95 名前:まいにちWACわく!その186 投稿日:04/10/01 14:39:50
休みも明けて週の真ん中水曜日、今日は連隊の持続走大会である「なんで週の真ん中なんだ…しかもこの期末に…」グランドで野外机を設置しながらぼやく田浦3曹
「ま、そう言うなって〜」とは田中士長だ。リアカーから中隊ののぼり、やかん、コップ、クーラーボックスなどを取り出す
ここはグランドのゴール付近、ゴールに到着した隊員のために水などを準備してるのだ。グランド沿いの道路の向こう側には、3科の天幕が立っている。机の上にパソコンなどが置いてあるのは集計のためだろう
「ところでオレの後は誰が来るの?」と田中士長。陸曹候補生に合格した田中士長は7月から小隊に復帰する。中隊長伝令(ドライバー)兼給養付の陸士を誰にするか現在調整中なのである
「そうですね…鈴木あたりが有力ですよ」鈴木士長は先の試験で惜しいところで不合格となったのだ「あとはパッとするのがいないでしょう?」「誰でもいいから早くして欲しいよ。申し送りがあるからなぁ…」
普段より少し早い朝礼の時間に合わせ、中隊事務所前には続々と人が集まっている。グランドから帰ってきた二人は事務所に向かう。とそこで赤城士長を見かける田浦3曹「おっ赤城〜!」と声をかける
「おはようございま〜す田浦3曹」と笑顔で挨拶「おう、おはよう。ところで…月末に新隊員のWACが入ってくるらしいんだ。聞いたか?」渋い顔をして答える赤城士長「田浦3曹で6人目です…」
朝イチに顔を出した中隊本部の前で人事の倉田曹長から、事務所の先任から、小隊長と小隊陸曹から顔を見るたびに同じ事を言われたらしい
「そうなの?まぁ大事な事だしな〜連絡無いよりいいじゃん!」苦笑いして答える田浦3曹であった
96 名前:まいにちWACわく!その187 投稿日:04/10/01 14:40:19
持続走大会の開会式に合わせて中隊の朝礼も早い。今日の持続走大会の流れは…
0800 開会式(グランド) 0900 Aグループ(持続走錬成隊&各中隊上位者)出走
0930 Bグループ出走 1000 Cグループ出走
1030 Dグループ出走 1400 Eグループ出走
1430 Fグループ出走 1500 Gグループ(連隊本部幕僚&各中隊長・先任・幹部)出走
1630 閉会式(連隊本部隊舎前) コースは駐屯地外柵コース(1周2km)を2周半の5km、参加隊員の平均タイムで中隊の順位が決まる。個人は幹部・陸曹・陸士で上位10人(幹部は3人)まで表彰される
97 名前:まいにちWACわく!その188 投稿日:04/10/01 14:40:53
「今日一日はしっかり走って欲しい、無茶をしろとは言わないが妥協はするな!今年こそ連隊No1を目指すぞ!」中隊長もテンションが高い
中隊の朝礼が終わり、グランドに前進する中隊一同。ジャージに識別帽、中隊旗といったヘンな格好の田浦3曹が先頭を歩く
パッパッパッパカパ〜♪とラッパが鳴り響き連隊本部隊舎前に国旗が掲げられる。0800、今日も一日の始まりだ。連隊のほぼ全隊員がグランドに整列している
「連隊長臨場、部隊気をつけ」司会が言う「きをつけ〜」各中隊長の声が響く。連隊長が朝礼台に上がる「連隊長に敬礼!かしら〜なかっ!」全隊員が連隊長を注視し、連隊長も敬礼を返す
「薄く雲もかかり、走るにはちょうどいい天候になった。これも日頃の隊員たちの行いがいいからだと…」相変わらず話が長い。聞いてるフリはしているが、皆心ここにあらずといった感じだ
「…ただし無茶はするな。危険な兆候を感じたらすぐに止まるように!死ぬまで無茶はしないように…」毎年数人は持続走で死亡者が出ている自衛隊なので、健康管理にはかなりうるさい
今回の大会もけが人や「健康上問題のある隊員」は除外されている。心電図を取り出走前の問診も行い、自衛隊病院から医官も呼んでいる
開会式も終わり、各グループごと解散となった。Aグループは早速アップを始めている「Aは誰が走るのかな?」と事務所前の名簿を見る先任。名簿には持続走錬成隊に籍を置く陸曹1名、陸士2名を含む20名の名前がある
「たぶん全員20分以内で入るでしょうね」後ろから田浦3曹が声をかける「オレは最後か…勘弁してくれよな〜」泣きそうな声を出す先任だった
98 名前:まいにちWACわく!その189 投稿日:04/10/01 14:41:58
午前中最後の組、Dグループが集合している。ちょうどBグループが出走したころだ「よ〜し、体操は…小野、頼むわ」グループ長の木村1曹が言う
「へいへい、…手組んで上〜」適当に散らばっているメンバーの真ん中で小野3曹が体を動かす。田浦3曹の前には赤城士長がいる
(赤城はCかBでもよかったかな?)と思う田浦3曹。短パンに薄手のTシャツを着た赤城士長が号令に合わせて体を動かしている
「体の前後屈〜」体を前に倒し足の裏側と腰を伸ばす(おっと…)目の前の赤城士長から目をそらし下を見る田浦3曹。さすがに若い子がケツを突き出すカッコを注視するのは気が引ける
頭を下げて腰を伸ばしたり、大股を開いて股関節を伸ばしたりする。まったく無防備な赤城士長を後ろから見て少し邪な考えが頭をよぎる。よく見たらスポーツブラ?の線もTシャツの下から見える
(…う〜ん)頭を振り邪念を追い払う田浦3曹であった
体操も終わり軽くジョッグで体をほぐす「あ〜自信ねぇな〜」「テキトーに走ろうぜ」などという声も聞こえる。と言っても実際走り始めるとみんな真剣になるのだが
(この辺は高校生とかと変わらんよな)と思う田浦3曹、無口なのはホントに自信がないからだ。隣を走る赤城士長が声をかけてくる「田浦3曹、自信あります〜?」
首を振り「無い…」と答える「ここのところあんまり走ってなくてな〜まぁもともとそんなに速くないんだけど…」「今までの自己ベストは?」「5km?う〜ん、確か20分42秒…」
「オレはもっときついと思うぞ〜この体型だからなぁ」珍しくウツな表情の小野3曹が声をかけてくる。レスリングをやっていた小野3曹は筋肉質、短パンTシャツからはみ出た手足は丸太のように太い
「痩せてる方が有利ですもんね」「何が嫌いって、走るのが一番嫌いだよ…」はぁ、とため息をつく小野3曹だった
99 名前:まいにちWACわく!その190 投稿日:04/10/01 14:42:41
愚痴っても嫌がってもスタート時間は迫ってくる。出走10分前の点呼時間に間に合わせるように、各中隊の隊員達が集まってきた
ゴール付近ではちょうどCグループが続々とゴールしている。Aグループの一着は15分代という化け物のようなタイムを出していたが、さすがにCくらいになると17〜22分くらいに収まっている
「田浦はどのくらい?」と小野3曹「そうですね〜目標は22分以内ですかね?」今までのベストと比べるとかなり遅いが仕方ない「じゃあ田浦についていこうかな…」
天気は相変わらず曇っている、湿気があるので快適とは言えないが、カンカン照りよりはまだマシだ。衛生小隊の橘1士が問診中だ「今朝、ご飯を食べてない人いますか?…」
小さい体で大きな声を張り上げる。一部隊員にマニアックな人気があるらしい…という噂を田浦3曹は聞いた事がある
持続走錬成隊や若手隊員ばかりのAに比べるとB〜Dグループは若手陸曹や中堅隊員が多い。周りにも顔見知りが…「田浦〜お前もここか」通信小隊の金田3曹だ
「お〜金田、元気〜?」「まぁな、20分後は死んでるだろうけど…」筋肉質な金田3曹もまた持続走は苦手なようだ「あれ?赤城もいるのか…何で?」
赤城士長の速さならもう少し上のグループじゃないか?という意味だ「ん〜深い意味はないよ。各グループに少し速めの人間を入れて引っ張ってもらおうとね」
「いろいろ考えてるんだな…たいしたもんだ」ちょっと感心したように言う金田3曹であった
100 名前:まいにちWACわく!その191 投稿日:04/10/01 14:43:29
スタート前でいろいろ勤務に就いているのは連隊本部要員と各中隊から差し出されたドクターストップのかかった隊員達だ
連隊本部要員は交代で走るが、ドクターストップ組は走らない(走れない)ので、一日中勤務に就いている「頑張れよ〜!」と声をかけてくるのはかなり腹の出ている山岸1曹だ
連隊の援護室(隊員の再就職支援や資格試験の案内などを担当)に臨時勤務の形で出されている山岸1曹は、不摂生がたたって高血圧で一度倒れた事もあるのだ
みんな「山さんか…」という顔をする。決して悪い人ではないのだが、普通科で太っている隊員はあまり尊敬されない(特に若い隊員から)のも事実だ。健康管理も自己責任というわけだ
「山根がAグループで3着に入ったぞ〜みんなも頑張りなよ」空気を全く無視して呑気な声をかける
「スタート1分前!」呼び出しを受け隊員達がスタートラインに並ぶ。上着を脱いだりヒザ屈伸をしたり、太股をペチペチと叩くなど落ち着きがない「若い連中は前に出とけよ〜」などと古手陸曹が言う
「30秒前!」少し前に詰める。まだまだ騒がしい
「10秒前!」あちこちでピッ!と腕時計を操作する音が聞こえる
「5秒前!」急に静かになる「3,2,1…」パーン!と鉄砲が鳴った
「は〜は〜…げぇっ!」ゴールになだれ込む隊員たち。スタートから19分が経過し、そろそろゴールする隊員が増えてきた
我が中隊もゴールしてきた隊員がいる「は〜…は〜…」赤城士長だ「ほら、止まらずに歩くんだよ」と声をかけるのは持続走錬成隊所属の山根士長だ
ゴールした時に貰ったのは薄いプラスチック製の板だ。順位の数字が書き込まれており、その板に名前を書き込んで提出するのだ
3科や各中隊はレシートのような紙に記録が打ち込まれるストップウォッチを持っており、それを使用して各隊員の記録を出すのだ
「ふ〜は〜…」ヒザに手をつき肩で息をしているのは田浦3曹だ「タイムは…」自分の腕時計(大枚をはたいて買ったG-SHOCK)を見る「21分10秒…落ちた」ガクーと肩を落とす田浦3曹だった
さらに遅れて小野3曹、そして続々と入ってくる隊員たち、最後の隊員と衛生小隊の救護員が自転車で入ってくる
「は〜終わった終わった、今日の仕事はコレで終わり!」意気揚々と営内に引き上げる小野3曹「応援もしてあげて下さいね」まだ仕事が残っている田浦3曹はそう呟いて事務所に戻った
102 名前:まいにちWACわく!その193 投稿日:04/10/01 14:45:09
午後…着々と競技は進んでいく「そろそろアップしてくるわ」昼下がりに先任が席を立った「お、いよいよですか〜?」と嬉しそうな田浦3曹
「あぁ…先に終わらせた方が気が楽で良いよなぁ」チラッと田浦3曹を見てため息をつく「先にやったらその日一日仕事にならないんじゃないの〜?」と茶々を入れる鈴木曹長
事務所の前では中隊長以下幹部連中がそろっている「さ、行きましょ〜先任!」一人元気な佐々木3尉。Gグループは統制してアップするのだ
唯一20代の佐々木3尉は元気満々、30代のI幹である井坂2尉は少し元気がない。普通科中隊の小隊長は基本的に20〜30代が多く、まだまだ体が動く年代だ
面子にかけてみっともない走りができないのは中隊長だ「ふ〜佐々木、もう少しペースアップするか?」アップ走で先頭を走る佐々木3尉に声をかける「あんまり本番前に無茶はオススメしませんよ」と冷静に答える
中隊長はユニクロの速乾性Tシャツ(娘さんからのプレゼントらしい)にピチピチのランニング用スパッツ、靴はナイキと格好だけは若々しい
かたや佐々木3尉は「N,D,A(防大)#4X」と書かれたTシャツに太股丸出しのランニング用パンツ、オークリーのサングラスをかけているが今日の天気ではいらないだろう
103 名前:まいにちWACわく!その194 投稿日:04/10/01 14:46:49
ピンポンパンポン…「ただいまから連隊持続走大会最終グループが出走します。多数の応援をよろしくお願いします」駐屯地一斉放送を聞きぞろぞろとギャラリーが集まってくる
「みんな暇人だなぁ…」コースの途中、本部隊舎の舎後に中隊ののぼりを持って出てきた田浦3曹がつぶやく
周りを見れば連隊の隊員だけでなく…基地通信隊の隊員、共済組合の事務官、ボイラー技官(風呂はどうした?)、会計隊員(ボーナス近いのに…)、警務隊の派遣隊長まで…「みんな意外と暇人なわけやな〜」と後ろから声をかけてくるのは井上3曹だ
「そういうお前だって…どうせ今までサボって寝てたんだろ?」井上3曹はCグループだった「人聞き悪いなぁ〜ちゃんと応援しとったで。心の中で…」「ダメじゃん!」「ええ突っ込みやなぁ、仕込んだ甲斐があったわ」そう言ってごまかす井上3曹だった
ざわざわと群衆がうごめくスタート地点、ちょっと太り気味の連隊長はお世辞にも速くなさそうだ。その反面、副連隊長は鍛え抜かれた体躯をしている
アンパンマンのような丸々した顔の連隊長と、浅く日に焼け狼のように精悍な顔(ただし白髪頭)の副連は見事な好対照と言える
各科長、連隊本部の各幹部、各中隊長に小隊長、各先任たちが顔見知りと談笑しつつ体をほぐしている
「あの黒いTシャツが2科長、2科長と話しているのは情報幹部の前田2尉と情報小隊長の真田2尉…」「なんか速そうな人ですね」片桐2曹と赤城士長がスタート前で話している
「あそこで屈伸してるのが車両幹部、よくあの人に殴られたなぁ…」と懐かしい目をする「誰が一番速いんですか?」空気を読まない赤城士長「ん?そうだなぁ…」走る面子を見回して少し考える
「やっぱり佐々木3尉か真田2尉、あとはわからんな〜他中隊のB幹までは知らないよ」やはり若いB幹(防衛大出の幹部)が本命のようだ「若さには勝てないよ、いくら昔は速かったって人でも…」「そうですねぇ」相づちを打つ赤城士長
「同時に男女の体力比もそうそうは覆せないものさ、だから赤城はスゴイとホント〜に思うよ」「まだまだ足りないです、もっと鍛えたいですよ〜」と言って笑う赤城士長であった
104 名前:まいにちWACわく!その195 投稿日:04/10/01 14:47:28
「スタート1分前!」呼び出しを受け選手がスタートラインに並ぶ「連本〜ファイッ!」「重迫〜や〜!」「お〜!」などなど気合いを入れる声が聞こえる「30秒前!」ざわざわと話す声が聞こえる「10秒前!」少し前に詰める
「5秒前!」急に静かになる 「3,2,1…」パーン!と鉄砲が鳴り、最後のGグループがスタートした。ギャラリーからわき出す歓声に応え飛び出したのは…「佐々木3尉、ふぁいっと〜!」赤城士長が声を上げる
佐々木3尉を含む各中隊の若手幹部が団子状態で飛び出した。その後に続くのは副連隊長を含む数名のグループだ
「お、来たかな?誰が先頭か見えるか?」田浦3曹は事務仕事のせいか目があまり良くない「先頭は…お、小隊長おるわ〜!」井上3曹はスナイパー要員だけあって目がいい
「佐々木3尉か?…お、ホントだ」のぼりを振り声を上げる「佐々木3尉ふぁいっと〜!」「がんばれー!」と野太い声で応援する
当然ながら他中隊も応援に熱が入る。太鼓まで持ち出しているのは重迫だ。そんな中…「真田2尉ファイト!」と黄色い声、通信の中村3曹をはじめとする本管のWACたちだ
「やっぱり男の応援より…」「あっちがええわな〜」顔を見合わせる田浦3曹と井上3曹であった
105 名前:まいにちWACわく!その196 投稿日:04/10/01 14:49:53
最後の周回になるとさすがに団子も崩れてくる。2人や3人の固まりが多いのは、速い選手に食らいついてペースを上げようという選手が多いからだ。佐々木3尉も先を走る他中隊の選手に食らいつく
「あの前の人を抜かしたら3着かな?」「そうやな〜でもアゴが上がってきてるわ…」さすがに苦しい表情を見せる佐々木3尉を応援する
「ところで中隊長は?周回遅れに…」「なってへんみたいやで」そう言って視線を向ける。連隊本部の幕僚達と一緒にひーひーと言った顔をしている中隊長がやってきた「先任は…さらにその後か」
その時、ゴール前の直線では… 「お、来たぞ小隊長」片桐2曹が声をかける「あ、ホントだ〜…かなりバテてますねぇ」アゴは完全に上がり前を走る人と差がつきそうになっている「応援だ赤城!」「は、はい!」すぅっ、と息を吸い込み口の前で両手を合わせる
「小隊長ふぁいっと〜!」黄色い声援が飛んだ次の瞬間…佐々木3尉は目を見開き、アゴを引いて猛然とペースを上げ始めた「お〜凄いな…もっと応援だ!」「ハイ!小隊長、ラストで〜す!頑張って!」
佐々木3尉が赤城士長たちの前を通過する、そして…ゴール100m前で前を走っていた選手を抜いた「お、抜いたぞ!」そしてそのままゴールになだれ込んだ
「お疲れ様でした小隊長!」赤城士長が水の入ったコップを座り込んでいる佐々木3尉に差し出す「は〜は〜…ありがと」そう言ってコップの水を一口飲む「ふぅ」と一息
「お疲れです小隊長!しっかしわかりやすいですね〜」片桐2曹がニヤニヤしながら近づいてくる「え?わかりやすいって?」当惑する佐々木3尉「またまたぁ、赤城が応援した瞬間にスピードアップしたじゃないですか〜」
「えぇ?あ〜まぁ確かに…でもそれはさ、小隊の隊員が応援してくれたんだからがんばんないとな〜って、ねぇ?」顔が赤いのは走った後だからだろうか?「そうですかね〜?」ニヤニヤする片桐2曹
106 名前:まいにちWACわく!その197 投稿日:04/10/01 14:50:56
佐々木3尉を含む若手幹部のすぐ後ろに入ってきたのは副連隊長だった「もうすぐ定年だよな、あの人…」ボーゼンと呟く片桐2曹、タイムは19分53秒だそうだ
(だいぶ遅れて)中隊長も入ってきた「はぁ〜…ゲェ!」息も絶え絶えにゴール付近の芝生に突っ伏した「大丈夫ですか中隊長?」と声をかけるのは田中士長だ
「お〜先任帰ってきたで〜」「ホントだ…ラストですよ〜先任!」ゴール前に陣地転換した田浦3曹と井上3曹がゴールに近づく先任に声援を送る「田浦3曹!井上3曹も…今までどこに?」赤城士長が声をかけてきた
「舎後で応援しとってん。小隊長どうやった?」「3位に入りったぞ、あの人意外とムッツリだな」と片桐2曹もやってきた「ムッツリ?」「赤城が声援を送った瞬間に加速したんだよ」顔を見合わせて笑う田浦3曹たち「やっぱり黄色い声援やな〜」「そうだな〜」
「そんなもんなんですか?男の人って単純…」少しあきれ顔の赤城士長だ「先任はどうかな?応援してやってくれ」「は〜い、先任〜ラストで〜す」だが加速する様子は見られなかった…
「お疲れ様です先任」芝生に仰向けに倒れている先任に水を持ってきたのは田浦3曹だ「は〜は〜は〜…すまんな〜」体を起こし水を一口含む「年を実感するなぁ。楽させてくれんかな〜」と弱気な顔をする先任だった
最後のランナーがゴールしてパーンパーンと鉄砲が鳴る「連絡します、閉会式については予定通り1630…」スピーカーから声が流れ、応援していた隊員たちもぞろぞろ帰っていった
「田浦〜手ぇ貸してくれ」そう言って手を差し出す先任「お爺ちゃんじゃないんですから…」と言いつつ手を差し出し先任を引っ張り上げる「すまんな〜とりあえず着替えてくるわ」そう言って先任も隊舎に向かって立ち去っていった
「なんかフラフラしてへんか?」「そりゃな〜定年間近なんだから」「副連もですよ〜」後ろで勝手な事を言う田浦、井上、赤城の3人であった
107 名前:まいにちWACわく!その198 投稿日:04/10/01 14:51:38
「………」事務所の机に突っ伏している先任、その他の人々も似たような状態だ「野戦病院みたいですね」「残念ながらナイチンゲールはいないんだな」まだまだ若い田浦3曹と田中士長は回復が早い
そんな中やってきたのは…「せ〜んに〜ん、いるかな?」明るい声でやってきたのは1科の渡辺曹長だ「…」先任は机に突っ伏したまま一枚の紙を出す「本日の営業は終了いたしました」と書かれている
「そんな事言わないでさ〜先任」ヒザを壊している渡辺曹長は走っていないので元気だ「なんだよ〜ナベさん…」「ちょっと中隊長と一緒に相談があるんだけどさ〜」「中隊長も死んでるよ、多分…」そう言って席を立ち、二人一緒に中隊長室へ入っていった
「そういうわけで、山中さんは退官したし杉山准尉ももうすぐ定年だし…」「広報の…班長候補が欲しいのか?」「最終的にはそうなりますね」「声をかけてるのはウチだけ?」「いえいえ、各中隊に声はかけてます…」
話は「新しい広報班長候補が欲しい」というものだった。1科長の代理で渡辺曹長が来たのだ「1科長も屍になってましてね」との事だ
「何も今日でなくてもいいのに…」「こういう話は早いほうがいいでしょ〜それに今日ならみんないますしね」「…即答はできんな、しばらく待ってもらえるか?」と中隊長「えぇ、もちろんです」そう言って渡辺曹長は帰っていった
「で、どうしますか?」二人きりになった中隊長室で先任が聞く「そうだな…」眉間にしわを寄せる中隊長「木島を…どうだ?」
108 名前:まいにちWACわく!その198 投稿日:04/10/01 14:52:43
「木島曹長?まぁ確かに1科経験もありますしね」「それだけじゃないよ、知ってるだろう?」「えぇ、まぁ…」木島曹長は1小隊の小隊陸曹だが、最低の人格で皆に嫌われているのである
「こないだの音楽祭り支援でもやらかしたらしいからな。総監部にいる久留米(幹部候補生学校)の同期が受付業務の担当だったんだ」方面音楽祭り支援で受付業務を担当していた木島曹長は、暴漢の進入を見てその場から逃げ出すという醜態を演じたのだ
「隊員たちの好き嫌いで上官を選ぶわけにもいかんのは事実だ、だが敵前逃亡する者を小隊陸曹の要職に置くのもな…」そう言ってこめかみを軽く指でもむ「本人が納得しますかね」「させるさ、最悪の場合は命令するからな」
「えっ、広報ですか?」「そうだ、忙しいがやりがいのある仕事だと思うぞ」中隊長室に一人、木島曹長が追加された「え〜あ〜いや、しかし…小隊陸曹の仕事は…」「木村が帰ってきたから心配無用だ」「あ〜まぁ…」言葉を濁す
1科勤務経験のある木島曹長には広報の忙しさを充分知っている。ただ現場もしんどいし…でも部下が一気に少なくなるのも…といった葛藤があるようだ。そこで先任がとどめを刺す一言を口にする
「今の連隊長、連隊本部勤務者は全員A判定出してるらしいぞ」「えっ?」勤務評定でA判定が出ればそこそこ給料が上がるのである
「…わかりました、やってみます」木島曹長はA判定の魔力に屈した「そうか〜ありがとう!8月から入る事になるからな。来年3月までは臨時勤務扱いで…」言質を取ればこっちのもの、とばかりにまくし立てる先任であった
109 名前:まいにちWACわく!その200 投稿日:04/10/01 14:53:45
「…ただいまから平成1X年度第1回連隊持続走競技会の閉会式を行います。連隊長登壇…」連隊本部隊舎前で表彰式が始まった「連隊長に敬礼!かしら〜なかっ!」
司会が成績を読み上げていく「中隊対抗の部、優勝…第2中隊」式の最中なので歓声は上がらない「2位、第1中隊、3位…」残念ながら1位にはなれなかった。やはり精強2中隊の壁は厚い「受賞者、前へ」中隊長と代表が一名、連隊長の前に出る
「おめでとう!」と言いつつ優勝トロフィーと表彰状、そして優勝旗を連隊長直々に手渡す。他中隊からは拍手が響く
「個人の部、幹部、1位…」次は個人の表彰だ「3位、第1中隊佐々木3尉、記録18分12秒…続いて陸曹の部、1位…」呼ばれた隊員は前に出て整列する。そして部隊の拍手の中、一人一人が表彰を受ける
「連隊長訓辞、指揮者のみ敬礼」連隊長が各中隊長の敬礼を受ける「休ませ」「休め!」そして長い訓辞が始まる「…(以下略)以上、訓辞終わり!」 「連隊長に敬礼!かしら〜なかっ!」そして閉会式が終わった
2中隊が騒がしい「中隊長を胴上げだ〜!」などと騒ぎ円陣を組む。そして…「わ〜っしょい!わ〜っしょい…」宙を舞う2中隊長。それを横目に各中隊は終礼場所に向かう
「今回は残念ながら2位だったわけだが、かなりの手応えを感じている。次の大会は9月!各人錬成を続けるように!」中隊長の話が終わり、運幹の岬2尉が号令をかける
「中隊長に敬礼!かしら〜なかっ!」こうして長い長い一日は終わりを告げたのだった
121 名前:専守防衛さん 投稿日:04/10/02 01:16:15
「おい!候補生!もっとしっかり走ろ!」駆け足が苦手な三島も今日の持続走競技会には参加している。候補生だから?注目度も違う
回りの激に答えるべく、力をふりしぼりゴールした三島
「ハァハァ」出てくる言葉はなくただ、呼吸が乱れるだけだった
122 名前:専守防衛さん 投稿日:04/10/02 01:19:41
三島は一人、軽く整理体操をすませ、営内へ着替えに帰った。すると、田中士長、鈴木士長が三島を待っていた。「お疲れ」と田中
すると鈴木が「三島士長大丈夫すか〜?」なんて言ってくる
123 名前:専守防衛さん 投稿日:04/10/02 01:25:08
大分息も回復した三島「大丈夫だよ、この調子で行ったら俺、陸教で賞もらうぞ」なんて強気な言葉をだす
「田中士長、一緒に方面総監賞取りましょう」なんて言うもんだから田中も少し困り顔になる
相変わらず口の達者な三島 まぁそこがみんなに愛されるキャラクなのだが。
126 名前:専守防衛さん 投稿日:04/10/02 01:31:49
すると鈴木が「俺をさしおいて行くんだから二人とも、有言実行ですよ!なんて言ってくる
田中は「嫌、俺は無いぞ、賞に無縁なんだよ〜」と言ってくるさらに話を続け「そう言えば三島よぉ、りっしゅうぜん準備大丈夫かぁ?すると三島はオッケーなんす!と声を出すのであった