まいにちWACわく!その1(配属前)

66 名前:まいにちWACわく!その1 投稿日:04/02/02 19:10

師走も近い11月のある日、中隊長の元にめったに見る事の無い連隊本部の人事幹部が入っていき、その後何時間も話し合いを続けていた…
「何すかね?」訓練Bの田浦3曹が怪訝な顔をする、佐藤准尉には何か嫌な予感がした…経験の浅い田浦3曹にはその気配が読めないようだ。
人事幹部が出ていって数分後、電話番の田中士長を残して中隊本部、そして各小隊長が集められた。

「何事ですか先任?」防大出の佐々木3尉がこれまた怪訝な顔をする。「さぁねぇ…」先任の声にも覇気が無い、嫌な予感はますます強くなっている。

「急に集まってもらったのは他でもない、わが中隊にWACが入ってくることとなった」中隊長の言葉にみんなどよめいた。
「確かナンバーには入らないのでは?」「今回が初だそうだ、我が師団はウチだけらしい」「営内班とかは?」「補職は?」「それをひっくるめて、今集まってもらったのだ」
中隊長にも苦悩の色が見える。真面目な人だから断りきれなかったのだろう…これからのことを考えると、先任の胃はまたキリキリと痛み始めた…

67 名前:まいにちWACわく!その2 投稿日:04/02/02 19:24

「まぁまずは、どんな子が入るのかを言っておこう」
そういって中隊長は、その新人の資料を読み始めた。さすがにナンバーに来るだけあってかなりのツワモノのようだ。

1等陸士:赤城龍子
昭和○○年12月8日生まれ
出身は横須賀、父親は海自の方面総監で、母親も元WAVEの看護師
叔父は空自の航空団長、3人いる兄もサブマリナーとF15パイロット、それと現役防大生という自衛隊一家の末娘だ
都内の有名高校を卒業後入隊、知能段階は当たり前のように「7」、新体力検定1級で極真空手2段
趣味はスポーツ全般、特に格闘技
普通科中隊への配属は本人の熱望によるものらしい…

「すごいですね〜」他人事のように田浦3曹が感心する。

「取りあえずだ、まずは補職配置を決めようじゃないか」中隊長が言った次の瞬間、各小隊長はいっせいに目を落とした…

68 名前:まいにちWACわく!その3 投稿日:04/02/02 19:33

「小銃小隊はちょっと…」第2小隊長の岬2尉が渋い顔をする、「やはりムリかね?」中隊長も予想してたようだ。
「なんせ寝るときとか雑魚寝ですからね、しかも穴の中で」すかさず迫小隊長の井坂2尉が「ウチもだよ〜」と口を挟む。
同様に対戦もアウト、となると…
「取りあえず中隊本部、これでいいかね?先任」中隊長が結論を下す。逆らうことは…不可能のようだ。
「それがいい!」「いや〜やっぱり本部だね!」「伝令欲しがってたでしょ?先任」勝手なことを言う小隊長たち。
「あぁ、また胃が…」「先任大丈夫っすか?」「とりあえず、係陸曹集合…」

69 名前:まいにちWACわく!その4 投稿日:04/02/02 19:44

「ウチは2人で十分!」「ウチで引き受けても困るよ〜」「新人に出来る仕事かい!」
15時から始まった係陸曹会議はもうすでに4時間が経過し、日もすっかり落ちてしまっている。
「しかし受け入れると決まった限りは責任がありますよね?」田浦3曹が助け舟を出す。 「じゃあ訓練で引き取れや」「それはできんな〜」訓練Aの中島1曹が言う。「訓練はけっこう動くよ、経験もいるしね」
議論は堂堂巡り、みんな疲れ果てていた。「取りあえず明日にしないか?」「いや、今日中に結論が欲しい!」先任もがんばる。

…さらに1時間後…

「連隊のWACは通信と衛生にしかいない、だったら通信でいいんじゃないか?」誰かが言った。
「それだ!」「そうだな」「それがいい!」みんな賛成のようだ。
「まっ待ってください!」通信陸曹の岡野2曹が叫ぶ「ウチだって体力勝負なんですよ?」
「無線でいいじゃねえか」「まずは部隊通信に行かせたら?」みんなかなり投げやりである。

「…仕方ありませんね、暫定的な処置ですからね!」半ばキレ気味の岡野2曹を尻目に、みんなスッキリした顔をしている。

これでうまくいけばいいが…先任には一抹の不安があった


70 名前:専守防衛さん 投稿日:04/02/02 19:58

昨日の騒ぎが嘘のように平穏な午前。しかし15時。1科長より中隊長が呼ばれたのだ。1科長「連隊としては赤城1士を小隊人員として使いたい!」中隊長「予定では通信補佐と言う予定ですが?」1科長「本人も、迫を希望しているらしんだよ」中隊長「・・・」

71 名前:とっぴぃあ 投稿日:04/02/02 20:50

中隊長「ブチッ!?」何かが切れた! 「いったい連隊はうちに何をさせたいんだ!ワックが普通科と言うだけで勝負なのに、小隊でつかえだと!面白くない!今日はその話はなしだ!」と、どなり帰った。中隊事務所で、冷静になった中隊長は言った「俺はクビだろうか?」

72 名前:専守防衛さん 投稿日:04/02/02 21:09

「と〜と、切れちゃつたんすか、そりゃマズイっすよ・・・・・。」 心配しているのかおもしろがっているのか良く判らない表情で 中隊長室を指さす田浦3曹。

73 名前:専守防衛さん 投稿日:04/02/02 21:19

先任も暗い表情になる。「陸士や若い3曹が切れたって言うならなぁ・・・まさか、中隊長とはなぁ。」 先任の目線には、人事係の机があり、その机の上には、すました赤城1士の写真付き書類がおいてアッタ。

74 名前:とっぴぃあ 投稿日:04/02/03 19:58

中隊長は連隊長より呼ばれた。話あいの末、通信補佐の位置でよいとなった。連隊長「まぁ、本人の意見が通らないのも、この組織だからな。あと、〜〜」何やら耳内していた。
中隊へ帰った中隊長は、すぐに先任を呼びつけ、連隊長の話をそのまま伝えた。内容はこうだった

76 名前:専守防衛さん 投稿日:04/02/03 23:37

「くれぐれも、男関係だけは、問題ださないでたのむぞ。なんせ、とてつもない一家だからな。」だそうだ。溜息をついた

78 名前:スキップ・ビート 投稿日:04/02/04 13:42

番外編・生活隊舎
「飯島士長〜、事務室で小耳に挟んだンすけど、今度ウチの中隊にWACが来るらしいですよ!」
ここは生活隊舎・談話室。連隊長の「鶴の一声」により営内班が禁煙になって以来、喫煙者の溜まり場である。
「何ャ〜!マジでか!三島君、その情報はどっから仕入れたのかね?」三島士長は丁寧にプレスをしながら答える。
「ダテに中隊長伝令やってませんよ。昨日、中隊長室の掃除してる時に聞いたンすよ。事務室で中隊長が幹部やら係陸曹やら集めて相談してました」
飯島士長は先任士長だ。 「昔さ、重迫にWACが居たけどさァ、ロクなもんじゃなかったぞ。演習ン時だって大変だろ?」
飯島士長は煙草を美味そうに吸いながら続ける。
「それとも三島あたりがヤっちまうかァ〜!?」

そうなのだ、三島士長は「中隊の便利屋」と言われる様にドライバー、通信、らっぱ、炊事、伝令などをその時の要望に応じてそつなくこなす陸士なのだ。
つまりWAC赤城1士と任務を共にする可能性が高い・・・。しかも入校やら支援やらで関わったWACとは何かしらのつながりを残してくる様な男である。
今年の初めにも、音楽祭り支援で一緒だったWACから年賀状が多数届いて中隊で話題になった事がある。
「ま、来てからのお楽しみですな・・・!」
二人は若干淫靡な笑いを共有した。
こうして営内に住む陸士の間に「WAC来たる」の噂は広がっていったのであった・・・。

生活隊舎編、不定期につづく・・・

79 名前:専守防衛さん 投稿日:04/02/04 22:07

そのころ師団司令部では 「というわけでお世話になりますがよろしく・・・。」がちゃん。
赤城総監と師団長は防大の先輩後輩の中である。
師団長がラグビー部で鍛えに鍛えられた4年が今の総監である。
以来幾星霜30年近い付き合いになる。 「そうか・・あの子もな。」
しばらく会っていないがどんな子になったのだろうか?
「母親はひょうばんの美人で仲間のアイドルだったからな・・。」

「はい・・・・・・・・わかりました。そうですか」がちゃん。
「先任・・・。」 「中隊長どうされました」 「師団長検閲が決まった、1週間後だそうだ。」

検閲はつらかった。しかし、終わった。事故もなく
そして、赤城1士が配属された・・・


83 名前:まいにちWACわく!その5 投稿日:04/02/07 17:57

「WAC受け入れ命令」以来上も下もバタバタしてたが(キレた中隊長、通信陸曹の苦悩、ゲットを狙う「不穏分子」の存在)ついに、赤城1士の着隊の日を迎えた。中隊長は先日の「師団長点検」のことを思い出していた…

急な点検が決まって、3日間を「環境の整備」に費やした。生活隊舎は見ないとのことだった。この点検が赤城1士受け入れに絡むということは全隊員が薄々感ずいていた。
実際点検自体は数分で終わり、中隊長以上の幹部と師団長との懇談が連隊長室で始まった。

「連隊もまぁよくやってるねぇ」師団長が横に少し大きい巨体を揺らし発言する。「はっ、アリガトウゴザイマス!」これ以上はないというくらい背筋を伸ばした連隊長が答える。そうした雑談が10分も続いた後、やっと本題に入り始めた。

84 名前:まいにちWACわく!その6 投稿日:04/02/07 18:06

「ところで、今年の曹学の受け入れ準備はどうかね?」「はっそれはもう各中隊が準備を万端にしております!」
「急なWACの受け入れを快く引き受けてくれて助かるよ。赤城1士はどこの中隊かね?」
「ウチであります」中隊長が答える。幕僚や他の中隊長も注目する。
「そうか、全国でもナンバーにWACを受け入れるのは10個連隊しかいないのでな、よろしく頼むよ!」微笑みながら師団長が言う、幹部の微笑みには警戒が必要なことは中隊長も承知している。
「了解しました…」やや警戒しつつ答える中隊長。さらに師団長が続ける。
「赤城1士、いや龍子くんは私も生まれたときから知っている、彼女の父親とは懇意にしててね」目を細め懐かしむように語る。「よく兄たちとおもちゃの取り合いをしてたものだ、知ってるかね?彼女の上の兄は来年防大を卒業、陸に入ることが決まってるのだよ」

85 名前:まいにちWACわく!その7 投稿日:04/02/07 18:15

「ナンバーには本人の強い希望だそうだ、面倒を見てやってくれたまえ」……すぐさま返事をしない中隊長、一瞬の間を置き中隊長は意を決したように話し始めた。
「中隊配属された隊員は分け隔てなく面倒を見て鍛え上げます。赤城1士にも同様に接してよろしいのですね?」「もちろんだとも」「では、私の指導方針にお任せいただきます。問題となるような事があった場合以外、これからは口出し無用に願います!」

空気が凍りついた、幕僚たちは動揺し連隊長も言葉を失ってる…一介の中隊長ごときが師団長に対して意見する、高級幹部の頭では理解できない事態が起こってしまった。

ようやくフリーズから解けた連隊長が席を立ち話そうとする「中た…」それを傍らにいた副連隊長がひざを抑え制する「お待ちを」低くつぶやき師団長の方を見るよう目配せをした。

86 名前:まいにちWACわく!その8 投稿日:04/02/07 18:23

師団長が口を開いた「それはもちろんだ、師団長が一介の陸士の事に口を出すことではないな。これはあの子の父親と私個人の頼みと思って聞いてほしい」そうして師団長は席を立ち中隊長に向かい合う、そして軽く頭を下げて
「あの子のことを頼む、甘やかさずに一人前の自衛官にしてやってくれ。それは彼女の願いでもあるのだから…」中隊長も席を立ち頭を下げる「わかりました」

連隊隊舎前で幕僚と中隊長たちが師団長の黒塗りプリウスを見送る、そして解散となった。誰も中隊長には声をかけない。
先ほどの件を叱責すれば師団長への背信行為になりかねず、激励すれば問題発生時に巻き添えを食らう可能性がある…という考えがあるようだ。中隊長は硬い表情のまま中隊に帰ろうと隊舎に入った、そのとき不意に肩をたたかれ振り返った。

87 名前:まいにちWACわく!その9 投稿日:04/02/07 18:33

「大見得を切ったな」副連隊長だった「ハラを決めましたからね」中隊長が答える。
フッと表情を和らげ副連隊長が言う「ロープ橋で泣いてたレンジャー学生が立派になったなぁ」「『鬼のレンジャー教官』は丸くなられましたね」同じく表情を和らげ中隊長が答える。
「私にできることがあれば協力しよう。一人の女の子を一人前の自衛官にする、やりがいのある仕事じゃないか!」笑いながら副連隊長が言う「どうせならレンジャーに入れてみるか?」「それは無茶でしょう…」

それ以来受け入れ準備は飛躍的に早くなった。営内班長は先任と訓練Bの田浦に任せることになり、営内の指導は本管・通信小隊の中村3曹に任せることとなった。中村3曹も曹学出身なので、なにかと助けてくれるだろう。 中隊の隊員にはセクハラ防止教育も行った。岡野2曹も教育資料をそろえ、受け入れ準備は考えうる限り万全を期して準備された。

そうして、受け入れの日がやってきた。


HOME NEXT