課業後…中隊長室に先任と田浦3曹が入り、ドアを硬く閉ざした。
「とりあえず一日目は何事もなかったな」中隊長が口を開く「まぁ第一段階はクリアしましたね」先任が続ける。
「まず明日は、被服や武器の交付があるな」「それと申告です、連隊会議室に0750集合ですね。中隊長と私が臨席します」「そうか、わかった」
一息入れて中隊長が口を開く「ところでだ、こないだから頼んでた件はどうだ?」
赤城1士の着隊前に、中隊長は「不穏分子」の割り出しを先任と田浦3曹に依頼してたのだ「だいたいわかったか?」
「では自分から、営内陸士の不穏分子は…」田浦3曹が報告する。
「まずは三島士長、危険度はハブ並です」二人ともうなずく「中央音楽祭り支援に出したら、次の年に5人ものWACやWAVEから年賀状がきたヤツですからね」先任が続ける。
「南は九州、北は旭川からだったな…」中隊長も呟く「正式な抗議も無いので、強く指導もできません」先任も渋い顔をする。
「次に坂本士長、飲み屋の姉ちゃんたちをナンパするのが趣味のようなヤツです」「前に営門前で、バーの姉ちゃんにグーで殴られてたな」 「ただ対戦小隊なので、接点は少ないですね」
「次に通信補佐でよく来る野尻士長と具志堅士長、接点が多くなりますから…」「二人とも彼女は?」「いません」
「とりあえず営内陸士はこんなところですね、あと彼女の同期となる1士2士連中ですが…」続けて言う
「10人の新隊員の内8人は彼女がいます。残る二人は松浦1士と須藤2士、ただこいつらは二人とも3小隊ですので接点は少ないです」
メモを置いて一息入れる「危険な連中は以上です。やはり三島が危ないですね」
続いて先任が言う「陸曹の不穏分子ですが…」
「まずは3小隊、井上3曹と坂本3曹ですね。井上はイメクラ好き、坂本はキャバクラ好きです」「つまり女好きって事だな?」
「井上は射撃指導係ですので、接点も少なくありません」井上3曹は3小隊のスナイパー要員である。
「坂本は車両整備に回ってます。こいつは大丈夫でしょう」
「次に黒瀬2曹、これまた飲み屋の姉ちゃんをナンパしまくってます」「借金はどうなった?」「何とか完済させました」
「とりあえず危険な連中は以上ですね」
「黒瀬は1小隊だったな」「接点は少ないですね」…少し考え込む中隊長。
「不穏分子はわかった、あとだ…彼女が惚れそうな隊員というのはわかるか?」顔を見合わせる先任と田浦3曹「惚れそうな、ですか?」
「う〜ん、男と女の価値観は違いますからなんとも…」田浦3曹も困り顔だ。
「そうですね、営内陸士なら3小隊の鈴木士長ですね」田浦3曹が少し考えて言う「顔も悪くないですし、レンジャーですからね」
「まぁ真面目なヤツだから、つまみ食いみたいな付き合い方はしないと思いますよ。それに候補生試験の方もありますし…」先任が続ける。
「陸曹なら『アニキ』こと神野1曹ですね」3小隊の小隊陸曹・神野1曹は若干33歳。空挺レンジャーで射撃・格闘とも特級。
難病の妹さんの看護のために空挺から転属してきて3年、卓越した戦技能力と厳しくも優しい性格から「アニキ」と呼んで慕う隊員も多い。
「ただ危険度は全隊員共通して持ってますね。田浦だってそうですよ」先任が言う「え〜WACに興味はないですよ、しかもド官品ですし…」
そう言う田浦3曹だが、一瞬肩の痛みとともに中村3曹の顔が浮かぶ。あわてて首を振り幻影を追い出す。
「どうした?」先任が聞く「いえ、なんでも…」
「まぁとにかく、・処置不穏分子は早めに発見・処置が必要だな」中隊長が言う「我々のEEIは、『不穏分子は誰か?その行動は?』だ」
「わかりました」「了解です」二人が答え、会議は終了となった。
「しかし3小隊の名前ばっかりあがりましたね」と田浦3曹「まぁ若い連中ばかり集めてる小隊だからな」と先任。
「何か理由が?」「10年位前の中隊長の方針でな、『1,2小隊を前衛に、3小隊を遊撃隊として使う』と決めたんだ」
「だから若い佐々木3尉が小隊長なんですね」納得したように田浦が言う「そういや佐々木3尉も危険要素だな…」先任が呟く。
「さて、俺は帰るわ」先任が帰り支度を始める「今日は早いですね?」「重迫と本管の先任と飲みに行くのさ、情報収集だよ」「あ〜なるほど…」
「じゃ、お疲れさ〜ん」先任が事務所を出て行く「お疲れっした〜、自分ももうすぐ帰ります」