まいにちWACわく!その35

「『ジメジメ』こと木島曹長、『ジ・エンド』こと遠戸2曹そして…『オバQ』こと小畑士長…」一息ついてビールを一口飲む田浦3曹
「以上3名を1小隊の『最悪3兄弟』もしくは『税金泥棒3兄弟』というんや」後を引き継いだのは井上3曹だ
演習も2日目になり、今晩は廠舎で小隊の飲み会だ。弾薬箱を椅子にして、テーブル代わりの衣装ケースの上にはビールにおつまみ等々が並んでいる
「ビールにおつまみ…レモン酎ハイは?」「ハイ!私です」赤城士長は女の子らしくビールではなく酎ハイだ
「さ、乾杯しますか」小隊長の佐々木3尉が言う「何に?」意地悪そうに片桐2曹が突っ込む「それは…行軍頑張ってねってことで!かんぱ〜い」
ビールの缶があちこちでぶつかって3小隊(+中隊本部1名)の宴会が始まった

「そういや田浦、本部の方はいいのか?」「昨日飲み会しましたからね、仕事もありませんし…」「ま〜ま〜いいやないですか!」そう言うのは井上3曹だ

「自衛隊には陸海空あわせて25万人の隊員がいるんだから、上から下までいろんな人がいるんだよ」さっきの話の続きを始める田浦3曹「組織である限り仕方ないんだけどね」
「や、でも皆さん何か特技があるんじゃ…」「いや、無いな。この3人のエピソードを語り始めたら朝まで続くよ。聞きたい?」「ダイジェスト版なら…」


「そうだなぁ…まずは木島曹長からだね」そう言って田浦3曹は一口ビールを飲む「あの人は元々連隊本部の1科にいたんだ」
「1科?」「そう、庶務とか人事の担当だね。あの人は最悪だったらしいよ…詳しくは当時連隊長伝令だった大沼3曹に」そう言って隣で飲み会をしていた迫小隊・大沼3曹に話を振る
「ん?ジメジメの話か…思い出したくね〜よ」大沼3曹は少し広がった額の汗をぬぐって答える「ま〜ま〜そう言わずに…」するめいかで買収する田浦3曹
仕方ないな…という顔をして大沼3曹が体を向ける「ま〜1科でも評判は悪かったな。幹部や上級者にはヘコヘコ、連本や各中隊の下級者には高飛車で…」そう言ってするめいかを囓る
「中でも書類関係に細かくてね。文章の発簡なんかも1科の仕事なんだけど、文書の書式が5mmでもずれてたらネチネチと説教たれてやり直しをさせるんだよ」「それは…真面目だとか?」赤城士長の発言に首を振る大沼3曹
「自分で作らないといけない書類をオレとかにふって、できあがったら自分が作ったように科長とかに持っていくんだよ。で、書類で何か言われたらこう言うんだよ」そう言って木島曹長のモノマネをして言った
「『いや〜大沼に作らせたんですが、やはりミスがありましたか。指導しておきます!』…ってね」フンと鼻を鳴らしビールを飲む
「『指導』って言葉は便利だよな。上官は何をしても『指導』と言えば無罪放免なんだから…」そう言ってため息をつく大沼3曹

「と言うわけさ、わかった?」赤城士長に聞く田浦3曹「その後連隊長の推薦もあり師団司令部へ転属。でも仕事自体できる訳じゃないから2年で追い出されて今に至る…てわけさ」
「…そんな人もいるんですね」ビックリしたように言う赤城士長「まだまだ続きはあるよ、次は遠戸2曹のエピソードを…」


「遠戸2曹と片桐2曹は新隊員同期なんだよ」そう言って片桐2曹に話を向ける「…同期って言うな」不本意そうな片桐2曹
「オレは入隊時ですでに20代半ばでな、アイツは高校出て1年フリーターをしてたんだよ。ちょうどバブルの真っ最中だったな」そう言って遠い目をする
「あの時の新隊員は凄かったぞ。右と左がわからなかったり自分の名前が書けなかったり…ヤンキー崩れもゴロゴロいたな。今の状況からは想像もできんだろ?」
うんうんとうなずく赤城士長「ま、その中ならアイツも普通だったわけだ。さすがに最初の実弾射撃で連発させたのにはビビッたが…」
「64式でですよね?普通は間違えないでしょう?」田浦3曹が言う「普通じゃないって事さ、まぁ他にも伝説はあるわけだが…」そう言ってニヤリと笑う
「行軍中に『足がちぎれる〜』って泣き出したり、ストーブにガソリン入れて危うく天幕を全焼させそうになったり、まぁとびっきりなのは…」グビッとビールを流し込む
「陸教で機関銃を入れたまま掩体を埋めた事かな?」ブッと酎ハイを吹き出す赤城士長「機関銃!?」
「ま〜時間が無いってせかされたんだろうな。で、パニクって機関銃を埋めちゃったと…」3小隊の面々も笑っている「ビックリしたやろな〜」と井上3曹
「オレはアイツより8期後に陸教に行ったんだが、その時点でも伝説になってたな」小隊の面々も口々に「オレも聞いた」「オレも〜」と騒々しい
「なんで陸曹になれたんですか?」もっともな疑問を口にする「そういうヤツでも陸曹になれる時代だったのさ…」そうため息をつく片桐2曹であった

「最後は小畑士長、彼はデカいだろ?」「ええ、180以上ありますね」「だから目立つんだよな〜アイツに関しては…同期の鈴木に語ってもらおうか」


「う〜ん…そんなに面白いエピソードは無いですよ」悩んだように言う鈴木士長「まぁせいぜい『半日の便所掃除』くらいですか」
「半日?」「うん、教育隊で点検のあった日にみんなで手分けして部屋とか公共場所の掃除をやってたんよね」どんな教育隊でもある話、だが…
「便所とか乾燥室、廊下とかを掃除してね。午前中で全部終わって班長が点検してた時に小畑がいない事に気が付いたんだよ」「いなかった?」
「うん、で、探してみたら…」一旦言葉を切る「朝イチで終わらせたはずの教場横の便所を一人で延々やってたのさ」教場は生活隊舎から少し離れている
「『何でこんな所にいたんだ〜』って聞いたら、『誰も〜やめろって〜言わなかったから〜』だって…」口まねが小隊に大受けした。全員大爆笑だ
「半日も…」「オレならお断りだね〜」口々に小隊の隊員達が言う

「ま、他の中隊とかにも伝説の隊員はいるんだがな。この3人が我が中隊の『3兄弟』さ」そう言って笑う田浦3曹「人によっては『妖怪』とか『特殊部隊』とか言うんや」後を引き継いで井上3曹が言う



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