まいにちWACわく!その44

ばっとかるま 番外編・募集戦隊チレンジャー

演習場整備も終わったある金曜日、中隊終礼で命令を読み上げていた先任が顔を上げた。
「明日土曜日、新隊員の採用試験が行われる。解っているとは思うが残留者は駐屯地講堂と衛生隊には不必要に近づかないこと。以上」

課業後、たまたま同じテーブルで食事をとっていた田浦3曹に赤城士長が聞いた「新隊員てこんなに早く試験やるんですか?」
「ん?嗚呼、違う違う今回やるのは8月あたりに入る中途採用の連中だよ」「あ〜、そう言えば2士は一年中募集しているんでしたよね」
すると、少し照れた様に田浦が「実は俺も4月じゃなくって入隊は11月なんだ」「へ〜、そうなんですか?」
田浦の以外なカミングアウトにちょっと赤城が驚くと田浦は話題を変えるかの様に「もっと詳しい話が聞きたければ佐木班長に聞くといいよ」と言った
「佐木班長ってうち(3小隊)の佐木2曹ですか?」「そ、あの人一昨年まで地連にいたから詳しく教えてくれるよ」


明けて土曜日、赤城は同期の橘1士と共に秘密の花園WAC隊舎から出てきた。「今からで間に合うかな〜」「う〜ん、10時半からの上映なら大丈夫だと思うけど・・・」
「パレスまで30分かかるとして・・・、あ〜やっぱ車の方が便利だよね〜」「でも、駐車場に入れるまで時間かかるんじゃない?」「は〜、そっか〜」

”パレス”とは駐屯地最寄りの駅から私鉄で20分ほどかかるターミナル駅の駅前再開発によって作られた大型複合施設だった。
ターミナル駅はJRと大手私鉄が乗り合う為、その集客力を見込んでショッピングモールの他、シネコン、アミューズメントランド、中小規模のホールなど入っており
不況のさなか(いや、不況故、だろうか)週末ともなれば家族連れからカップル、若い女性でにぎわっていた。
そのかわり予想に反して車で訪れる客が多く、周辺の駐車場問題が深刻となってもいる。
二人はそこで映画を見るつもりの様だった。


やかましい・・・・いや、かしましい二人の会話は続く
「そう言えば中森さんが」中森とは橘と同じ衛生小隊の中森秋絵のことである。赤城達とは同期であるが
25歳で入隊したため赤城達から見ればずいぶん「お姉さん」である。中森自身が姉御肌な事もあって課業中でもない限り赤城達は”さん”付けで呼んでいた。
「中森さんがこのあいだ言っていた、エスニックのお店」「”ムーンウオーク”だっけ?」「そう!お昼そこにしない?」
そんな会話をしながら正門へと歩き出した。
いつもなら外出はもっぱら自転車だが今日は二人ともおしゃれをしているため駅まで徒歩で向かう。(と言っても歩いて10分くらいだが)


隊舎を出てすぐ二人は駐屯地講堂の前にさしかかった。
「不必要に近づくな」とは言われていたモノのWAC隊舎からだと正門へ出るのにここを通るのが近道なので仕方がない。
と、二人はほぼ同時に見慣れぬ男が講堂の入り口に立っているのに気が付いた。

男は赤城達の制服とほぼ同じデザインながら色は陸上の松葉色ではなく青を基調とした服を着ていた。
(空自の制服だ!)次兄翔次郎の制服姿を見たことがある赤城は一目でそれが空自の制服であることがわかった。(まあ、色遣いを見れば一目瞭然だが) 年の頃は20代後半だろうか? 肩にはこれまた陸とデザインは同じながら色違いの3曹の階級章を付け、腕には「地連」と書かれた腕章をしていた。
思わず二人は立ち止まり声をそろえて「お疲れさまです!」と挨拶をした。すると、その広報官はニコリと答えた「おはよう!」

「びっくりした〜。あたし空自の人って初めて見た」広報官に声が聞こえないだけの距離をとると早速橘がひそひそと話しかけた。「龍っちゃんは?」 「あたしは二番目のお兄ちゃんが空自にいるから・・・」「あ、そっか〜。でも、あんなに若い広報官もいるんだね」「ユキの担当だった人ってどんな人?」
「う〜んとね、たしか曹長でヒョロってした人」「あたしは反対だったな〜。1曹でドラえもんみたいな体した人だったよ」
と、そこで橘がニヤリと「でも、龍っちゃんの担当だった人大変だったんじゃな〜い?」赤城も笑って「そうかも、あんまり家に来たくなさそうだったし」


二人が正門に通じるその名も「正門大通り」に差し掛かると前からまたもや見慣れぬ男が歩いてきた。しかも今度は3人。
一人目は20代半ばらしく髪をそろえ、スーツ姿だった。おそらくサラリーマンをやっているのだろう。サラリーマンは赤城達を一瞬見たがすぐに正面を向きせかせかと歩いていった。
二人目は先ほどのサラリーマンとは正反対に金髪をスーパーサイヤ人の様にたてていた。格好も派手なTシャツにハーフパンツ姿。サイヤ人は赤城達に好奇(下心をプラス)の視線を浴びせ続けながらだらしなく歩いていった。
三人目はこれまた先ほど二人とはタイプが異なり、長く伸ばした髪を後ろで束ねた色白眼鏡だった。格好はシャツにジーンズ。赤城達にはおどおどした視線を向けていた。


3人が通り過ぎたところで今度は赤城が「なに?あれ?」と、つぶやいた。「受験生・・・だよね?」橘も3人のあまりのタイプの違いに驚いている様だった。
(田浦3曹もあんなカンジだったのかな〜)と、赤城は少し田浦に対する認識を変えた。
正門で警衛隊に敬礼し門を出ると、そこにはいかにも「地連のおじさん」っといった1曹(こちらは陸だった)が立っていた。ボードを持っているところを見ると、受験生をチェックしているらしい。
ちょうどまた受験生が来たらしく名前を聞いている。(タイプは二人目に近かった)
おそらく部隊にいれば小隊陸曹として陸士達を厳しく鍛えているはずの1曹が出来損ないのパンクみたいな若者に優しく話しかけているのを見ると、赤城達は少し悲しくなった。
道すがら「地連の人も大変だね」とつぶやく橘に赤城も「うん・・・」と答えるのが精一杯だった。しばらく歩くと橘は「映画・・・思いっきり景気のいいヤツにしようか」と、赤城に勢いよく問いかけた。
「そうだね!スカッとするヤツにしよう!」
赤城達の週末はまだ始まったばかりなのだ


週が明けて月曜日、 この日は初夏の陽気に誘われて草が勢いよくのびたおかげで中隊総出で草刈りとなった。
金曜日に田浦が行ったことを思いだした赤城は、休憩の時をねらって佐木2曹に土曜に見たことを話した。
「あ〜、そんなのいつものことだか気にする必要はないよ」佐木2曹は噴き出る汗を拭きながら言った。
「あんな連中のだって、バブルの頃に比べたらすっとましさ」「まあ、俺も人のことは言えないが昔は酷かったからね」「尤も不況だからって、黙っても人が集まると勘違いしている方面とか部隊に連中には参るけどね」
「人って・・あんまり集まらないんですか?」おそるおそる赤城が聞くと「集まらないって言うか、このご時世、フリーターでも何とか喰っていけるだろ、若いウチは」
「それに高在性が受験する9月はともかくこの時期だと春に進学したり就職したりした連中はまだ辞めていないからプラプラしているの自体少ないしね」 と、旨そうに麦茶を呑んだ


佐木2曹は一息つくと意外なことを赤城に言った。
「もし今後、臨勤でもいいから地連に話が来たら一回言ってみな。柵の中と違って世界が広がるぞ!」
「柵、ですか」赤城がクスリと笑うと、佐木2曹は「ああ、そうだよ。いいか、自衛隊って柵の中にいる限り良くも悪くも世間の荒波からは隔離されて生活しているんだ」
「特に営内者なんかは外出しなくっても生活していけるだろう。でも、昔っから娑婆はそんなに甘くはないんだよ」
「だからせっかく定年で再就職を見つけたのに自衛隊の癖がぬけなくてすぐ辞めたりするのも多いしな」
「CGSを出た幹部が一般企業に出向して1年くらい研修する制度だってあるだろ。アレだって世間を少しは知ってこい、ってことから始まったはずだぜ」
赤城は佐木2曹の言っていることに少なからずショックを受けた。(考えてみれば、ウチの家族ってみんな自衛隊だもんな〜。そんなこと考えたこともなかったな〜)
それを見た佐木2曹は笑いながら「あんまり深く考えるな。とりあえず赤城は仕事を覚えて一人前になる方が先だろう。まだ定年までに30年以上有るんだから。」
「まあ、そう言う考え方もある、ってことだけ今は知っておきな」
そう言われて少し気が楽になった赤城は「はい!そうですね」と、明るく笑い取り合えず今日の敵、伸びきった雑草へと立ち向かっていった。

地連番外編 一応終わり



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