まいにちWACわく!その

「は〜やっと終わった…」同じ頃、事務所の机に突っ伏すのは田浦3曹「やっとだな…あ〜疲れた」と背伸びをするのは中島1曹だ
ちょうど3科による「訓練管理」が終わったところだ。訓練の計画などは中隊長をはじめとする幹部の仕事なのであまり関係はないが、必要書類をそろえるのは訓練陸曹の仕事だ
「まぁ無事に終わりましたね」「そうだなぁ。しかし3科も無茶言うよな」3科長は訓練時間の少なさに不満のようだった。誰が支援や雑用を入れているのやら…
「ま、これも中島『曹長』が何とかしてくれますよね〜」と笑う田浦3曹、明日の7月1日は定期昇任の時期だ。中島1曹は明日「曹長」に昇任する。他にも数人の昇任者がいる

ふと事務所の窓から外を見る、各中隊から差し出された高機動車や1t半が到着している。そこから各教育隊や他の部隊で教育を受けた新隊員が降りてきた「お、後期新隊員か」と先任
「そういやWACが来るんでしたね…」と田浦3曹。重迫にWACが2名入ってくるらしい「重迫は一回失敗してるからな、慎重だろうな」と中島1曹
重迫には以前WACが2人いたが、わずか一任期で一人は退職、一人は師団司令部に転属してしまったのだ「そうだろうな、重迫先任直々のお出迎えだよ」
舎後には重迫の先任「千人しばいて先任になった」と豪語する飯島曹長が腕組みしをして立っている「あの顔見たら逃げるんじゃなかろうか…」「おまけに広島弁ですしね」

課業後、WAC隊舎…「お疲れ様です!」自販機が置いてある休憩所の前を通りかかった赤城士長に挨拶の声がかかる「あ、はいお疲れ様〜」と照れつつ返事をする赤城士長
「ちょうど良かった、二人を紹介するね」と近くにいた中村3曹がやってきた「彼女たちが重迫の新隊員ですか?」「えぇ、まずは…」二人がその場に立ち上がる
「国枝2士です!」と背の高い方が応える。身長は170センチ以上、すらっと背が高く大人びた顔をしている。実際年齢は23才の大卒、補士で入隊したそうだ
「森永2士です」背丈は155センチくらい、少しぽちゃっとした体型、顔は若く見えるが国生2士と同じ23才、こちらは会社勤めからの転職組だそうだ
(二人とも年上か…)訓練や勤務には年齢より階級や入隊年次が優先だが、私生活では年齢が絡む事もある。ただ誰もあまり気にはしていないのも事実である



同じ頃、中隊事務所…「少し遅くなりましたが、7月の勤務についての勤務調整を実施します」運幹・岬2尉の一声で勤務調整が始まった
「ではまず、7月の予定から」と田浦3曹「7月の…第2週ですね。皆さんお待ちかねの中隊検閲。知っての通り衛生小隊の検閲も同時に行います。それと月末に富士での野営…重迫と通信小隊の検閲ですね。主要なのはこれだけです」
「検閲に関してはもう計画が出ています。この通りに…」と岬2尉「月末の野営も中隊はほぼフル参加です。7月中旬を集中代休所得週間とします。代休を10日以上持ってる人は、なるべく消化するようにして下さい」
休日に勤務した分を「代休」として平日に取るのだが、忙しい人は休めないまま代休ばかりがたまっていくのだ
年末年始やGWなどの長期休暇にくっつけて代休を消化するのだが、それでもなかなか代休が減らないのもまた事実である
代休のない人間は普通の企業で言う有給休暇である「年次休暇」で長期休暇を取るので、不公平という声があるのもまた事実である

「こんなところですね…7月は何より『中隊検閲』が最優先です」と岬2尉が言う「他に何かありますか?」チラッと人事の倉田曹長を見る
「ん、人事から…転出入の時期が近いです。異動内示は明日出ますので、それから書類の整理をしようと思います」8月の異動は4月に比べ少ないので倉田曹長も余裕である
「補給!」「7月頭にテッパチの点検があります。細部はまた連絡します」と鈴木曹長。88式鉄帽・通称「テッパチ」はネットオークションや民間のミリタリーショップに出されるなど、何かと物議を醸す物品である。そのため点検もかなり多い
「給養!」「ん〜特にありません」 「武器!」「右に同じ!」
「通信!」「バトラーの数が決まりました。誰に付けるかは各小隊ごと」

「先任…ありますか?」最後に先任に話を振る「転出者の送別会、転入者の歓迎会について…幹事は順番通り1小隊と2小隊、基本的に陸曹以上の参加とします」宴会の話も大事である
「では中隊長」よっこらしょ…と中隊長が席を立つ「来月はとにかく中隊検閲!これ一本に考えてくれ。それでは解散!」



7月に入り、一気に暑さが増してきた感じがする。中隊にクーラーがあるのは中隊長室を除けば娯楽室と自習室だけだ(生活隊舎は建物に空調が入っている)
狭い事務所はただでさえ体格がよく新陳代謝のいい隊員たちが一杯、さらにパソコンやコピー機の熱気でサウナのような暑さである。こう暑いと仕事にも影響が…
「あ〜汗が地図に…」と呟くのは田浦3曹「まだ地図ならいいよ、オレなんかパソコンに汗が落ちてよ〜壊れなくてよかったよ…」と倉田曹長
脱衣許可が出てみんな上着を脱いでTシャツ一枚で勤務している。分厚い作業服や戦闘服よりははるかにマシである、靴は半長靴のままなので水虫は大繁殖してしまうが…

もうすぐ始まる「中隊検閲」に向けて中隊は全力で動いている。人事書類をそろえる倉田曹長を始め、中隊本部の各係も忙しくなっている
「弾薬配当…え〜っと、空砲が…」 「業天が…発電機を各小隊に…」
「参加者は…編成は…」 「車両の燃料…現地での燃料はどこで受領かな…」
書類に何か書き込む音、パソコンのキータッチ音、鳴り響く電話、指揮システムからはひっきりなしにメール受信音が鳴り響く

忙しいのは中隊本部だけではない、中隊の倉庫前では…「バラキューダはB型と…」「お〜い、野外机は何枚だ〜?」「天幕用の明かりは、球が切れてないかチェックしとけよ〜」
3t半トラックや1t半キャリアに荷物がどんどん積み込まれる。荷物を積む容積が少ない高機動車には、けん引して持っていくトレーラーに荷物を積み込む
「ハンドルちょっと右…左に切って〜はいストップ!」牽引車は「ジャックナイフ」と呼ばれる現象が起こり、バックする時のハンドル操作が難しい。けん引免許を取っても誘導は必要だ
「じゃあ、ここの荷物を積み込んでくれ」と指揮をとるのは1日付で昇任した中島曹長だ。他にも数名、7月1日付で昇任した

「あ〜待て待て、天幕は最後に積むんだ。現地に着いたら一番最初に出すだろ?」残念ながら昇任しなかった片桐2曹が若い隊員に指示を出す
「そうそう、一番最後に積めよ〜」人の言った指示を繰り返すばっかりなのは遠戸2曹だ。ある意味「終わってる」と称される遠戸2曹も今回の昇任はなかった。同期の片桐2曹も取りあえず一安心だろう
「よし、次は…これ積むか!」「りょうか〜い!やるぞ〜!」「ぅお〜い!!」と元気なのは1小隊の陸士たち。最悪の小隊陸曹だった木島曹長が1科広報に出されると発表されたのは先日の異動内示の時だ。その次の日から1小隊の面々はテンションが高まっている、非常にわかりやすいというか…

「で、1小隊は木島曹長の送別会するんか?」倉庫前に山積みされてる弾薬箱に腰掛けて休憩する井上3曹「え〜ど〜で〜しょ〜」ぼ〜っとした顔の小畑士長、相変わらず何も考えてないように見える
「したくね〜っすね」と別の1小隊陸士が答える「アイツと飲み会なんて、暴力事案がおこりますよ」と誰かが言う
「ま〜でもしないわけにはいかんやろ」と井上3曹「けじめやからな〜これが最後と思えば腹もたたんやろ?」
「う〜ん…」「中隊でやるから小隊はいらないんじゃ…」と陸士たち「正式な異動は来年だから、その時にやりゃいいさ」と1小隊の若手陸曹が言う
「ま〜これで1小隊の暗黒時代も終わりやな〜」と嬉しそうな井上3曹「次は木村1曹やろ?あの人体力錬成好きやからな〜これもこれで地獄かもな」笑いながら小畑士長の背中を叩く



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