まいにちWACわく!その20

「彼女、生理じゃないですか?」森1士は開口一番ズバリと言い放った「…そうなのか?」「そうかもしれんな、でもどうしてそう思う?」金田3曹と冬木3曹が尋ねる
「全くのカンですが…僕の彼女も生理の時はあんな感じなんです」
「だが今まであの子がそんな風になったのは見た事無いぞ?」
「山ですし、今日は特に冷えますから」「う〜ん…」そう言って二人の陸曹は押し黙る
「確か衛生のWACが救護員で来てたよな?中森だったかな?」と金田3曹が思いついたように言う「そうですね、一応言っておいたほうが…」と冬木3曹も同意する
「冬木、言ってきてくれ」「え〜オレですか?やっぱり助教の口から言った方が…」「そんな女の子の前で『生理』だなんて…」意外とシャイな金田3曹
「あの子なら経験豊富そうだから大丈夫でしょ」とは森1士の弁だ「じゃあ森、言ってきてくれ。彼女とは同期だろ?」「…まぁいいっすよ、じゃあ言ってきます」

廠舎の救護所には衛生小隊の陸曹と中森1士がいた「姐さん、ちょっと…」同期の間から「姐さん」のあだ名で呼ばれている中森1士であった
「どしたの?」「いや、ウチの班の赤城が…どうも生理みたいでしんどそうなんだよ。でさ、様子を見ておいてもらえないかな〜と金田3曹が言ってたんだよ」
「そうなの?わかったわよ、まぁでもあの子は生理軽いからそんなに心配しなくてもいいわよ」あっさりと答える中森1士「そう?こればっかりは男にはわからないからね」照れたように頭を掻く森1士
「辛いわよ〜味わわせてやりたいわ」そう言ってニヤッと笑う中森1士であった


2班の有線構成が始まった。冬木3曹と森1士で159ドラムを持って森の中を歩いていく。その後から付いてくるのは山崎士長と赤城1士だ
(あいたた…お腹痛いなぁ)そう思いつつ有線を縛着していく赤城1士、やはり森1士の予測通り生理中のようだ。傍目から見ても動きがよくないのがわかるらしい
「よし、半分来たな。じゃあ交代だ」金田3曹が指示を出す「山崎と赤城、ドラムを持って前進だ。…赤城?いけるか?」心配そうに聞く金田3曹
「ハイ、いけます!」キッパリと言う赤城1士だが、やはり金田3曹には不安のようだ「無理はするなよ」と声をかける
(意地になってるのかな?危ない兆候だな…)

カラカラカラ…冬の静かな森の中をドラムが回転する音がこだまする、雪こそ無いがやはりかなりの冷え込みだ。みんな着込んでいるので動きにくそうだ
山崎士長と赤城1士は身長差もあまり無く、二人でうまい具合にドラムを保持している。だが…「…わぁ!」赤城1士が足を滑らせた拍子に山崎士長がドラムを落としてしまった
「あぁ、ゴメン!」「…いえ…」やはりちょっと不機嫌なようだ

そんなこんなで徒歩構成が終了、電話機を使い交換に連絡する「…次はJDR−8だ、いったん戻るぞ」連絡を終えた冬木3曹が班員を引き連れていく

一人で持てるドラムJDR−8はその構成距離も短く、その分構成時間もあっという間に終わる。そして最後の「車両構成」までの間に休憩する事となった


「ふぅ…」廠舎近くに設置された交換所に帰ってきて、さっそく一服つける森1士「あと一本か〜楽勝だね!」と明るく言う「そうだね…」やはり元気のない赤城1士
そんな時、左手に赤十字腕章を巻いた中森1士が通りかかった「やってますね!差し入れですよ」そう言って冬木3曹に乾燥梅肉を手渡す
そして道ばたの石に座っている赤城1士の隣にやってきた。そして顔を一目見るなり「何日目?」と小声で尋ねた

「3日目…だからあと少しだよ」そう答える赤城1士「無理しちゃダメよ、あとあと班のみんなに苦労をかける結果になるんだから」そう諭す中森1士。確かに症状が悪化して後送することになれば、同じ班員が迷惑するだろう
「引くのも任務のウチよ」「うん、でも大丈夫!ホントにダメになったらちゃんと言うから…」

通信小隊の1t半が帰ってきて、いよいよ車両構成の時間だ。荷台に固定してあるリールに159ドラムを乗せて、いよいよ構成が始まった
「今回も役割分担は交代する。車に乗ってドラムの速さの調整をするブレーキ手と、車の後を走り有線を縛着する縛着手だ」そう金田3曹がいい、まずは山崎士長がブレーキ手をする事となった

車は小走り程度のスピードで進んでいく。ドライバーは通信小隊のベテラン陸士だ
3人は道ばたの木や電柱、草などに次々と縛着していく。慣れてないとすぐに車に置いて行かれるため、かなり素早い動作が要求される
「ん?」車のすぐ後を走る冬木3曹が後方を振り返る、すぐ近くに森1士が有線を縛着している「赤城は…?」少し離されているようだ
「ドライバー、スピード落とせ」車に同乗していた金田3曹が声をかけると、1t半は歩くスピードくらいまで速度を落とした
そうして赤城1士が追いついてきた「やっぱりしんどいのか?いつもならこれくらいは楽勝だろ?」「すみません、ちょっと遅れて…」少し息が荒い
「着込みすぎじゃないか?そんなに寒いか?」外被の上からでもわかる着込みようだ「あんまり着込むと動きが鈍くなるぞ。そろそろ交代だしブレーキ手に付きな」金田3曹が声をかける
「まだ大丈夫…」「いや、完全にバテる前に休んだ方がいい。回復が遅れるからな」そう冬木3曹が言い山崎士長を引きずりおろす
「…」確かに冬木3曹の言うとおりだ、内心悔しいが仕方なく車に乗る赤城1士だった…


学生たちが廠舎近くに業務用天幕1号を建てる、通称インディアンテントとも言われかなりの人数が宿泊可能だ
当初は「赤城は別に…」という案だったが、本人の希望により同じ天幕に泊まる事となった
「ま、どっちにしろ服も脱がないし、オレも泊まるしな」廠舎で食事を取るのは金田3曹、田浦3曹、そして井上3曹だ
「夜中に状況作るんやって?」そう聞くのは井上3曹だ「この寒いのに…」
「そうでないと訓練にならないだろ?でも赤城は体調悪そうだったなぁ…さっきもメシをあんまり食べなかったみたいだしな」と田浦3曹「せっかく腕によりをかけて作ったのに…」
「生理らしいんだ、女にしかわからん辛さだからどうしようもないんでな」と金田3曹「そうなのか?」「それはしんどそうやなぁ」
「あまり無理はさせたくないんだが、本人にも意地があるからな」「そりゃあこの状況で泣きは入れれんわなぁ」井上3曹が同意する
「まぁ何とか明日の朝までもってくれればいいんだがな、じゃあオレは行くよ」そう言って席を立つ金田3曹

「心配通りやったなぁ。ホントにウチに入れて大丈夫なんやろか?」「珍しく心配性だな、まずは挑戦あるのみだろ?『誠実・真剣・挑戦』さ!」新しく作られた「誇り高き陸上自衛官の心得」を引用する田浦3曹
「『真剣』やない『献身』やろ?大丈夫か訓練陸曹…」突っ込む井上3曹だった

天幕内はストーブの熱気で少し暑いくらいだった。日没まで構成しててクタクタの学生は、もう全員が熟睡している。明日は5時に起きて追随構成の準備に入る予定だ
12時を少しすぎた頃、「ピーッ」と天幕に笛の音が響いた



BACK HOME NEXT