まいにちWACわく!その1

師走も近い11月のある日、中隊長の元にめったに見る事の無い連隊本部の人事幹部が入っていき、その後何時間も話し合いを続けていた…
「何すかね?」訓練Bの田浦3曹が怪訝な顔をする、佐藤准尉には何か嫌な予感がした…経験の浅い田浦3曹にはその気配が読めないようだ。
人事幹部が出ていって数分後、電話番の田中士長を残して中隊本部、そして各小隊長が集められた。

「何事ですか先任?」防大出の佐々木3尉がこれまた怪訝な顔をする。「さぁねぇ…」先任の声にも覇気が無い、嫌な予感はますます強くなっている。

「急に集まってもらったのは他でもない、わが中隊にWACが入ってくることとなった」中隊長の言葉にみんなどよめいた。
「確かナンバーには入らないのでは?」「今回が初だそうだ、我が師団はウチだけらしい」「営内班とかは?」「補職は?」「それをひっくるめて、今集まってもらったのだ」
中隊長にも苦悩の色が見える。真面目な人だから断りきれなかったのだろう…これからのことを考えると、先任の胃はまたキリキリと痛み始めた…

「まぁまずは、どんな子が入るのかを言っておこう」
そういって中隊長は、その新人の資料を読み始めた。さすがにナンバーに来るだけあってかなりのツワモノのようだ。

1等陸士:赤城龍子
昭和○○年12月8日生まれ
出身は横須賀、父親は海自の方面総監で、母親も元WAVEの看護師
叔父は空自の航空団長、3人いる兄もサブマリナーとF15パイロット、それと現役防大生という自衛隊一家の末娘だ
都内の有名高校を卒業後入隊、知能段階は当たり前のように「7」、新体力検定1級で極真空手2段
趣味はスポーツ全般、特に格闘技
普通科中隊への配属は本人の熱望によるものらしい…

「すごいですね〜」他人事のように田浦3曹が感心する。

「取りあえずだ、まずは補職配置を決めようじゃないか」中隊長が言った次の瞬間、各小隊長はいっせいに目を落とした…

「小銃小隊はちょっと…」第2小隊長の岬2尉が渋い顔をする、「やはりムリかね?」中隊長も予想してたようだ。
「なんせ寝るときとか雑魚寝ですからね、しかも穴の中で」すかさず迫小隊長の井坂2尉が「ウチもだよ〜」と口を挟む。
同様に対戦もアウト、となると…
「取りあえず中隊本部、これでいいかね?先任」中隊長が結論を下す。逆らうことは…不可能のようだ。
「それがいい!」「いや〜やっぱり本部だね!」「伝令欲しがってたでしょ?先任」勝手なことを言う小隊長たち。
「あぁ、また胃が…」「先任大丈夫っすか?」「とりあえず、係陸曹集合…」

「ウチは2人で十分!」「ウチで引き受けても困るよ〜」「新人に出来る仕事かい!」
15時から始まった係陸曹会議はもうすでに4時間が経過し、日もすっかり落ちてしまっている。
「しかし受け入れると決まった限りは責任がありますよね?」田浦3曹が助け舟を出す。 「じゃあ訓練で引き取れや」「それはできんな〜」訓練Aの中島1曹が言う。「訓練はけっこう動くよ、経験もいるしね」
議論は堂堂巡り、みんな疲れ果てていた。「取りあえず明日にしないか?」「いや、今日中に結論が欲しい!」先任もがんばる。

…さらに1時間後…

「連隊のWACは通信と衛生にしかいない、だったら通信でいいんじゃないか?」誰かが言った。
「それだ!」「そうだな」「それがいい!」みんな賛成のようだ。
「まっ待ってください!」通信陸曹の岡野2曹が叫ぶ「ウチだって体力勝負なんですよ?」
「無線でいいじゃねえか」「まずは部隊通信に行かせたら?」みんなかなり投げやりである。

「…仕方ありませんね、暫定的な処置ですからね!」半ばキレ気味の岡野2曹を尻目に、みんなスッキリした顔をしている。

これでうまくいけばいいが…先任には一抹の不安があった


昨日の騒ぎが嘘のように平穏な午前。しかし15時。1科長より中隊長が呼ばれたのだ。1科長「連隊としては赤城1士を小隊人員として使いたい!」中隊長「予定では通信補佐と言う予定ですが?」1科長「本人も、迫を希望しているらしんだよ」中隊長「・・・」

中隊長「ブチッ!?」何かが切れた! 「いったい連隊はうちに何をさせたいんだ!ワックが普通科と言うだけで勝負なのに、小隊でつかえだと!面白くない!今日はその話はなしだ!」と、どなり帰った。中隊事務所で、冷静になった中隊長は言った「俺はクビだろうか?」

「と〜と、切れちゃつたんすか、そりゃマズイっすよ・・・・・。」 心配しているのかおもしろがっているのか良く判らない表情で 中隊長室を指さす田浦3曹。

先任も暗い表情になる。「陸士や若い3曹が切れたって言うならなぁ・・・まさか、中隊長とはなぁ。」 先任の目線には、人事係の机があり、その机の上には、すました赤城1士の写真付き書類がおいてアッタ。

中隊長は連隊長より呼ばれた。話あいの末、通信補佐の位置でよいとなった。連隊長「まぁ、本人の意見が通らないのも、この組織だからな。あと、〜〜」何やら耳内していた。
中隊へ帰った中隊長は、すぐに先任を呼びつけ、連隊長の話をそのまま伝えた。内容はこうだった

「くれぐれも、男関係だけは、問題ださないでたのむぞ。なんせ、とてつもない一家だからな。」だそうだ。溜息をついた


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