一息「頑張れるとこまで頑張ってみたら?バイトのシフトも変更して貰うから」「う〜ん、わかった…」


410 名前:番外編:田中士長の戦いその4 投稿日:04/06/27 22:08

暑い中、そしてみんなが休んでいる中で訓練する2次受検者たち「縦隊右へ〜進め!」各中隊の分隊教練の声がグランドにこだまする。どこの中隊もGWは錬成してるようだ
「やってて正解かもしれませんね」今日の面接の練習を担当する田浦3曹が言う「でも休みが欲しい…少しでも…」呟くのは三島士長だ
三島は何故か昼からも練習して(させられて?)いるらしい。身も心もボロボロ…といった感じの三島を無視し、田浦3曹は言葉を続ける
「田中士長はやはり自己アピールが苦手ですね、何か特技とか無いですか?」と聞く田浦3曹「…ピンと来ないんだ」言葉を詰まらせて田中士長が答える
「車両の距離はどうですか?もうすぐ2万Kmでしたよね?」「あと1000Kmもあるんだが…田浦は試験の時何にしたんだ?」
少し考えて答える「『要領がいい』って答えましたね。漠然としてていんですよ」「要領ね…」さらに考えて答える
「田中士長は事務所に長くいるんですから、『事務仕事は得意です』ってのはどうですか?」「事務?陸士がそんな…」「事務はバカにできませんよ、大変なのは知ってますよね?」
そう答えて今度は鈴木士長のところに向かう「鈴木はレンジャー出てるんだから…」と各人にアドバイスをしている
(田浦は頭がいいよな…)ぼんやりと思う田中士長
(昔からそうだった…指示だって一回聞いたらすぐ覚えたし、要領も確かによかったからな。井上には射撃があったし…オレは事務しかアピールできないのかな?)


411 名前:番外編:田中士長の戦いその5 投稿日:04/06/27 22:08

長いGWも終わり試験前日になった。体力検定科目は結局記録更新とはいかなかった
軽く走って汗をかき終礼に出る「じたばたせずに自分を信じろ!」とは中隊長の言葉だ
帰り支度をする田中士長に声をかけてきたのは3小隊の小野3曹だ「よう田中!ちょっとツラ貸せや」そう言って畳敷きの娯楽室に向かった
「体中痛いだろ?」娯楽室に入り小野3曹が言う「ええ、まぁ…」「よし、うつぶせになれ」「?」「ま、いいからいいから…」
そう言って小野3曹は田中士長をねじ伏せた「よし、まずは…」ふくらはぎに激痛が走る「!」「力抜けよ、よけい痛いぞ」丸太のような腕でマッサージを始めた

「よし終わり!」手をはたき立ち上がる小野3曹「…」田中士長は死んだようになっている。ドラクエなら「返事がない、ただの屍のようだ」と表示されるであろう
「あとな…」そう言って袋から何か薬みたいなモノを出す「これはクエン酸、こっちは…」どうやら栄養剤とかのようだ
「ちゃんと飲めば効果が出るからな」そう言って横になっている田中士長の前に置く「どうも…です…」かろうじて礼を言う
「礼なら中隊長に言いな、結構高い買い物だがあの人が自腹を切ったんだから」そう言って立ち去る小野3曹

しばらくしてから立ち上がる「…!」体が軽い、さすが体育学校仕込み…と感心する田中士長であった


412 名前:番外編:田中士長の戦いその6 投稿日:04/06/27 22:09

軽い体で家に帰る「ただいま」おいしそうなご飯のにおいがする「おかえり〜今日は定番だけどカツにしたよ!」
食卓に付く「敵にカツ…か」「定番すぎた?」「いや、いいけど…」そして今日あった中隊長の言葉や小野3曹の事を話す
「期待されてるんじゃない?頑張ってよね!」「うん…」「ま〜だ自信無いの?もう…今日は早く寝た方がいいわよ、私も早番だから」意外とあっさり言われる
「…」食事を済ましさっさと片づけをする妻を見て、田中士長は(オレって妻にも期待されてない?)と疑心暗鬼に陥ってしまった…

翌朝、6時に目を覚ます田中士長。もうかなたはバイトに行ってしまったみたいで気配がない「…おはよう」寂しく一人呟く
洗顔、歯磨きをすまし、通勤服を着てキッチンに入る「?」テーブルの上に朝食と手紙が置いてあった。手紙を開く
(頑張って!)そしてハートマークが描かれている

手紙を置き朝食を食べ始める田中士長、その目には生気が宿っていた…


413 名前:番外編:田中士長の戦いその7 投稿日:04/06/27 22:10

2次試験が始まった。まずは分隊教練、これはミスもなくクリアした。試験を見に来ていた田浦3曹が声をかける
「お見事です!幸先いいですね」「ん?ああ、今日のオレは昨日のオレと違うって事さ!」「…?」

次は面接「田中士長!名札がゆがんでますよ」そう声をかけてきたのは赤城士長だ「あぁ、アリガト」制服の名札をつけ直す
(この子が来る時は大変だったな…でもいい子でよかったよ)「?私の顔に何か?」「いや、何でも…」慌てて頭を振る
「頑張って下さい!一緒に陸教で特技課程受けましょう!」「ああ、行ってくるよ」

面接は連隊本部の会議室で実施される「受験番号14番、田中士長入ります!」基本教練通り会議室に入り、机の真ん中に座る副連隊長に敬礼する
「ん、まぁ固くならずに座りなさい」副連隊長が声をかける。試験官は副連隊長、各科長に人事幹部だ
1科長からは「誇り高き陸上自衛官の心得」に関する質問
2科長からは保全(特にインターネット関連)に関しての質問
3科長からは「訓練での留意事項」に関する質問
4科長からは「物品愛護」に関する質問
人事幹部からは「人事異動」に関する質問だった
(全部予想通り…さすが事務所の人たちは知ってるな)感心しつつ答える田中士長


414 名前:番外編:田中士長の戦いその8 投稿日:04/06/27 22:11

面接も終盤にさしかかってきた「じゃあ自己アピールをしてみてくれ」と副連隊長が言う(キター!)と思う田中士長
「私の特技は…この2年間近く勤務している中隊本部勤務であります」田浦3曹のアドバイス通り、中隊本部勤務をアピールする
「各訓練や勤務等で必要な事、準備の大切さなどを覚えました。陸曹になってもすぐに役に立つ知識を持っていると思います」
一気にアピールを終える(突っ込まれるかな?)との予想に反し副連隊長は隣の科長達とひそひそと話をする

「それでは最後の質問だ」副連隊長が姿勢を正し言う「田中士長、絶対に陸曹になりたいかね?」当たり前の事を聞く「ハイ!」
「何でだ?給料は言うほど高くないし、世間からの名誉も得られないぞ」身を乗り出しさらに続ける
「むしろ一部市民からは蛇蝎のごとく嫌われている、非常呼集がかかれば親の死に目にもあえないかもしれん、イラク派遣でもわかるように、命がけの仕事でもある」
一息入れてさらに続ける「娑婆に出た方が楽かもしれんぞ、それでも陸曹になりたいのか?」


415 名前:番外編:田中士長の戦いその9 投稿日:04/06/27 22:12

一気に言い切った副連隊長、田中士長は少し迷う(え〜?生活のため?いや、そんな理由で陸曹になりたい訳じゃ…)
少し考える、そして…(そうだな、これが理由だな)

「自分には妻がいます、いつかは子供も生まれると思います。日本には、そして世界には自分のような家族が何億といます」
一息入れて続ける「その家族を一人でも多く守りたい、イラクでも東ティモールでも、そして日本でも…」
うなずく副連隊長「ま、もちろん生活のためもあるんだろうがな」「はい、否定はしません。でもそのためだけに陸曹になるわけではありません」
「よし、お疲れさん!退室したまえ」「ハッ!」そう言って基本教練どおり退室する田中士長であった

「ふ〜緊張した…」営外者室に帰りため息をつく(あれでよかったのかな?ま、終わった事を考えるのはよそうか…)
そう考え、昼食を取りに売店に向かった

午後の後段に体力検定、中隊全員でアップをする「面接で何を…」「分隊教練どうだった…」会話しつつ体を温める
「いいか〜明日の事は考えるな!全力でいけよ!」アップを監督する倉田曹長が檄を飛ばしていた


416 名前:番外編:田中士長の戦いその10 投稿日:04/06/27 22:13

連隊の受検者が全員集合して各競技の説明を受ける「もう何回も受けてるんだけど…」そう呟くメンツも多い

まずは50m走、記録6秒7「やっぱり鈴木が強いよな…」そうぼやく田中士長

次は懸垂、鉄棒に飛びつく「い〜ち、に〜い…」数を数える。20秒を超えたあたりから腕がプルプルと震えてきた
(アゴだけでも上げないと…)どんどん体は落ちてきている、何とか踏ん張ってアゴだけでも鉄棒の上にあげる
「ごじゅうろ〜く、ごじゅうひ〜ち…」(なんとか60秒まで…)「ごじゅうきゅ〜う、ろくじゅう!ろくじゅうい〜ち…」ドサッ…何とか60秒まで耐えた
(でも後で「キリのいいところで落ちた」とか言われるんだろうなぁ…)

次に幅跳び、何度も練習してタイミングも覚えた(5m超える!)そう自分に暗示をかけて助走を始める。踏み切り板にピッタリ右足が来た
(キター!)上に向かって体を伸ばす。右足で踏み切り勢いよく飛んだ(鳥みたいだ…)と一瞬感じ着地する
3科の計測員が記録を読み上げる「5m02!」(よしっ!)心の中でガッツポーズをする
あきらめの悪い受検者が3度、4度と飛んでいる「3度目以降はあまり意味無いんですよね」とは鈴木士長の意見だ。彼は余裕の6m越え、さすがである


417 名前:番外編:田中士長の戦いその11 投稿日:04/06/27 22:14

次に大詰めの1500mだ。何かと3戦技の一つである持続走は何かと注目されやすい
「と言っても一つの戦技ばっかりやってる隊員は使えないんですけどね、成績とか出やすいけど中隊本部としてはいりませんね」とは田浦3曹の言葉だ
とはいえある程度の成績を出さねば合格は難しい、中隊の受検者全員で体をほぐす

ピンポンパンポン…「本日1610より陸曹候補生2次の体力検定、1500m走が実施されます。業務に支障のない方は応援に参加されたい…」
「おいおい、応援なんてやめてくれよ〜」誰かのぼやく声がする。放送があってから暇な隊員がぞくぞくと集まってきた
「けっこういるな…」田中士長がぼそりと言った「これはなんかイヤですね」とは鈴木士長だ

スタート3分前、受検者がスタート位置に集合する。持続走錬成隊の要員はランニングパンツにシャツというやる気満々の格好だ。背中には「陸上自衛隊」と書かれている(恥ずかしくないのか…)と内心思う田中士長であった
スタート1分前、みんなの緊張もピークに達する。屈伸する者、太股をぴしぴしと叩く者、いろいろである
ついにスタート10秒前、自分の心臓の鼓動も聞こえてきそうだ。いっせいにみんな無口になる
時計をストップウォッチに切り替えスタートボタンを押す

「位置についてぇ、用意…」パン!とピストルが鳴り、受検者が一斉に走り出す


418 名前:番外編:田中士長の戦いその12 投稿日:04/06/27 22:15

歓声がわき起こる「前について行け〜!」「あご上げるな!」「腕振れ!腕振れ!」(好きな事言いやがって…)と内心思う
いきなり飛び出したのは持続走訓練隊の要員だ、相手にせず自分のペースを守る田中士長
(鈴木は…いた!)少し前に鈴木士長の背中が見える。黒字に白のレンジャー徽章がプリントされ、その上に「#○○RANGER」と書かれている
徽章の下にはレンジャー同期の名前がある。レンジャー訓練隊で作ったTシャツらしく「ここ一番の時はこれを着るんです」と本人が言っていた

筋肉痛は無い、昨日までの疲れが嘘のように体が軽い(小野3曹に感謝だな…)その小野3曹もギャラリーの中にいたようだ
調子よく飛ばす田中士長、1周目の後半まで鈴木士長の背中を追い続けている(このままいけるかな?)と思った瞬間、急に息苦しさを感じ始めた
(やばい!ペースを上げすぎたか…)そう思い少しペースを落とす。スタート地点が見えてきた、ラップタイムを読んでいるのは赤城士長だ

「2分31!32、33…」半分弱で2分半、5分ぎりぎりか少し越えるくらいのペースだ(もう少し…もう少し早く!)とは思うがなかなか足が前に出ない
鈴木士長の背中も遠くなった、300mは離されたか。呼吸も荒くなりアゴも上がる。誰かが「アゴを引け!」と言ったような気がしたが、もうそんな余裕はない
(あと400mくらいか…)コースは外柵沿いにさしかかる、学校帰りの小学生が笑いながらこっちを見ているが、田中士長にはもう外を見る余裕もない
(もう少しペースを落としても…頑張ったじゃないか、もういいや…)あきらめの心境になりペースが落ちそうになったその時

「がんばれ〜!」外柵沿いから妻のかなたの声が聞こえた、ような気がした


419 名前:番外編:田中士長の戦いその13 投稿日:04/06/27 22:16

(!…かなた?)目だけを外柵沿いに向けるが、すでに後ろの方になっているのか誰も見えない
(空耳?いや…聞こえた、はっきり聞こえた!)今までの呼吸の苦しさ、足の重さが急に楽になった気がした
外柵沿いを抜けてラスト200mは直線だ。鈴木士長がゴールするのが見えた
(よし、最後だ!残りの力を振り絞って…)残った力をフルに使い全力でダッシュする。後の事は考えず、首を振りよだれを流して全力疾走する

「止まらないで歩いて…こっちです!」いつのまにかゴールしてたようだ、赤城士長に連れられグランドに入る
先に入っていた連中が、歩いて呼吸を整えたり膝をついて休んでいる。田中士長もその場に倒れ込んだ
頭は真っ白になり呼吸も荒い、誰かが紙コップに水を入れてきてくれた。少し口に含んではき出す、少し呼吸が落ち着いたような気がした

最後の走者、本管のWACが入ってくるのが見えた(確か東間士長だったか…)これで試験は終わったらしい。受検者は数分後に集合のようだ
ふっと思い出したように時計を見る、ストップウォッチは7分になっていた(タイムはどれくらいだったんだろう?)ちょうど近くを通った田浦3曹に聞いてみる

「田浦、オレはどうだった?」持っていた図版に目をやり田浦3曹がほほえむ「4分57!5分切れましたね」そう言って親指を立てる田浦3曹
(そうか…5分切れたか)いままで達成できなかった目標に届いた、田中士長は満足感を覚えた


420 名前:番外編:田中士長の戦いその14 投稿日:04/06/27 22:19

全受検者が集合し整理体操をやって解散となった「試験結果の発表は6月!それまで事故等を起こさないように」人事幹部が注意喚起をする
中隊に帰ってきた、もうすでに終礼は終わっていたらしい「先任、試験終わりました」先任者でもある田中士長が報告する

受検者の前に中隊長がやってくる「全力を出したか?」と質問をする「ま、ここまで来たらあとは俎の上の鯉だ。ジタバタするなよ!」そう言って先任に交代する
先任が言う「合格発表は6月の中旬、それまで服務事故とか起こさないようにな!」もう耳にたこができるくらい同じ事を聞いた
「それから…明日から日曜まで休暇になったから、ゆっくりと休むようにな」やった!とみんな笑顔になる

「やっと休み、いや外出できる〜」と唸っているのは三島士長だ。この半月ずっと外禁だったらしい
(さてオレは…どうするかな)そう思いつつシャワーを浴びて中隊本部に入っていった

「お、お疲れさん!」残業していた先任が声をかける「ゆっくり休めよ、奥さんにも花束くらい買って帰ってやんな」とアドバイスを受ける
(そうか、花束か…)そう思い休暇証を受け取り帰路に就く。先任に言われたとおり近くの商店街で花束とケーキを買った

(そういやアイツ、今日来てたのかな?)1500mのラストに聞いたあの声、自分の妻の声を間違えるとは思えない(…ま、いっか)
今日くらいは難しい事を考えないで、今までいろいろ我慢して励ましてくれたかなたに「ありがとう」とでも言おう…そう思い家のドアの前に立つ

(この花束見たらどんな顔をするかな?)そう思いつつチャイムのボタンを押した…

番外編ー完



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