まいにちWACわく!その72

店員と何やら話をしていた安田3曹は、突然の怒鳴り声に驚いた「…?何です?料理はもう出ませんよ」キョトンとした顔を向ける「話も聞いてやがらねぇ、何考えてんだてめぇらは、あ〜?」訳のわからない…という顔をする安田3曹
「陸曹見て陸士は育つもんだよなぁ、まったくよくわかるぜ〜お前ら見てたらよぉ」と言って辺りを見渡す。さすがにカチンと来て席を立とうとしたのは大宮3曹だ「あんたがその元凶だろうが…」と言いかけたその時…
「おぅ、やっとるね〜お疲れさん!」顔を出したのは中隊長だった。宴会場にいた全員の目が注がれ「おつかれっす!」と口々に挨拶をする
「どうされたのですか?中隊長」と声をかけたのは小隊長だ「いや、いま仕事が終わってね。帰りなんだよ。ちょっと様子を見に来たのさ」中隊長は官舎住まいだ「盛り上がっているようだね、けっこうな事だ…大丈夫か?」隅でのびている和田1士を見て心配そうに呟く
「だ〜いじょうぶですっ!いざとなったらリアカー持ってきますけん」と木村1曹が言い、場がドッと盛り上がる「大丈夫そうだね、それじゃ飲み過ぎないように」そう言って中隊長は立ち去っていった
勢いをそがれたのか、木島曹長は急におとなしくなる「………」まったく表情を変えず、鍋の中身を食べ続ける小畑士長だった



「な〜アレ放っておいていいのか?」「アレって?…あぁ」同期の指さす方向を見て大島士長は納得する
一人ブスッとした顔をした木島曹長がチビチビと熱燗を飲んでいるのだ
絡みすぎたからかいつものことなのか、宴会も時間がたつにつれ木島曹長の周りには誰もいなくなってしまった
「ま〜自業自得だけどな」と笑うのは大宮3曹、しかし主賓が一人で酒をチビチビ…というのはさすがに絵柄もよくない
「しゃ〜ない、ボクが行ってきますよ」傍らにあったビール瓶をつかんで、大島士長が立ち上がる「いいのか?」「やめとけって…」「ほっときゃいいじゃん」と周りから声が上がる
「幹事ですから、ま、死なない程度に相手してきます」と笑顔を見せる「そうか…武運長久を祈る!」と安田3曹
「そ〜う〜ちょう、ま、どうですか一杯」明るい声でビール瓶を差し出す大島士長「…ん」子供のような笑顔に毒気を抜かれたように木島曹長はコップを差し出す
トクトクトク…きっかり1cmの泡ができ、コップになみなみビールが注がれる「…ふん」文句をつけられずやや不満そうにコップを口に運ぶ
ビールを少し飲みさっそく説教(いちゃもん)モードに入る「…最近の陸士は質が落ちたんじゃねえかぁ?だいたいだな…」「はい、はいはい、えぇ〜そうですねぇ」上手いこと話を合わせる大島士長、時に大げさにうなずき、時に驚いてみせる
愚痴をはき出して少し上機嫌になったのか、木島曹長も文句を口にするのをやめた「ま、なんだ。こいつらにはちょっとくらい厳しくいかなきゃ〜だめだったって事だ、わかるか?あ〜?」「え〜わかります、やっぱりそうですよね〜」うんうんとうなずく「この数年は大変だったさ〜問題ばかり起こしてくれたよなぁ」
視線の先には部屋の端で寝る隊員、総合格闘技の技を「実際」に試している連中、パチンコの話で盛り上がる若手隊員たち…(実際けっこう問題あったかもなぁ)調子よく話を合わせていた大島士長だったが、この瞬間に少しだけ曹長に同情した
借金を作って逃げた隊員や、スピード違反に飲酒運転、援助交際で捕まった隊員もいた。責任逃れは曹長の十八番だったが、すべてに責任をとっていたらクビがいくつあっても足りなかったかな…としみじみ思う
もっともそういった不祥事の責任の一部には、曹長の指導不足もあったのだが…

適当に話を合わせて席を立つ大島士長。宴会ももう終わりに近づいている


「宴もたけなわではございますが…」20時半になり、安田3曹が声をかける「そろそろお時間となりましたので、この辺でお開きにしたいと思います。皆さん席にお戻り下さい…オバ!食うなっての」
ざわざわと騒ぎは収まらないが、ポツポツとみんな席に戻り始めた

「それでは、最後の乾杯の音頭を…」ちょっと言いづらそうにする「…木島曹長にお願いしたいと思います」おざなりの拍手が響く
気まずそうな顔をするが、その場に立ちグラスを持ち上げる「え〜今までいろいろとお世話になりました。これからも演習等あるとおもいますが、頑張って下さい…それでは、乾杯!」きわめて普通の挨拶だ。一応社会人なので、空気を読んでこのぐらいの事は言える
「かんぱ〜い!」がちゃんとグラスの合わさる音が響き、宴会は何とか無事終了した。若干残っている人間もいるが、若手隊員たちはさっさと宴会場を後にした

「お疲れさんです」「ど〜も、お疲れさんでしたなぁ」小隊長と木村1曹は二人で酒を酌み交わす
ここはバー「しがらみ」木島曹長やその他何人かは家に帰り、若手連中は自分たちだけで二次会に向かったのだ
「どうだい?小隊の様子は」と聞くのは小隊長「う〜む…」とうなりビールを口に付ける木村1曹「今は何とも、難しい話ですのぅ」
「難しい?」「やはりちょっと若手連中がひねちょる感じがしますけん。士気を上げるにはどげんしたらよかですかねぇ…」と深刻そうな顔をする
「そんなに下がってるかい?」「理由は知っちょるでしょう?」ぐい、とビールを飲み干す
「ま、何とかしますけん。考えるよりは行動ですたい」「そう!そういうところを見せてやってほしいんだよ。ウチの若い子たちはちょっと後ろ向きなような感じでねぇ」
そこにやってきたママさん「な〜に?男二人で難しい話?」「まぁね」「演習終わったんでしょう?そんな顔しないで飲みましょう!」
なんでそんな話知ってるんだ…とは聞かない二人、駐屯地周辺の飲み屋などが演習日程を把握しているのは珍しい話ではない(もちろん問題です)
「そうじゃのう、飲み直しますか!今日は気を遣った飲み会でしたからのぅ」木村1曹は一気にコップの中のビールを飲み干した



安田3曹と大島士長が会計を済ませて駅前のショットバー「アーティラリー」にやってきた時には、すでに1小隊の若手隊員たちができあがっている状態だった
「遅い!もう二次会始まってるぞ〜」声をかけるのは大宮3曹、奥のテーブル席から二人を手招きする「いやいや、ちょっと手間取ってねぇ…」頭を掻きつつ席に着く

「…で、その時にアイツが何したか知ってるか?一目散に現場から逃げ出しやがったんだよ…」「そりゃ最低だな〜」どうやら木島曹長の思い出話で盛り上がっているようだ
「ホント、この数年は地獄だったよな〜」「何かあったら陸曹集めて『お前等の指導が悪い』とか言って…」「アイツ、オレを糧食班に追いやっておいて『お前は仕事しねぇな』とか言いやがってな〜」思い出話と言うよりはグチ合戦になっている
「でも何が一番ナゾかって、そんなあいつが結婚してることだよな〜」「そうなんですか?物好きな女もいるんだなぁ」陸曹長クラスとなると結婚しなくても営外者(駐屯地の外に住む隊員)になれるので、若い連中は「ジメジメは独身」と思いこんでいたようだ
「娘さんもいるくらいでな…確か小6だったかな?」と安田3曹「けっこうかわいかったですよね?駐屯地の記念行事に来てましたけど」大島士長も見た事はあるようだ
「奥さんはどんな人間なんだろうな?すごい人格者か同等レベルのクソ野郎か…」「クソ野郎じゃねぇか?マイナス×マイナスはプラスだからな〜」大宮3曹が毒舌を吐き、場がドッと盛り上がる「娘さん苦労してるだろうね〜」「オレがかわいがってやろうか?」「お前ロリコンかよ!」周りには民間人もいるのだが、そんな事は気にせずバカ話を続ける一同だった

「次いこうぜ次〜!」「…ウェッ!」酔って吐いて大騒ぎの隊員たち。重圧からの開放感とボーナスの入った安心感からか…
「次、カラオケ行く人〜」「キャバクラ行こうぜ〜」とここから先はまたバラバラになってくる。彼らは夜中の3時近くまで飲み歩き遊んで帰っていった

翌昼前、営内班のベッドで最初に目を覚ましたのは安田3曹だった
太陽がやたらとまぶしく見える。窓の外に目をやり明るい日差しに顔をしかめながら、安田3曹は昨日の記憶をたどり始める…が、すぐに激しい頭痛が襲う
(こりゃーダメだな…なんかジュースでも買ってくるか)どうやら昨日は外出した格好のままで寝てしまったらしい。ジーンズのポケットから財布を取り出す
「!無い!福沢さんがいねぇ!」昨日は確かに3枚あった1万円札が無くなっている「なんで…?」
頭痛をおして記憶の奥底をたどると、昨日の2次会以降の狂喜乱舞が思い出される…「やっちゃった〜」がっくりと膝をつく安田3曹であった

番外編「宴会戦線」完



BACK HOME NEXT 解説