まいにちWACわく!その13

そんなこんなで年末行事当日、接遇要員の3名は1科広報室に集合した
「じゃ、今日はよろしく頼むよ」広報班長・杉山准尉が言う。取りあえずは行事が始まる前の控え室でのお茶だしがある
「何人くらい来るのかな?」お茶の用意をしながら橘2士が言う「15人って予定表には書いてあったわよ」お茶請けを準備しながら村瀬士長が答える
3人とも浮かない顔だが、一番顔に出てるのは赤城1士である。普段の明るい雰囲気とはまったくの別人のようだ

控え室に来賓たちが入ってきた。父兄会や「励ます会(どういうネーミングだ?)」の関係者数人と、残りはOB連中だ


だいたいの人たちがにこやかに談笑する中、ソファーにふんぞり返って座っている人間もいる。どうやらOBのようだ
「おいそこのWACよ、酒は無いんかい」爪楊枝を咥えた60代と思われるバーコード禿げ・太鼓腹のOBが村瀬士長を呼びつける
「すいませんこちらではお出ししてません…会場のほうで出ますので」丁寧に頭を下げて答える「…フン、女はこれだから…」ボソッと呟く太鼓腹
その様子を見ていた赤城1士の顔色も変わる。思わず一歩を踏み出そうとしたとき「お茶のお代わりいただけますか?」横から妙齢の婦人に声をかけられた

「あ、はい」気勢をそがれ素直にお代わりを持ってくる赤城1士。ご婦人は品のよさそうな70代、父兄会の関係者のようだ
「ありがとう、男ばかりの普通科では大変でしょう?」そう声をかけるご婦人「はい、でも希望ですから…」
「私の時代は婦人自衛官も少なかったのよ、今は女性自衛官と言わないといけなかったのかしら?」そう言って小首をかしげる「WACでいいと思いますよ」お茶を出しつつ赤城1士が答える

そうこうしてるうちに年末行事が始まった「では、会場へご案内します」杉山准尉が来賓を連れて行き、広報室に静けさが戻った


「まったく…頭にきますね!」そう怒ってるのは橘2士だ。背の低さと顔立ちから「怒ってる」より「すねている」感じだ
「こんなものよ、OBなんかまともに相手にしない方がいいわよ」冷静な村瀬士長だが、顔は明らかに不機嫌だ
「…」無言なのは赤城1士、怒っているようだがさっきのご婦人も気になるようだ

「や〜ご苦労さん。後は行事が終わってからだね、来賓の方たちがここで談笑されるからね。この後もよろしくたのむよ!」空気を読まないのは1科長だ
「取りあえず行事でも見てくるかい?」「私は何度も見てるからいいです、赤城たちはどうする?」村瀬士長が尋ねる
「じゃ、取りあえず行ってきます」「私も行ってきます」二人とも行くようだ「じゃあ行事が終わったらまた来てくれ」


体育館の台の上では、ちょうど隊員によるカラオケ大会の真っ最中だった。みんな酒が入ってるせいか、けっこう盛り上がってるようだ まぁもっとも、誰も歌なんか聞いてはいないようだが…

「あら?後藤くん歌うみたいよ」台上を指差し橘2士が言う。情報小隊の曹学・後藤1士が台上で長淵剛を熱唱している
「アイツね〜けっこう目立ちたがりなのよね、陸教でもさ…」赤城1士はやや呆れ顔だ

後藤1士の熱唱が終わり、カラオケ機の採点が始まった「さぁ何点でしょうか?…46点!ざんね〜ん」司会のおどけたような言い方にみんなドッと笑う
「あら〜駄目だったね」橘2士が残念そうに言う「ただ怒鳴ってるだけじゃない?歌じゃないわね」赤城1士は冷静&辛らつだ


なんだかんだで年末行事も終わり、赤城1士たちは広報室に帰ってきた
「来賓の皆さん酔ってるだろうから、あんまり真剣に相手しないようにね」村瀬士長が二人に言い含める
しばらくして、来賓たちが談笑しつつ帰ってきた。みんなけっこう上機嫌である
「あの時の演習では…」「三島由紀夫の決起演説の時なんて…」「安保の時はな〜…」どうやら思い出話に花が咲いているようだ

何人かは帰ったようだが、OBを中心にまだそこそこの人が広報室で話している
「この隊舎も昔はぼろぼろだったのになぁ…」「昔の訓練場が倉庫になっとった!悲しいのぅ…」杉山准尉は聞き役に回っている

「おいコラ、何ぼさっと立ってるんだ。さっさと酒注げや!」さっきの太鼓腹が空き缶をまとめていた3人のところにやってきて捲し立てた
「申し訳ありません、もうお酒は…」村瀬士長が答えたが「あ〜?言い訳か!女はこれだから…」またブツブツと言い始める


赤城1士がキレた「女だからなんだと言うんですか?」コブシを握り太鼓腹の前に立つ。かなり怒っているようようだ
太鼓腹は少し迫力に押されたようだが、すぐに文句を言い始める「なんだぁ?お前みたいな小娘がオレに反抗するのかぁ?てめぇ何様だ!『上官の命令』に服従せんのか!」
「あなたは上官ではないし、礼儀も知りません。まともに人間扱いしたくもないですね!」負けじと言い返す赤城1士
さすがに回りも騒ぎに気づき、広報室はシンとなった。村瀬士長も橘2士もオロオロしている。杉山准尉も席を立ったが、間に割って入れないようだ 「手前らみたいな女が偉そうに普通科に来るってに我慢ならん!ケツでも触らせとったらいいんじゃ!」そう言って右手で赤城1士の尻をなでるように触った
「!」さすがに我慢の限界、赤城1士の右正拳突きが放たれようとした


赤城1士の拳は、横から伸びてきた手によって止められた。太鼓腹は声を失っている
「…いいパンチじゃのぅ」横から手を伸ばしたのは、隊内クラブ「一番星」オーナーの権藤店長だった
「権藤店長…?」赤城1士はキョトンとした顔をしている、太鼓腹は目を見開き「ご、権藤1曹…」と驚きと恐怖の入り混じった顔をしている

「小倉!このボケ!行軍もろくに歩けんかったてめぇが偉そうに普通科を語るな!」権藤店長の拳が太鼓腹=小倉の頭を直撃する
「す、すみません…」「すまんですむか!この自衛隊の恥さらしが…このボケ!」さらに5,6発の拳が叩き込まれる
「もう引退されたかと…」「てめぇみたいなボケを放っておけるか!さっさと帰れ!」ケツに蹴りを入れて広報室からたたき出した


「すまんかったのぅ、あいつは昔から性根が腐っててなぁ」権藤店長はすまなそうに赤城1士に謝った
「いえ、そんな…」恐縮する赤城1士「危うく暴力事案を起こすところでしたから」

「や〜権藤1曹!元気ですか?」「権藤助教!お久しぶりです」何人かのOBが権藤店長に挨拶する「おぅ、元気だったか」そういう権藤店長もうれしそうだ
「あら権藤さん?お久しぶりです」先ほどの上品なご婦人が挨拶する「やぁ東雲1尉、まだまだお若いですな〜まだ看護婦を?」
あっという間に権藤店長の周りは人でいっぱいになった。それを見て赤城1士は思う (こういうOBの人もいるんだぁ…)



赤城は不思議に思った 自衛官って何をしたら、いいのだろう?
元看護婦の1尉 今だに人望ある店長 その店長の一活で立ち去ったセクハラ親父
接待で一日の仕事を終わった私 飲んで歌っての隊員・・・


早く、演習を経験したいなぁ この日ほどそう思った事はなかった。接偶も終わり、中隊に帰ると皆、少し紅い顔して、「お疲れさん」と声を掛けてくる 先任が「終礼後少し話しあるから」と言われた
多分、さっきの話だろう
終礼が終わった


先任と中隊長室に入り 「赤城、短気はイカンゾ」と初めから言われる
すいませんとなんども言い 中隊長室をでる 少し落ち込んだ赤城
と、そこで「よっ!どした?元気ですか〜?」と肩をポンと叩かれる
後ろを振り返ると三島だった

よく見ると私服来ている。「三島士長、どうしたんですか?」「消防隊今日の朝、下番してなぁ、代休なんだよ、それよりどした?なんか、元気ないんじゃないか?」赤城は笑いながら、そんな事と言うが、言うだけ惨めさが増してきて、涙を流していた 「赤城?」


「なんか悔しい事あったんだな?」「・・・」何も言えない赤城
「自衛官してると、そんな日の1回、2回はあるんだ、赤城チャン今日外出か?」「ハイ、一応・・・」「中隊の若いの、落ち込んだ時、心の清掃出来る場所あるんだ
俺は最近使ってないけど 申し送るよ。」


夜 赤城と三島の運転する車に乗っていた 三島と二人で外出は嫌だったので橘や中森にも声掛けたが二人とも残留だったのだ
しかし、心の洗濯場にも興味がある 赤城は覚悟を少しもち三島の車に乗ったのだ


到着。上星空 下夜景 「うわ〜」「どう?元気出そう?」「ハイとても!申し送り、確かに!」と興奮してる。三島は笑い「ごめん、実はここ、中隊で知ってるの俺と赤城だけ、俺、雑用多いだろ
今は平気だけど昔は、嫌でさ」落ち込んだ時、ここに来てたのだと教えてくれた


「自転車でも20分でこれるよ」と三島 赤城は満足している
「くしゆん」と赤城 やはり冬 寒いのだ 三島は「おぉ、大事な戦力に風邪引かせちゃ大変!」といい着ていたジャンバーを赤城に掛けてあげた・・・


帰りの車の中で・・・「三島士長は優しいんですね」「そう?」と三島
「はい、噂で、全国のワックのアイドルとか、今ならなんか解ります」三島は苦笑いしている
「今日はありがとうございました」グー 腹がなった


赤城は照れながら「落ち着いたらお腹へっちゃったみたいです〜」「よし、ご飯食べ行こう、パスタは好き?」「はい」「よし、旨い店あるんだ!いくぜぃ」と張り切る三島だった


パスタ屋 ミスト お洒落な店だった 楽しそうに、カップル達が食事している
赤城と三島もはたからみると二人もカップルに見えるだろう
窓際に座りパスタを食べてる二人を眺めていた人物がいる
田浦三曹である



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