まいにちWACわく!その25

ポン…ポン…とLAMの縮射弾が300m先の的に向かって飛んでいく。ここは演習場内にあるRR射場だ
3人の射手が並んで縮射弾を撃っている。赤城もいる、命中率はあまりよくないようだ
「縮射装置は重いからな」双眼鏡で的を見る中隊長が言う。頭の鉄帽に赤白の「射場指揮官」覆いを被している
「持ちきれませんかね?」そう言うのは田浦3曹、同じく双眼鏡で的を見て採点している「土嚢があるから依託すればいいのに…」
「怖がってるんじゃないか?力が入ってるな。あれでは演習弾どうなるか…」そう心配するのは神野1曹だ。「安全係」の青い覆いを被っている

「110mm携帯対戦車弾」通称「LAM」は使い捨ての対戦車火器である。本体自体が弾薬のため練習には「縮射弾」と呼ばれる小さい(それでも18mmはある)を撃って練習する

縮射弾を撃ち終わり次は実弾射撃。井上3曹は対戦車りゅう弾、それ以外は演習弾だ。その前にしばらく休憩となった
「どうだ?調子は」田浦3曹が赤城士長に声をかける「やっぱり緊張しますね〜」そう言って笑う
「緊張すると弾がどこに飛ぶかわからないからね、気をつけてね」「ハイ!」「当たったら何かおごるよ、何がいい?」
少し考えて「同期を2人呼んでもいいですか?『アーティラリー』で飲み会おごってください!」
「え?う〜ん…わかった!」男に二言はない、とばかりに胸を叩いた田浦3曹であった

そして本番…赤城士長は2射群だ。全部で4射群あり、最後は井上3曹一人だけで鉄板の的を撃つ。まずは第1射群の射撃をみんなが見学する
「射手、目標正面の的!立ち撃ち第1…」射撃係幹部が号令をかける、そして全員がLAMを肩に担いだ「射撃用意!1的から撃て!」射撃係幹部が号令をかける
「後方よし!」射手が後を確認して安全装置を解除する。そして一瞬の間をおいて…


ドン!

すさまじい轟音と衝撃が射場に鳴り響いた
射手の前後で煙が巻き起こり、その煙の中から青い弾頭部が飛び出してきた
5mほど(比較的)ゆっくりと飛翔し、羽を広げ300m先の的にすっ飛んでいった。そして…
「命中しましたね」双眼鏡を覗いていた田浦3曹が言った。弾頭部はベニヤの的を貫通し、後方の停弾提に突き刺さった

続いて2的、3的と続けて撃つ。結果は3発中2発命中だった「まぁ、悪くはないな」と中隊長も言う
次は2射群だ、赤城士長は2的「ふ〜」と息を吐き緊張をほぐそうとする
「まぁ堅くなるな、一発100万円を一瞬で消費するんだ。楽しんでこいよ」と田浦3曹が声をかける「ハ、ハイ」と笑う赤城士長だが、少し顔も赤くなっている

弾薬交付所でLAM本体と発射装置を受領する。本体を大事に抱えて射座に向かう(リラックスして…)そう自分に言い聞かせて射座まで歩く
射座に着きLAMをおろす、そして射撃装置のチェックを始める。安全装置と撃発の作動をチェックし、眼鏡を覗き以上の有無を確認する
「異常なし!」と射手たちが射撃係幹部に報告する。そして射撃準備の号令がかかった

弾頭部のプローブを伸ばし射撃装置を取り付ける。前方握把と肩当てを伸ばし一気に肩に担ぎ姿勢を取る。前方握把をしっかりと土嚢に依託し、眼鏡を覗き狙いを定める
300mの表示のある十字に的を合わせ、右足を前に出し姿勢を固める「準備よし!」
ずっと心拍数は上がっている。肩が堅くなっているのがわかる。指先にも力が入り震えがくる
(力を抜いて…呼吸を整えて…)赤城士長は今まで習った事を思い出すように、そして冷静になろうと呼吸を整えた
(楽しんで…そう、楽しもう!)そう思ったら少し緊張が解けたような気がした

「1的、射撃用意…撃て!」号令がかかる、隣の1的が射撃する。さっきとは比べモノにならない爆風と轟音が赤城士長を襲う
思わず身が固くなる、アドレナリンが吹き出してくるのがわかる気がした。次は自分の番だ…
「2的、射撃用意」号令を聞き後ろを見る「後方よし!」姿勢を固める。眼鏡の十字を的に合わせる。人差し指に力が入る…

「撃て!」号令を聞き引き金を絞る。引き金に手応えを感じ、撃発が落ちた


ごう!と体が衝撃を感じた。轟音よりすさまじい衝撃を受ける
眼鏡の前に砂埃が舞う。着弾は…?うっすらと的が見える
安全装置を条件反射のようにかけつつ、弾着の行方を見る…

「お、当たったな」双眼鏡を覗いていた中隊長がつぶやく「あ〜おごり決定か…」そう言いつつもどこか嬉しそうな田浦3曹
赤城士長の放った弾は的の若干下に命中した。ベニヤの的にきれいな穴があいていた

「は〜…」軽くなった本体部分を返納し、大きなため息をつく赤城士長「お疲れ、どうや?当たったか?」聞いてきたのは井上3曹だ
「ハイ!何とか…ドキドキしました〜」そう言って胸に手を当てる、顔もまだ赤い「次はオレや、1発200万を撃ってくるわ〜」そう言って井上3曹は射座に向かった

赤城士長が対戦車りゅう弾の見物に…と台上に上がった。田浦3曹が「命中したな、おごるよ」と開口一番に言う
「いいんですか…?ホントに」少し心配そうに聞く赤城士長「男に二言はない!」キッパリ言い張る田浦3曹「それよりも射撃見なよ、迫力あるよ」そう言って的の方に視線をやる
射座では着々と射撃準備が進められている。井上3曹がLAMを肩に担いだ、今度のは弾頭部がOD色だ。何か迫力を感じる…
「射手、射撃用意…」号令がかかる「後方よし!」後方を確認して安全装置を解除する
「撃て!」の号令とほぼ同時に対戦車りゅう弾は発射された。300m先の鉄板で作られた的に吸い込まれるように飛んでいく

着弾した!と同時に赤い炎とすさまじい煙が巻き上がる
1秒後…すさまじい爆音が聞こえてきた

「お〜」見ていた隊員たちから歓声が上がる「スゴイ!音が後からくるんですね〜」赤城士長も興奮している。顔を真っ赤にして喜んでいる
「まぁ口ばっかりじゃない、ちゃんと当てたな」そうニヤリと笑う田浦3曹であった


「まま、中隊長どうぞどうぞ…」田浦3曹がビールを注ぐ。演習最終日の晩、廠舎の中では宴会が始まっていた
衣装ケースを机代わりに、演習場近くのコンビニ「ぶんぶん」で買ってきた酒とつまみが並んでいる
「や〜アリガトよ、無反動もLAMも終わったな〜命中率も高かったし、言う事なしだな!」かなり上機嫌な中隊長だ
「何より不発弾が出なかった!いいねぇ〜無反動だけに無反応、なんてことにならなくて〜!」とダジャレを飛ばす高木2曹
「LAMは無反動とは違いますよ」冷静に突っ込む田浦3曹

酒が進むと口も軽くなる。中隊長もかなりしゃべるようになってきた
「いや〜ホント、三島にはドキドキさせらっれっぱなしだな。アイツ受かるかね?」「先任たちが必死で鍛え上げてる最中ですよ」そうフォローする田浦3曹
「学科2番なのに不合格、なんてちょっと恥ずかしいぞ!でもなぁ…」ため息をつく中隊長。珍しく弱気だ
「人事は人ごと、ですからね〜」田浦3曹はそんなに深く考えてはいない
「…よし!GWも練習させるぞ!中隊本部持ち回りで教官してもらおうか!」「…!」顔には出さないが、心の中で(それは嫌です)と叫ぶ田浦3曹、だが中隊長は乗り気のようだ
「田浦、また計画作っておいてくれ!」もう止まらないだろう「…はいぃ…」がっかりと肩を落とす田浦3曹だった…

演習場の夜はこうして更けていった



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