まいにちWACわく!その36

スキップ・ビート 番外編・三島士長のマイペース

皆が宴会で盛り上がる中、三島は中隊本部の廠舎をシレっと抜け出していた。#2野営での三島の役職は「中隊本部通信手」であった。生来の人見知りしない性格、妙に気が利く所を買われて中隊長及び本部全般の伝令兼通信陸曹補佐として参加しているのだった。先程も持って来たウクレレで「ホテル・カリフォルニア」を披露して本部のオジサン連中、特に中隊長に大ウケしていた。宴会も半ばを過ぎた頃を見計らって、三島は外に出てきていた。とりあえず便所に向かうと、ちょうど河原が小便をしていた。隣の便器につくと
「あ、オス!」と言ってヒョコっと頭を下げてくる。
「おう、河原くん。宴会はどうかな?」 三島が小便を始めると、河原は手を洗いに行きながら答える。
「いや〜、ウチの小隊はよそと比べて食い物や酒がもの凄く充実してますよ!」
その赤ら顔は楽しそうな表情だ。 「三島士長も遊びに来て下さいよ!」
三島は手を洗いながら 「まァボチボチ遊びに行くわ」
曖昧に答えて便所の外で別れた。三島は自分の小隊はちょっと苦手だった。普段でも「吐くまで飲む迫小隊」などと言われている連中が、ヤマに来ておとなしくしているワケがない。酒を飲まない三島にとっては、小隊に顔を出すのはあまり気の進む話ではなかった。ポケットに手
をつっこんで歌を歌いながらブラブラする。 「♪し〜あ〜わ〜せ〜を訪ねて〜 わ〜た〜しは〜行きた〜い〜♪」ちょっぴり孤独を感じたので電話をかける。相手は中央音楽隊の宮野ちゃんだ。彼女は「ビートルズ信者」というのが共通点だった。しかし6回電話を鳴らしても出ないのであきらめた。青木や上田に電話しようかとも考えたが、なんとなくやめる。ふと独り言を呟いてみる。
「男は時に、孤独でいい・・・」 自分で言って笑ってしまった。歌の続きを歌いながら本部に向かう。
「♪イバラ〜の道も 凍てつ〜く夜も 二人〜で渡っ〜て行き〜た〜い〜♪」

こうして演習場の夜は更けていくのであった・・・

番外編、不定期につづく



飲み会はまだまだ続く「木島曹長や遠戸2曹はともかく、小畑士長は何で入隊できたんですかね?」もっともな疑問を口にする赤城士長
「どんなに試験の競争率が高くても、やっぱりああいう人間は入ってくるものさ。曹学だって…」言葉を切る田浦3曹「いたでしょ?」
「まぁいましたけど…」「そういうもんやって、入れる側のえら〜い人達は全然考えてないからなぁ」そう言って笑う井上3曹
「えら〜い幹部の皆さんかて変人多いで、前にどっかの特科の大隊長が露天風呂覗いて捕まったって聞くしな」
「…」家族のほとんどが幹部自衛官の赤城士長は複雑な顔をしている。その表情に気付いた田浦3曹が「…おい、井上…」と肘で突く「ん?何や〜」鈍感な井上3曹は気付かない
横で聞いてた片桐2曹が気を遣ってフォローを入れる「ま、組織っていうのはそういうものだよ。米軍から北朝鮮軍まで、国連から町中の中小企業まで、全員がスゴイ組織なんてそうそう無いさ」
「特殊部隊とかはどうなんですかね?」田浦3曹が聞く「ああいう所は選考の段階でかなり削られるからな、それでも『不良品』が混ざる事はあるだろうな」
「不良品って…」「工場とかの検品と一緒、必ず不良品が出るものさ。どんなに慎重にやってもな」片桐2曹は工場勤めの経験もある

「ところでその1小隊は何してるんですかね?」鈴木士長が言う「宴会するって言ってたよ」とは田浦3曹だ「若い連中は嫌がってたけど…」
「そりゃ〜イヤやろ、酒がまずくなるわな」と井上3曹「それもあるけど…」言葉を濁す田浦3曹「どうしたんや?」
「ジメジメのヤツな、若い連中から半強制的に宴会代取ってるんだよ、小隊会費って名目でな」「そうなの?」佐々木3尉が聞く「えぇ、で、若い連中は下働きとかでそんなに飲めないでしょう?」
「ん〜それはいかんな…」唸るのは片桐2曹だ「自分の飲む分だけ金出したらいいのにな」「かなり若い連中に鬱憤がたまってるみたいで…」ため息をつく田浦3曹
「そういうのを見るのがイヤだからこっちに来たんですよ」と田浦3曹、中隊本部は1小隊と同じ廠舎だ
「中隊本部はどうしてる?」「三島が盛り上げてるので問題ないですね」その三島に「後は頼む!」と言って逃げてきた田浦3曹であった


「ま、あれだな。『会社は選べても上司は選べない』ってやつだな」とは小野3曹だ。足下にはビールの缶が10本ほど転がっている
「お、何だ小野?オレは選びたくない上司だったってのか〜?」そう言って小野3曹にヘッドロックを噛ます神野1曹
「アイテテテ…いやいや、大満足っす!3小隊バンザイ!」ヘッドロックをふりほどきながら言う小野3曹。みんなも一斉に笑う
「じゃ、我がすばらしい3小隊に…乾杯!」佐々木3尉が〆の挨拶を行い、飲み会は終了となった

WACが泊まる廠舎に向かう赤城士長、外に出ると月がまぶしいくらいに輝いている
部屋に帰ると通信小隊の中村3曹、衛生小隊の橘1士がいた。二人とも雑誌を読んでいる「ただいま〜」そう言ってドアを開ける赤城士長
「おかえり〜飲み会どうだった?」「楽しかったよ、ユキは行かなかったの?衛生は飲み会してないのかな?」「1時間前に終わったよ〜」
寝具を出して寝る準備をする3人「明日歩くのは赤城だけね」と中村3曹が言う「えっ、そうなんですか?中村3曹は?」
「私はCPで無線手、一晩中ず〜っと無線機の前…」つまらなさそうに言って笑う「私はアンビ(救急車)に乗って最後尾を前進するよ〜」とは橘1士だ
「あら〜寂しいなぁ…」とぼやく赤城士長であった


翌日の午前中は行軍準備、背のうの整理や武器の脱落防止などをしている「背のうの荷物は重いモノを上に…」「雨はどうかな?だれか天気予報知らないか〜?」
井上3曹が携帯で天気予報を見る「晴れ時々曇り、降水確率30%か…微妙やな」それを聞いた神野1曹「雨衣準備しとけよ〜」
小銃の部品が落ちないように、各部品に黒テープを貼っていく「部品がポロポロ落ちる武器なんて怖いさ〜」とは具志堅士長だ「最初から落ちない用に作っとけってんだ」とは鈴木士長だ
雨の可能性があるので、銃口にビニール袋をかぶせてテープで巻く「ビニールあります?」赤城士長が言う「そこの箱にあるよ」と片桐2曹
「松浦、知っとる?」新兵(補士)の松浦士長に井上3曹が話しかける「何ですか?」「米軍とかは砂漠で埃が入らんように、銃口にコンドーム巻くらしいわ」
ちょっと引く松浦士長(…赤城がいるのにそんなデカい声で…)と目で合図する、が井上3曹は気付かない「そんなんを普段から持ってるってのがすごいわな〜」と大きな声で言う
後で聞いていた赤城士長、だが動じず「でもコンドームってネバネバしません?」と平気な顔で井上3曹に話しかける
「!」すっかり赤城士長の存在を忘れてた井上3曹「え、あ、そうやね〜」逆に女の子に言われると照れる井上3曹であった


昼からはゆっくり休憩(仮眠)そして1700,夕飯の時刻になった。みんな少し多めに食事を腹に入れる
1800に集合、岬2尉が全員の前でコースの説明を行う「SPは廠舎の入り口、演習場を出て部外の道を歩く。民間人とのトラブルは避けるように!」いつも言われてることである
「大休止は0100、村役場駐車場前だ。おにぎりの炊き出しがあるから期待しておけ。最後の2行程は演習場内を歩く、RPは同じく廠舎入り口…だが、我が中隊は予定通りこのまま訓練に入る!」
行軍終了後、演習場の一部を使いゲリラ掃討のための陣形を作る訓練を行う…それが今回の演習の目的だった「質問は?」無し「では中隊長…」岬2尉が引っ込み中隊長が前に出る

「一見いい天気だが、いつ雨が来るかわからん。準備はしておけ!ちょうどいい気温で月もまん丸だ」みんな空を見上げると、ほぼ満ちた月が空を照らしている
「いつも言ってる事だが今回も言う、脱落率0%を目標とする!以上」中隊長の話も終わり、中隊は行軍隊型に移行する

きょろきょろと辺りを見渡す赤城士長「どうした?」通りかかった田浦3曹が聞く「いや、例の3人はどこかな〜と…」「あの3人なら歩かないよ」「?」
木島曹長は安全係、ジープでよその中隊に付いていくわ、遠戸2曹とオバQは不寝番&廠舎監視、適材適所さ」肩をすくめて歩き出す田浦3曹であった



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