まいにちWACわく!その21

「起床!」そう言って金田3曹はみんなを起こす
「たった今、有線が切断された。これから各班で断線箇所を発見、修復をせよ。早くしないと寝る時間が削られるからな!」

2班は最初に森の中を張った線が切られたようだ。冬木3曹と森1士が構成先から、山崎士長と赤城1士が交換所から断線箇所を手探りで探していく
「線を引っ張って手応えがなかったら断線を疑うんだぞ、明かりはあまり使うなよ」と金田3曹。ただ今日は月が満月に近く、葉っぱの少ない森の中は想像以上に明るかった
二人は無言で有線を手でもって探っていく、赤城1士が先行し山崎士長は後からついて行っている。そして…「あれ?」赤城1士は小さく声を上げた
目の前には冬木3曹がいた「無かったですか?」そう尋ねる「あぁ、そっちも?」どっちも断線箇所がないまま合流してしまった。とその時「あったよ〜」と言う声が赤城1士の後から聞こえた

「ほら、ここだよここ」そう言う山崎士長の持つ手には、確かに切れた有線があった「…見逃してました」顔を赤く染めて赤城1士が言う
「まぁまぁ、そのためのバディーだから。さてチェックするか…」そう言って冬木3曹は電話機を繋ぎ交換所へチェックの電話を入れた。断線が1カ所なのを確認後に接続、これが手順だからだ
青のフィルターで弱められた懐中電灯の明かりを頼りに接続を終わらせて2班は天幕に帰ってきた。どうやら一番乗りのようだ
「一番に見つけたんだから上出来だよ、さぁ明日も早いから寝ようか」そう言って冬木3曹は横になり、5秒後にいびきをかき始めた

そんな中赤城1士だけが、少し悔しそうな顔をして毛布をかぶっていた…


翌朝5時…追随構成の準備のため、学生たちは全員起床した。3班を2つに分けて他の班に合流させ、1コ班6名編成となった
攻撃発揮位置には支援要員が準備を完了していた「0630攻撃開始、各班は中隊長から離れないように!」中隊長役の陸曹は鉄帽にしろテープを巻いている
「おはよう赤城、よう寝たか?」声をかけてきたのは井上3曹だ「少し…」小さな声で答える
「そっか、置いてかれんように着いてくるんやで?」そう言って井上3曹は前に走っていった

0630…日が上がり始め、やっと人の顔が判別できる明るさになってきた「攻撃開始!」中隊長役の陸曹が指示を出し、各隊員は道路沿いの林に沿って進んでいく
攻撃目標は小高い丘の上にあるトーチカで、2コ班が西と北から攻撃をかけるシナリオである。仮設敵も数名準備されており、陣地を構えて待機している

「前方に機関銃陣地!これ以上前には進めません!」前方に出ていた班員が中隊長の所まで報告にくる「よし、射撃支援を依頼しよう」そう言って電話機を取る。傍らには肩で息をする冬木3曹と森1士の姿があった
赤城1士はどうやら遅れているようだ、支援射撃中に追いついてきた
「大丈夫か?」冬木3曹が聞く「はい、行けます!」そうは言うが息が激しくなっている「まぁとにかく少し休みな」班員たちはそれぞれ警戒に付き息を整える

「突撃支援射撃終了5秒前…3,2,1,今!」そう中隊長が叫び、各隊員がトーチカに向かって突入していく
「よし、行くぞ!」冬木3曹が言いドラムを持つ、班員たちも立ち上がり走り始める
トーチカまでは少し急な原っぱで、もう有線を縛着していく必要はない。冬木3曹たちを援護する形で班員は坂道を駆け上がる…二人遅れが出ている、山崎士長と赤城1士だ
「ほら、行け行け!」後から追い立てるのは金田3曹だ、攻撃開始以来妙にハイテンションである

有線が追いついた時には、各隊員がトーチカを占拠し全周警戒の配置に付いていた。さっそく電話機をつなげ中隊長に差し出す
「こちら中隊長、トーチカ占拠しました!」と報告、なにやら指示を受けている。そして電話機を置いた中隊長は「状況終わり!」と嬉しそうに叫んだ


「よ〜し状況終わり、各人武器装具の点検!」金田3曹が2班の班員を集め指示を出す
特に以上もなく電話機を使い金田3曹が報告する、そして「30分休憩したのち有線の撤収にかかる、それまで休んでおくように」と班員たちに指示を出す

「ふ〜終わった終わった…」冬木3曹が腰を下ろす「いやいや、状況開始はこれからですよ。撤収のね」とは森1士の弁だ
赤城1士は木にもたれかかりため息をつく「どうしたんや?」そこに声をかけてきたのは井上3曹だ
「いえ、ちょっと疲れました…」珍しく弱音を吐く赤城1士「相当堪えたみたいやな、これからもきついぞ〜ついてこれるか?」「…やるしかないです!」少し意地になったように答える
「ま、ボチボチ頑張り〜な」そう言って井上3曹は立ち去っていった…

有線の撤収が終わり、演習場を出発したのは14時を少し回った頃だった。中隊の高機動車を運転するのは田浦3曹、横には井上3曹だ
「やっと帰れる…でも帰ったらまた書類が山積みなんだよなぁ」そうぼやく田浦3曹であった
「…」井上3曹が珍しく押し黙っている「どうした?」田浦3曹が尋ねる
「不安材料が残ってもうたな」「ん?彼女の事か?もっと前向きに考えたらどうだ?初の状況で緊張してたからとかさ」
「でもなぁ…こればっかりはどうしようもないやろ?体力云々の話やないからなぁ…」そう言って前を走る1t半を見る。そこには荷台で熟睡している赤城1士の姿があった…


「疲れた…」駐屯地に帰ってきて終礼が終わり、営内班のベッドに倒れこんだ赤城1士はそう一言つぶやいた
「あら、お疲れね?」そう言うのは中村3曹だ「そんなにハードだった?」
「いえ、彼女『あの日』だったので…」そう言うのは中森1士だ。心配で部屋まで見に来たようだ
「そうだったの?」尋ねる中村3曹「…弱いところを見せちゃいました〜」泣き言を言う赤城1士「情けないとこ見せちゃったなぁ…」
中村3曹が頭をひねる「そう?気にすることないわよ」顔を起こし赤城1士がきょとんとした顔をする「そうですか?」
「そうよ、体に何かハンデのある人なんか自衛隊にはたくさんいるんだから」「?」「例えば…中隊に腰を痛めてる人っていない?」
身を起こし考える赤城1士「そういえばいますね。よく訓練なんかも免除されてる人も…」「でしょ?あとは膝とか首とかね。そういう人たちと私たちが生理になるのってどこが違うのかな?」
考えた顔をする赤城1士、さらに続ける中村3曹「赤城はちゃんと最後まで訓練をやり遂げたんだから、最初から何もしない人たちに比べたらはるかにマシよ。自信持ちなさい!」そういって肩をたたく
「…ハイ!」少し元気が戻った赤城1士であった



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