389 名前:まいにちWACわく!その102 投稿日:04/05/30 14:37
「中国?」「そう、中国。正式には中華人民共和国」「いや、知ってますけど…」グランドの端で会話するのは田浦3曹と柳沢士長
試験の様子を見に来た田浦3曹に駆け足中の柳沢士長が声をかけてきたのだ
「で、その中国が攻めてくる夢を見たと?」「そう、河原のヤツが持ってきたクソゲーのせいだ」柳沢士長は田浦3曹より年上で入隊も古い
「でも何かリアルでな…」「ま〜警戒は必要でしょうけど、中国はそんなに心配する相手じゃないですよ」事も無げにさらっと田浦3曹が言う
「そうなのか?でも『朝雲』とかによく書いてるけどな…」「『EEZで調査船』とか言うヤツですか?」「そう、あいつら軍拡しまくってるんだろう?」
図版を持つ手を動かし、田浦3曹が口を開く「中国軍は200万人の軍隊といわれています。予備役を含むと1000万、自衛隊の約50倍ですね」「だろ?人海戦術だよな」
「でもその200万の軍隊をどうやって日本に持ってくるんですか?」「そりゃ輸送船とかを使って…」手で柳沢士長の発言を制し、言葉を続ける
390 名前:まいにちWACわく!その103 投稿日:04/05/30 14:40
「中国海軍のレベルは決して高くはありません。軍艦というのはその国の技術の結晶ですから、結局はそのレベルのモノしか作れないのです。軍艦の数は多くても火力は貧弱です」一息入れて続ける
「世界でも最強クラスの海上自衛隊からしてみれば、ただの動く的ですね。200万人が乗っててもみんな魚の餌です。輸送艦や飛行機に乗ってる内は、最強の兵士もタダの的ですからね」「しかし、資源を押さえられたら?シーレーンとか…」
「そんな事をしたらアメリカ、台湾、東南アジア諸国が黙ってませんよ。彼らにとっても死活問題ですから」「しかし…」「それに中国軍は一枚岩ではないんです」さらに続ける田浦3曹
「各地の軍閥というのもありますし、軍の幹部が企業経営してる事も多いのです。もし北京の中央政府が自分の利益を失う戦争を仕掛けたら、彼らはどう動きますかね?三国志の世界再びってとこですか」「群雄割拠か?」
「さらに日本を攻めている間、後方のチベットやウイグル族自治区が黙っているとは思えません。軍には彼らの民族も多く、反逆の機会を狙っていると聞きますよ。」
さらに続ける
391 名前:まいにちWACわく!その104 投稿日:04/05/30 14:43
「それに一人っ子政策の弊害で、下手に兵士を失うと後継者を失う一族の反発もあります。結局の所、中国はぜんぜん一枚岩では無いのです」「ほ〜」
「さらに日米安保があって沖縄に米軍がいる限り、中国は沖縄という橋頭堡を得られないのです。911以降米軍は沖縄から撤退する気はなさそうですし」「やっぱりアメちゃんか」
「米軍をさけて九州を攻めようとしても、待ちかまえているのはイージス艦を備えた海上自衛隊とイーグルを持つ航空自衛隊、そして精強西部方面隊です」「ふんふん」
「日本を占領できる戦力は、今のところアメリカしかないのです。自衛隊って意外と強いんですよ」そう言って笑う田浦3曹
「ま、少なくともあと20年は中国侵攻の悪夢は無いでしょうね。日本が中国に攻め入るのはあと100年は無いでしょうが…」
「じゃああいつら調査船なんか使って何してるんだ?」
「既成事実を作ってボチボチ領土を獲得するつもりでは?最近は日本政府も強気でうまくいってないみたいですが…」そう言って肩をすくめる「社民共産が弱くなりましたからね、世論工作も難しいでしょう。民主党もあんなんだし」
「マスコミの言ってることとは違うな〜」「マスコミなんぞケツの毛の先ほどの信用もありませんよ、この知識もネットで仕入れたんです」
「しかしずいぶん詳しいな〜」感心する柳沢士長「いやいや、2次の面接でよく国際情勢とか聞かれるでしょう?だからオレも勉強したんです、三島とかに教えないといけないから…」そう言って頭を掻く田浦3曹
「当面の的は中国より他中隊だな」急に後から声をかけてきたのは佐々木3尉だった
392 名前:まいにちWACわく!その105 投稿日:04/05/30 14:43
「お疲れ様っす!」二人が声をそろえて敬礼する
年齢では 柳沢士長>田浦3曹>佐々木3尉 だが、階級的には
佐々木3尉>田浦3曹>柳沢士長 という変わった組み合わせの3人だ
「どう?試験は」「ウチはだいたい分隊教練が終わりましたね、あとは体力検定…」田浦3曹が答える「この暑いのに、モデル要員がかわいそうだわ」柳沢士長がつぶやく
分隊教練の試験での分隊員、つまりモデル要員は各中隊から支援を出している。公平を期すために受検者とは違う中隊の人間が分隊員として動くのだ
「一日中歩いたり基本教練したりだもんな〜」田浦3曹の視線の先には、怠そうにしている赤城士長が見えた
「どこの中隊も新兵を主力に使ってるみたいだね」「そりゃ新兵は号令どおり素直に動きますからね、でもさすがに疲れてますね…」気温は25度を超え、真夏日といってもいいほど暑くなっている
5月の日差しは容赦なく作業服を着込んだモデル要員達を襲う「ちょっと様子見てきます」そういって田浦3曹はその場を離れた
「どうだ〜みんな!元気か?」わざと明るく振る舞う田浦3曹、しかしみんな生返事だ「暑いですっ…」ぼそりと答えたのは赤城士長だ
「まぁ後少しだ、がんばれ!」「この勤務を決めたのって田浦3曹ですよね…」誰かがぼそりと言う。みんなの視線が痛い
「ま、ま〜若い内の苦労は買ってでもしろって言うじゃない、ハハハ…」冷や汗をかきながらその場から退散する田浦3曹であった
394 名前:まいにちWACわく!その106 投稿日:04/06/05 14:38
試験もついに体力検定を残すのみとなった。公正を期すために全中隊の受検者約30名が一斉に試験を受けるのだ
候補生試験ではなぜか旧体力検定を実施する。課目は「50m走」「屈腕懸垂」「幅跳び」「1500m走」である
まずは50m走から始まった。全員がグランドに移動し、各中隊の記録要員や応援要員も一緒に移動する。田浦3曹も記録用紙やストップウォッチを持ってついて行く
「やっと命令会報が終わったよ、もうすぐ始まりかね?」先任もやってきた「ええ、今から50mです」そう答える田浦3曹
我が中隊の一番手は鈴木士長、大本命だけあって危なげなく50mを5秒9で駆け抜ける「さすがだな」「また1級取るんじゃないですかね?」
次は田中士長、記録は6秒7「まぁ許容範囲だろうかね」次は三島士長、記録7秒「…う〜ん、悪いな」「イマイチですね」
さらに何人か続き50m走は終わった
次は懸垂、鉄棒にぶら下がりあごを鉄帽の上に上げて、何秒耐えられるかを計測する。何人か一組となって実施するので、けっこう隣が気になるのである
「い〜ち、に〜い、さ〜ん…」踏ん張りすぎて脳の血管を切らないように、実施者は秒数を数えなければならない「ずっと思ってたけど、これは危ない競技だよな〜」先任が呆れて言う
ここでも鈴木士長がダントツ、記録96秒「さすがレンジャーだな」先任が感心する
田中士長は60秒「なんでキリのいいところで落ちるかな〜」田浦3曹が言う
三島士長は51秒「…何やってんだか」「でも、前回よりは上がってますよ」
395 名前:まいにちWACわく!その107 投稿日:04/06/05 14:39
続いて幅跳び、砂場に移動する「佐藤准尉」声をかけるのは本管先任・泉曹長だ「お〜様子見かい?」「ええ、やはり見ておかないといけませんからね」
本管は休暇前に本命一人が交通違反で落とされている「おかげで参りました…まったく」珍しく落胆した表情を見せる泉曹長「というわけで今回、ウチは若干不利です。心証が悪くなりましたからね」
受検者が幅跳びを続ける「ま、そうそう気を落とさなくても…」先任が慰める「WACの子も頑張ってるじゃないか」通信小隊・東間士長が2次まで進出している
「受かればいいのですがね、そうそううまくいくかどうか…」珍しく弱気の泉曹長であった
幅跳びの記録…鈴木士長6m30、田中士長5m02、三島士長4m83
続いて最後の種目、1500m走が20分間の休憩の後にスタートする
396 名前:まいにちWACわく!その108 投稿日:04/06/05 14:40
ピンポンパンポン…「本日1610より陸曹候補生2次の体力検定、1500m走が実施されます。業務に支障のない方は応援に参加されたい…」
駐屯地の放送を聞き多数の隊員がグランドに集結してきた。1500m走のコースはグランドと外柵沿いの一部を利用した一周700mのコースを使用する
「つまり2周と100m走るって事だな、1500mは長距離じゃなくて中距離の分野だから、集中力が大事なんだな」「そうですね〜東間士長はどうかな?」ゴール付近で会話するのは田浦3曹と赤城士長だ
スタート付近では佐々木3尉、先任、そして小野3曹が立っている「昨日の晩、しっかりマッサージしてやりましたからね〜筋肉痛は無いハズです」そう言うのは小野3曹だ。丸太のような腕がTシャツからはみ出している
「体育学校仕込みのスポーツマッサージ?」そう聞くのは佐々木3尉「そういう特技の持ち主がいるのは有利だな。薬も使った?」とは先任
「薬って…アミノ酸やらクエン酸、それに栄養剤ですから合法ですよ」呆れたように言う小野3曹「でもやっぱりドーピングみたいだ…」とつぶやく佐々木3尉
「位置についてぇ、用意…」パン!とピストルが鳴り、受検者が一斉に走り出す。歓声もわき起こる「前について行け〜!」「あご上げるな!」「腕振れ!腕振れ!」外野は好き放題言う
持続走訓練隊の要員が最初から飛び抜けて速い、格好も本格的だ。その後ろの集団に鈴木士長が付いている「鈴木〜前は気にするな!」田浦3曹が声をかける
その後に続くのは田中士長「田中、鈴木を追いかけろ!」そのかなり後に続くのが三島士長「三島!音楽祭に行きたくないのか〜!」
397 名前:まいにちWACわく!その109 投稿日:04/06/05 14:41
1週目が終わり先頭がスタート地点にやってきた。どこかの中隊がラップタイムを読み上げる「1分47、48、49、…」先頭は4分前半か3分台でゴールしそうだ
その後に鈴木士長のグループだ、しかしだいぶばらけてきている「2分20!21、22、…」赤城士長がタイムを読み上げる「鈴木は4分台でゴールしそうだな」
その後に田中士長が通過する「2分31!32、33…」少し苦しそうだ「このペースだと5分ぎりぎりか…」次に三島士長「2分45!46、47…」「これは5分30秒台かな?う〜ん…」
最後尾の東間士長が通過すると、コース周りの隊員が全部ゴール付近に集まってくる。もうすぐ先頭がゴールしそうだ「赤城、水を用意しておいて」「わかりました」そう言って野外机の上にコップを並べ、水を入れていく
歓声が上がった、先頭がゴールしたようだ。タイムは4分を切っているらしい「やっぱり持続走要員は違うね〜」感心したように小野3曹が言う「でも彼らを野外に連れては行きたくないな…」そうつぶやくのは佐々木3尉
「重量物を持ったりとかのタフさには欠けますからね」先任が同意したようにうなずく
鈴木士長がゴールした「4分42秒!」田浦3曹がタイムを書き込む「さ、歩いて歩いて…」赤城士長が誘導する「次来たぞ〜!」田浦3曹が叫ぶ
次にゴールしたのは田中士長だ「4分57か…5分切れたな」そして中隊の最後に三島士長が入ってきた「5分32、おいおい…」「でも前より速くなってるな」様子を見に来た先任がつぶやく
398 名前:まいにちWACわく!その110 投稿日:04/06/05 14:41
中隊が用意した机の周りに受検者達が休んでいる。整理体操をしている者、膝をついている者、倒れ込んでいる人に衛生が酸素マスクを持ってきている
「田浦、オレはどうだった?」息を切らせながら座っている田中士長が声をかける「4分57!5分切れましたね」そう言って親指を立てる田浦3曹
最後尾の東間士長が到着し、全員が集まっての整理体操となった。観客も全員が帰っている
先任や田浦3曹達も事務所に帰ってきた「いや〜やっと終わったな」嬉しそうに先任が言う「GWを潰した甲斐がありましたかね?」と田浦3曹が言う
「みんなのおかげでけっこういい成績が残せたな!」そう言って事務所に入ってきた中隊長「みんなもありがとう!GW分の休み、取れる時に取るようにな!」そう言って笑う中隊長
「そうそう休みが取れたらいいんですけどね…」そう呟く田浦3曹の机の上には、次の野営の計画書が乗っていた…
「ま、俺たちはともかく受検者には休みを取らせるか…」そう先任が言い、各小隊陸曹に休暇処置をさせた「後は中隊長の決裁だな」そう言って中隊長室に入った
「…というわけで休みを取らせようと…」「…そうだな、じゃあ処置を…」「…わかりました」
終礼後…帰ってきた受検者達を集めて先任が話をする「合格発表は6月の中旬、それまで服務事故とか起こさないようにな!」顔だけはまじめに聞いている
「それから…明日から日曜まで休暇になったから、ゆっくりと休むようにな」みんなの顔が一斉に笑顔になる
「休ませるってのはいいですね」事務所に戻った先任に田浦3曹が声をかける「そうだな。でも田浦、気をつけるようにな」「何をですか?」
「今の中隊長は事務所の要員や陸曹の意見をよく聞いてくれるが、人によっては『勝手に決めるな!』ってキレる中隊長もいるからな。よく人を見て行動するようにな」
「そうなんですか?ケツの穴の小さい中隊長ですね…」
「ま、なんにせよ無事に終わってよかったよ。これで肩の荷が下りた…」「いえいえ先任、次の野営が待ってますよ〜」そう言って書類の束を掲げてみせる田浦3曹
各結節はあっても、中隊本部の仕事はず〜っと続く…
399 名前:スキップ・ビート 投稿日:04/06/05 19:24
番外編・外出解禁
「いやァ〜娑婆の空気はナンテ清々しいんだ!」
候補生試験も終わり、三島と田島3曹は近所の焼肉屋「イムジン・リバー」までの道のりをプラプラ歩いていた。
「しかし外止めにしてまで訓練するんだから、中隊もよっぽど三島を陸曹にしたいみたいだな」
相変わらずの渋い声で田島が言う。 「国家の暴力ですよ!監禁までするなんて!・・・なァ〜んて左の人達みたいな事言ってみたりして」
おどけてながら三島が言った。久々の娑婆の空気が軽い躁状態をもたらしているようだ。
「ま、中隊としては雑用をこなせる<何でも屋>が欲しいんでしょうね」
正確な現状認識である。 「お前は嬉々として便利屋やってるからな」
「そっスね〜、連隊だけで煮詰まってるより世界が広がるンですよ。あんな棒持ってヤーヤー言って喜んでるンじゃダメっすな!わはははは」三島は銃剣道をロクに経験していなかった。若年の合宿隊にも参加していないので、どうしても銃剣道が優遇されるのに納得がいかなようだ。田島3曹がなだめる
「まァそう言うなや。ほら着いたぞ!ここのユッケは最強だからな・・・ん?」
入り口に何か貼ってある。「・・・クラブ・ザビ・・なんだろ?」
三島は「ヤバイ」と思ったが田島3曹はもう扉を開けていた。
400 名前:スキップ・ビート 投稿日:04/06/05 20:07
番外編・外出解禁その2
焼肉屋「イムジン・リバー」の店内は肉を焼く煙がたち込めていた。入り口にほど近い座敷に屈強な男たちが陣取っている。
2中隊の面々であった。2中隊は連隊内でも陸曹の発言力が特に強い中隊である。それは「レンジャーに非ずんば人に非ず」
という2中独特の不文律があるからだ。今日は2中隊の<ガンダムフリーク>を中心に、不定期に集会を開いている「クラブ
・ザビ」の宴会の日であった。ガンダムフリークとは言ってもザビ家への偏愛を信条とする、頑なな男たちである。その構成
員の濃さと、得体の知れぬ雰囲気を前に田島3曹は呆然としていた。と、そこへ稲村3曹が座敷からおりてきた。
「おう!!三島じゃねえか!お前もガンダム好きだったな!もちろんこっち側(ジオン)だろ?一緒に肉食ってけや!」
・・・声がかなりデカイ。筋肉も隆々である。そしてレンジャーだ。三島は稲村3曹の恐ろしさを、新教の頃に身をもって体験していた。せ
っかくの焼肉を一緒には食いたくない、かといって普通に断れるハズも無かった・・・。どうする?田島が目で聞いてくる。
三島の脳が高速回転を始めた。 「稲村3曹、自分はもちろんジオン側ですが、ランバ・ラル派なんです。ですからジオン・ダイクンには忠誠を誓いますが、この会に参加する程にはザビ家を愛していません」
稲村は目を見開いた。万事休すか・・・?
しかし次の瞬間、満面の笑みを見せた。 「そうか!じゃあしゃァねーな!参加したくなったらいつでも来いよ!」
そう言って稲村は座敷に帰って行った。 「失礼しますッ」
そう言って三島と田島は店を出た。 「三島ァ、お前とっさによくあんな事言えたな!」三島はニヤリとして
「雑魚とは違うのだよ、雑魚とは!」 この後二人は駐屯地からは少し離れた焼肉屋で腹を満たしたのだった。
番外編、不定期につづく・・・