まいにちWACわく!その11

最後の落ち葉の山を資材運搬車に積み込み、とりあえず作業終了となった。雨も小降りになってきたが、作業が終わってからはれてもなぁ…と内心思う中隊本部の面々であった。
「ふ〜終わった終わった、みんなお疲れさん!」作業の長に当たった補給・東野1曹が言う、(赤城はどうかな?)田浦3曹はチラリと横を見る。
赤城1士は震えながら手に息を吐きかけている、雨衣はずぶ濡れだが新品なので染み込んではいないようだ。
「お疲れさん、疲れたか?」声をかける「少し…でも大丈夫デス!」少し苦笑いする
「落ち葉とか雑草って、雨を吸い込んで重くなるからな。明日あたり腕がパンパンになるぞ」「今日が金曜でよかったです、雨も上がりそうだし…」空を見上げて赤城1士が言う。
「週末は何するんだ?外出簿には実家って書いてあったけど?」とんぼを肩に担いで歩きながら田浦3曹が聞く
「今晩は前に言ってた飲み会です、日曜までいったん実家に帰って荷物とってきます」
「例の親父さんはいるの?」「いえ、母と祖父母と弟だけです」ゴミ袋を持って赤城1士は答える
「そっか、確か電車で1時間くらいだったな。気をつけてな」


「先任、終わりましたよ」事務所に戻ってきて東野1曹が報告する「おぅ、お疲れさん」先任が書類から顔を上げて答える
「次からはもっと作業員取ってやりましょうや、受け持ち業務も止まるからまずいんだよね」車両・水上1曹が渋い顔をする
「すまんな〜1科が急に言ってきたもんでな、各小隊も急に人が出なかったんだよ」申し訳なさそうに先任が答える

「先任、赤城はこの土日に実家に帰るようです」先任の机に向かい田浦3曹が報告する「そうか、まぁ構わんだろう」
「あと今晩はWACだけの飲み会だそうです」「そうか…」「ちょっと本管の中村3曹に、男関係の探りを入れてもらいますね」「そうだな、まぁ心配はしてないがな」
田浦3曹は脱いだ雨衣を廊下に掛け帽子をかぶる「じゃあちょっと通信小隊の倉庫に行ってきます」

通信倉庫は駐屯地の隅っこにある、無線機の手入れをしていた中村3曹を呼び出す
「…というわけで、探りを入れてもらっていいかな?」「わかりました、でも皆さん心配性じゃないですか?」少し呆れ顔の中村3曹が言う
「俺もそう思うんだけどね、中隊長よりもっと上が心配してるみたい」ぼんぼん顔の連隊長が思い浮かぶ「社会人なんだから大人扱いすればいいのに…」
「自衛隊って過保護なところがあるからね、問題を気にしすぎてるのかな?」「そうですねぇ…」
若い二人には昔の自衛隊がマスコミからどんな目にあってたかよく知らないようだ
「まぁ頼むわ」「わかりました」


ショットバー「アーティラリー」は駐屯地に程近い駅前にある。店名が示すように元自衛官が経営する店である
店長は某地対艦ミサイル連隊を任期満了退職、その後亡くなった父親の居酒屋をショットバーに改造した。お洒落な店内と自衛官割引が利くのとで、若い隊員には好評である

「かんぱーい!」店の奥のボックス席でカチャンとグラスが合わさり、WACだけの飲み会が始まった。
通信小隊からは中村頼子3曹、東間理沙士長、村瀬香織士長
衛生小隊からは橘ゆきえ2士、中森秋絵2士 そして主賓の赤城龍子1士である

「もう何日も顔をあわせてるのに宴会って、なんかヘンな気分よね〜」東間士長が言う
東間士長は無線班所属の22歳、173センチの長身はよく目立つ。連隊の誰かと付き合ってるらしいが、その現場を見たものはいない
「まぁバタバタしてたからね…」か細い声で村瀬士長が言う
村瀬士長は同じく22歳で信務班所属、身長153センチのずんぐり体型である。彼氏はいないらしい
二人とも中村3曹の同期である
「この時期って忙しいんですよね?」橘2士が聞く
今年入隊の橘2士は19歳、身長が149センチしかない「見込み入隊」である。普通科に配属され最初はビクビクしてたが、最近は慣れてきたようだ
「自衛隊が忙しいなんてろくなもんじゃないわね〜」ドンとジョッキを置いて中森2士が言う
中森2士は連隊独身WAC最年長の25歳、168センチのすらっとした体型であり、シャバでの職歴も多彩でホステスもやったという噂がある。師団衛生隊に彼氏がいるが破局寸前だそうだ


わいわいがやがやと飲み会は続く
「今日は落ち葉拾いだったんですよ〜これも忙しいっていうのかな?」赤城1士が言う
「ウチは廊下とかの清掃やったよ、年末休暇前に点検があるからかな?」橘2士はウーロン茶をすする
「毎年同じ事やってるからねぇ、こんなんで税金使っていいのかしらね」東間士長はサラダを独り占めしている
「それが自衛隊だもん、2曹教なんてもっとひどかったのよ〜」中村3曹はカクテルを一気に飲み干す
「服務の2曹教ですか…通信小隊は何で仙台に行くんですかね?」年下でも先輩だから、中森2士は敬語で聞く。飯の数は当然ながら優先されている
「あそこにしか普通科とかの通信の教育してないから…」か細い声で村瀬士長が言う
「で、赤城はどうすんの?」中森2士が聞く「何を?」「陸教よ、部隊通信出たら仙台なんでしょ?」「そうとも限らないわよ」横から中村3曹が言う
「一応は小銃か軽迫モス(特技)になるのよね?」「そうです、できればそのどっちかで行きたいですね」「男ばっかしなのに…怖くないの?」恐る恐るといった感じで橘2士が聞く
「ウチは家族も男ばっかりだもん、大丈夫!ユキは気にしすぎよ〜」赤城1士は明るく言って酎ハイを飲む


「で、その男はどうなの?」中村3曹が聞く「へっ?何がですか?」キョトンとした顔をする赤城1士
「ナンバーなんていったら独身の若い男ばっかりでしょう?いい男とかいないのかな〜てね」中村3曹が探りを入れる
「あたしも聞きたいな〜」「どうなの龍ちゃん!」「それは興味あるわね…」「あさり放題だもんね?」みんな興味津々のようだ

「う〜ん、まだ中隊に入ったばっかりだからねぇ。それに今は彼氏作る気無いしね。まずは仕事を覚えなきゃ!」
「まじめねぇ、ホントにいないの?ほら、ウチに入った曹学の子は?」東間士長の言うのは曹学同期、後藤1士の事のようだ
「あの情報の大きい人?」身長185センチの後藤1士は、橘2士には巨人に見えるらしい
「喜一ちゃんですか?アイツとはあわないです!」「何で?けっこうカッコいいじゃない、たくましいしね〜最近の若い人は細いのばっかりだから」中森2士はお気に入りのようだ
「彼とは格闘技の話をよくしたんですけど…」後藤1士は「プロ格闘家」を目指していたらしい「でもアイツったら『格闘技は体格で勝負が決まる』なんて言うんですよ!」
「それはでも事実の一つじゃない?」柔道家でもある中村3曹は冷静だ「結局あの古賀選手だって、無差別では優勝できなかったんだし…」
「格闘技の技術って、体格差を克服するために生まれたものだと思うんです!」熱く語り始める赤城1士、みんな苦笑いしてる
「まぁまぁ、男としてみたらカッコいいんだしいいんじゃない?」タバコをくわえて中森2士がなだめる

その様子を見て中村3曹は思った(彼氏は当分できそうにないわね〜)



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