まいにちWACわく!その83

番外編:レンジャー田浦の受難:中編

「…なんで?」目が点になる田浦士長「演習場内に勝手に入ったんなら、その人の責任になるんじゃないのか?
「まぁ理屈ではそうなんやろうけど…」言いにくそうな井上士長「新聞いうのが例の朝○やからなぁ…」

反自衛隊、反政府、親左翼的な記事を書く事で有名な「朝○新聞」その名を聞いた時、田浦士長の顔が歪んだ「朝○か…」「明日くらいに駐屯地に来るらしいわ」困った顔をして言う井上士長
「ま、師団から法務官も来るらしいし」別の同期が言う「気にするなよ、今はケガを治すことだけに集中しな〜」
その時、見舞い時間終了の放送が流れた「じゃ、また来るわ〜」そう言って同期連中は帰っていった

(朝○か…)田浦士長は松葉杖を手にベッドを降りた、向かう先は待合室だ。ここには2〜3日前までの各新聞が置いてある
目当ての朝○新聞を見つけ、待合室のベッドに腰を下ろす(たぶん社会面だろうな…)テレビ欄の方から新聞をめくる。昨日の新聞の社会面、その隅っこに小さくその記事はあった

「自衛官に銃を向けられ男性ケガ」
○○日午前9時頃、××村山中で同村に住む自営業の男性(56)が山中を歩いている時、突然訓練中の陸上自衛官に銃を突きつけられるという事件があった。男性はその場から逃げ出し、崖から落ちて全治2週間のケガを負った
隊員は△市に所在する第○○普通科連隊の隊員で、当日は山地に潜入して破壊活動などを行う訓練をしていたという
△市市会議員、岡ハツ子(社○)「訓練とはいえ一般市民に銃を向けるという行為は断じて許されません。厳重に抗議して謝罪と事件の再発防止を要求します」

松葉杖を引きずり、亡霊のようにズルズルと歩き病室に戻ってきた田浦3曹、脱力してベッドに倒れ込む
記事は確かに真実だ。しかし、真実の一部しか書いていない

その山中が演習場であったこと
その男性が勝手に演習場に入り込んでいたこと
破壊活動などを行う訓練…間違ってはいない、だが明らかに悪意ある書き方だ
そして、当事者とは言えない市会議員のコメントを載せること…

(なんなんだよ、これは…)嘘を書いてはいない、だが…明らかに不公平で尚かつ悪意のある記事
今まで自衛隊がこういう扱いを受けてきたことは知っている
それでも、自分が当事者になったからか…憤慨のあまりその日はろくに寝ることもできなかった田浦士長であった

翌日…夕方を過ぎて現れた見舞客は「よぅ、田浦士長!元気か?」制服姿で現れた中隊長、渡1尉だった
防大出のスーパーエリートで若干30才の中隊長。しかし嫌みのない豪放磊落な性格で、中隊の隊員からは好かれている

「ついてなかったなぁ、6想定までいっててなぁ」そう言う中隊長の胸には空挺徽章とレンジャー徽章が付いている
「いえ、それは仕方ないです。あの、中隊長…」言いよどむ田浦士長、さすが中隊長は伊達にエリートと呼ばれている訳ではない「例の件か?」「はい」
それを聞いてプッと吹き出す中隊長「いやいや、これが傑作なんだ…」そう言って事の顛末を話し始めた



連隊本部にある応接室、ここに件の男性、社○党所属の岡エツ子市会議員、そして朝○新聞記者にカメラマンが揃っていた
自衛隊側は連隊長、中隊長、レンジャー先任教官、そして師団から派遣された法務官だ

一言一句を記録しようと身を乗り出す朝○の記者、親の敵を見るような目で制服の4人を見る岡議員、そして頭に包帯を巻いた当事者の男性だが…なぜか落ち着かない顔をしている

「今回の一件は国家権力による明らかな人権侵害です!」開口一番、岡議員は飛ばし始めた
「これは憲法にも定められた国民の権利を侵害し〜(略)〜憲法9条に違反した自衛隊が〜(略)〜まるで戦前を〜(以下、同じような言葉の繰り返しなので省略)」
50年間自衛隊が言われ続けてきた罵詈雑言・誹謗中傷をそのままなぞるように、岡議員は5分間もしゃべり続けた
(おい、写真撮れよ)記者がカメラマンに命じるのが聞こえる。渋々といった顔でパチリと写真を撮るカメラマン
「以上、今回の件に対する政府および防衛庁・自衛隊の正式な謝罪と賠償を要求します!」そこまで言って椅子に座った

(これはどうしたものか?)(さぁ…)(いったい何が言いたいんですかね?)ヒソヒソと額をあわせて話す連隊長たち(まぁ…私が話してみます)法務官が言った
「え〜と…」法務官も困ったような顔を見せる「まず、あなたが連隊の隊員に追いかけられたのは、自衛隊の演習場であったことは知っていますよね?」当事者の男性に言う
「え…えぇ…」顔を伏せうなずく男性「そんなことは関係ないでしょ!あなた達には反省が…」口を挟む岡議員に法務官が「少々お待ちを」と言い放つ
「謝罪と賠償を求めるのは結構ですが…国の管理する敷地内に無断侵入したという事では、あなたも刑事犯に問われる可能性があるということですよ」そこまで言った時、またも岡議員が噛みついた
「まぁ!国家機関が国民に対して脅迫を行うなんて!聞きました?記者さん!」と新聞記者に向かってまくし立てる
「えぇ、これは明らかに国家権力の暴走ですよ!まるで戦前のようです!あぁ怖い怖い!」まるで首振り人形のようにうなずく朝○記者
「これは明らかに権力の暴走、戦前回帰よ!憲法違反の自衛隊が市民を弾圧する動かぬ証拠…」ここまで言った時、当事者男性が立ち上がった



「いい加減にしてくれ!だいたい話が違うじゃねぇか!」その剣幕に黙りこくる岡議員
「オレは『保険金の支払いが円滑に行くようにする交渉を手伝います』って言われたから来たんだぞ!」

ハッとした顔をする岡議員「あ…あの、ちょっと話し合いましょう?これから交渉を…」「なにが交渉だ!テメェらオレを何に利用しようってんだ!」拳を握り顔を真っ赤に染めている
「保険金ですか?我々も保険屋とは何かと縁がありますので…誰か紹介しましょうか?」話を聞いて事の顛末を知った連隊長が話しかける
「お〜そうですか?それは助かります…いやね、保険金が出るなら私も不満は…」当事者男性も連隊長の方を向いて苦笑いする
「な、何を言ってるの!?あなたは平和のために国家権力と戦うという気は無いの!?平和を愛する一市民として…」「うるせぇ!オレを政策に利用しようとしやがって…バカにすんな!」まるで子供の喧嘩だ

もはや大勢は決した
怒りに唇を震わせ、岡議員は席を立つ「これは国家権力と右翼反動の策謀よ!断固、抗議しますからね!」捨て台詞を吐いて風のように部屋を飛び出していった
「あ、先生!ちょ、ちょっと待って…」朝○新聞の記者も後を追って飛び出す、後に残るはカメラマンのみ…
「あの〜帰ってもいいですか…?」気まずそうな顔をしてカメラマンが聞く「えぇ、ど〜ぞど〜ぞ」笑いをこらえつつ中隊長が言った
「何でこんな仕事引き受けちゃったかなぁ…フィルムの無駄遣いだ…」一人ブツブツ言いながら、カメラマンは部屋を出て行った…



「いやいや、あれほど面白い『ショー』はなかなか見れんぞ」まるでおかしくてたまらない…という風に中隊長は語った
「どういう事だったんですかね?」話を聞いてるだけではイマイチよくわからない田浦士長

「要するにだ…社○党と朝○新聞が仕組んだキャンペーンだったんだよ。その男性を甘言で釣って俺たちを訴えようとしたんだな」そう言って大笑いする「ん〜な上手く話が進むかってんだ!なぁ?」
曖昧にうなずく田浦士長「え、えぇ…」その顔を見て笑いを引っ込める中隊長「ま、気に病む事はない。あの連中もせいぜいあと数年の命だ。よくわかったよ」そう言って窓の外を見る

「なぁ田浦、吉田茂を知ってるか?」唐突に話し始める「え?確か昔の政治家…首相でしたね?」
「あぁ…その人が防衛大の卒業式で語った言葉があるんだ」そう言って振り向いた中隊長

「君達は自衛隊在職中決して国民から感謝されたり歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。きっと非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う。
しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣のときとか、国民が困窮し国家が混乱しているときだけなのだ。
言葉をかえれば、君達が『日陰者』であるときの方が、国民や日本は幸せなのだ。耐えてもらいたい」
昭和32年2月、防衛大学校第1回卒業式にて

「ようするに俺たちは『日陰者』でいることを幸せに思うべきなのさ」そう言い残して中隊長は去っていった



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