まいにちWACわく!その23(中隊訓練)

552 名前:まいにちWACわく!その155 投稿日:04/08/23 16:21

カタカタカタ…とキーボードを打つ音が聞こえる。中隊本部は今日も忙しい。1/四期末でもあり、もうすぐ中隊訓練もあるからだ
田浦3曹も机に積まれた書類を片づけていく「3日後には一夜二日の訓練があるってのに…仕事終わらないな〜」と珍しく悲鳴を上げる

極楽山で行われる「中隊錬成訓練」は部隊の進入→重要防護施設の防護行動→敵遊撃部隊の掃討の流れである。掃討は1〜3小隊、施設防護は対戦、迫はFOを各小隊に同行させて支援射撃を実施する
「しかしFEBAもObjも無いんだから変わった演習だよな〜」と先任は計画書を読みながら言う「これからは『対遊撃』の訓練がどんどん増えていくんでしょうね」と同意したように田浦3曹が言う

「ただいま〜」中隊の廊下に声が響く、検閲支援に出ていた人員が帰ってきたのだ「お〜お疲れさんです!どうだった…」先任が事務所を出て声をかけに行く
「帰ってきてすぐに演習か…仕事とはいえ大変だな〜」と呟く田浦3曹であった

2日後…事務所では錬成訓練の細部MMが行われている「…というわけで食事は全部戦闘糧食です。残飯等は埋めることなく後送して下さい」と岬2尉「地図はこのMMのあとに配布します。正規の地図ではないので事後の処理は各小隊ごと好きに使って下さい」と田浦3曹
中隊長が腰を上げる「次は検閲が待ってるからな、今回の訓練で仕上げないといかんぞ」


553 名前:まいにちWACわく!その156 投稿日:04/08/23 16:22

次の日…中隊の車両が駐屯地を出てぞくぞくと極楽山訓練場に向かっている「久々の状況さ〜楽しみだねぇ」と高機動車の中で言ってるのは具志堅士長だ
幌を外して偽装網をつけた高機動車に涼しい風が入り込んでいく。梅雨の中晴れかいい天気だ「赤城、高機動車の後部は酔いやすいから気をつけろよ」声をかけるのは検閲支援から帰ってきたばかりの鈴木士長だ
「?そうなんですか?」「ああ、高機動車は4WSだろ。だから後部が変に振れるんだよ」言われたとおりに体を少し前に向ける赤城士長
通学途中の小学生がこっちにむけて手を振ってくる。近所の子供は自衛隊車両を見慣れているが、やはり珍しいのには変わりがないようだ

訓練場に到着、中隊の隊員たちが下車して集合する「状況開始は0900、それまで各小隊ごと準備!」岬2尉の指示が飛ぶ。隊員たちは顔にドーランを塗り偽装を始める
「塗り方も今回はパターンが決まってるからね、右上から左下に緑、黒、黄色だよ」と神野1曹が声をかける。敵味方の識別のためにドーランの塗り方を統制しているのだ
そうこうしてるうちに状況開始の時間となった「状況開始〜!」岬2尉が大きな声で叫び、各小隊長が中隊長の下に集まる
小隊長が命令下達を受けている間、隊員たちは集結地で全集警戒を実施する

小隊長たちが戻ってきて中隊本部と施設防護にあたる対戦車小隊がまず前進する。その他の小隊は施設が襲撃されてから追撃するため、今はまだ集結地に残っている
「さて…まずは1班が警戒、残りは休ませていいいぞ」神野1曹が各班長に伝える。状況中とは思えないくらいのんびりとしてる3小隊の面々
「こんなにのんびりしてていいんですか?」当惑したような顔で質問する赤城士長「かまわんよ、休める時には休まないとな」とは片桐2曹だ
「ま〜状況って言ってもそんなもんやで。後々死ぬほど忙しくなるんやからな〜」と井上3曹に言われ、首をひねりながらも腰を下ろす赤城士長であった


554 名前:まいにちWACわく!その157 投稿日:04/08/23 16:22

何かの物音でふっと目が覚める、いつの間にか眠っていたようだ(あ〜もっとシャキッとしないと…)頭を振り周りを見渡す
木陰に高機動車を隠して林縁沿いに警戒要員が数人銃を構えている。それ以外の人は同じように寝ているようだ。ただ油断無く銃を持っているのはさすがと言うべきか…
ジープの助手席に座っていた小隊長が無線機のマイクを取り上げる「……了解!」力強い返事を返し「3小隊、前進用意!」と隊員たちに指示を飛ばす
数人の警戒員を残し各小隊が動き始める。中隊本部まで車両で前進して車両を残置、徒歩で攻撃開始線まで前進する想定だ

中隊本部地域に続々と入ってくる各小隊の車両を誘導するのは車両陸曹の水上1曹だ。各小隊の隊員たちが下車して歩き始めるのを見つつ田浦3曹は首をかしげる「変な想定だよな…」
(何で最初からこの地域を集結地にしなかったのか、1コ中隊全力で施設防護にあたれば襲撃の時点で敵を殲滅できるのに…)
『対遊撃』は自衛隊でも最近になって始めた訓練なので、実施する方もどこか不自然な想定になりがちである。それでも命令通りにやるしかないのが中隊の辛いところである

林縁沿いの道路に3コ小隊が並列、左から1,2,3小隊の配置で前進する。2小隊長が手を大きく挙げて前に振り、全隊員が前進を開始した


555 名前:まいにちWACわく!その158 投稿日:04/08/23 16:23

施設を襲撃して撃退された敵遊撃部隊は、南北に長いここ極楽山訓練場の「レンジャーの森」に離脱、これを各小銃小隊が捜索・殲滅するのが今回の訓練の想定だ
今回の想定では「銃器使用制限無し・発見し次第殲滅行動に移行」つまり「見つけ次第撃ってよし」となっている。ややこしい「正当防衛」や「緊急避難」は無し、という事だ

全隊員が横一列になり、南から北へと森を進む。ゆっくりと注意深く、あらゆる兆候、物音、不審物、ブービートラップ等を警戒、捜索していく
「慎重に…全身を神経の固まりにするようにな…」通信手として小隊長のあとを続く赤城士長に神野1曹がひそひそ声をかける
今回は検閲ではなく訓練なので、若い連中を鍛える目的もある。細かい指示やテクニックの伝授があちこちでなされている
「当然ながら銃撃戦は高い位置にいる方が有利だ…こういう丘を登る時は注意するように…」だまってうなずき慎重に坂を上る赤城士長
全体が止まり斥候要員が丘の向こう側を覗く。安全を確認してさらに前進する

手信号で休憩の合図が出る。小隊を二つに分けて警戒要員と休憩要員で別れて休憩する「ふ〜」腰を下ろしてリラックスする「休める時に休んでおけよ」と誰かが言うのが聞こえた
短時間で休むのには口では説明できないコツがある。コレばっかりは熟練の陸士長、古手陸曹にならないと難しい。わずか10分の休憩で小隊は前進を開始した


556 名前:まいにちWACわく!その159 投稿日:04/08/23 16:24

無線で報告を受けて地図上のオーバレイに小隊の線を書き込んでいく田浦3曹「ペースとしてはこんなもんですかね?」
ここは中隊本部の業天2号、中隊長は難しい顔をして野外用の椅子に座っている「このペースだと…少し遅いか?」そう言うのは岬2尉だ
「まぁ、相手がゲリラなら致し方ないのでは?」そう先任が言う「先任が若い頃はベトナム戦争のあおりでゲリラ戦全盛期だったそうですね」横から声をかける田浦3曹
検閲や状況となると意外にヒマな中隊本部、普段は警戒要員を出すが、今回は対戦が警戒に付いているのでますます仕事が減り気味だ

無線機から逐次部隊の状況が入ってくる、まだ敵との接触はないようだ。森を半分くらい行ったところで部隊は前進を止めて夜間に備えての防御態勢に入る
3交代で警戒するようにシフトを組み、部隊の前方に「痴漢防止用ブザー」を利用した罠を仕掛ける「これでよし…と」細いピアノ線を低く張り巡らせて片桐2曹が言う
「こういうのって官品なんですか?」その様子を勉強のために見ていた赤城士長が聞く「そんなわけないな、自腹だよ…」小さい穴を掘ってそこにもピアノ線を張る
「お父さんのところ(=海自)は予算に恵まれてるらしいけどね」「そうですかぁ?けっこう貧乏してたような…」


557 名前:まいにちWACわく!その160 投稿日:04/08/23 16:26

明るいウチに戦闘糧食を胃に収め、今は夜中の午前2時。細い月の明かりは森の中まで届かず「草木も眠る丑三つ時」はとても暗い
中隊本部の天幕も起きているのは田浦3曹だけだ「ヒマだ…」と呟く
今回の訓練では他中隊のレンジャー要員から数名の仮設敵を取っている。広い森の中で動かない数名の人間を捜すのは難しいなぁ…としみじみ実感している

同じ頃、警戒に付いている赤城士長。微光暗視眼鏡V−3をのぞき込み警戒している。最初のウチは物珍しさがあったが、狭い視界に緑一色の世界は意外と気分を悪くする
「微光」の名が付くように少しの明かりがないと効果がない。月明かりも小さい今の状況ではあまりよく見えないのが現実だ
(うう…気分が悪い…)何で一緒に警戒に付いてる井上3曹が「コレやるわ」と言ってV−3を貸してくれたのがわかった気がした
(この状況なら裸眼でいいんじゃないかな?)夜目が利くならV−3よりも裸眼の方がいい場合もある。実際、井上3曹はそうしている
(はずしちゃおうかな?…!)V−3に手をかけた瞬間、前方に何か動くモノが見えた


558 名前:まいにちWACわく!その161 投稿日:04/08/23 16:27

急な動きは逆に目立つ、動くモノを見つけて赤城士長は石のように固まった(敵の斥候?本隊?どっちにしろ知らせないと…)
しかし動けば敵に察知される。敵との距離は数十メートルか…(もう少し接近したらみんなを呼ぼう、でもその前に罠に引っかからないかな?)
そう思った瞬間、目の前の人影がバランスを崩すのが見えた。次の瞬間、痴漢防止用ブザーが鳴り始める「敵襲!」と横で叫んだのは井上3曹だ
たちまち何人か警戒線に入り応戦する態勢を取る「赤城!見えるか?」と聞くのは神野1曹だ「えぇっと…一人ぐらいしか」と言いかける
その言葉を待たずに「借りるぞ」と言ってV−3が取り上げられる「前方に2名、他は…無し!斥候ですね」後からやってきた小隊長に報告する
「そうですか…追跡は」小隊長が言う「数名を出しましょう、とりあえず中隊本部に報告を」

「中隊長!先任!3小隊が敵と接触しました」無線機に付いていた田浦3曹が報告する「どこだ?」弾帯を付けつつ中隊長が聞く
「ここです」と地図の一点を指す「斥候のようです、片桐2曹と数名で追跡中。本隊も前進させますか?」そこに岬2尉がやってきた
「せっかく敵が出てきたんです。追跡させましょう!私も前進します」そう中隊長に言う「そうだな…田浦、無線機を」そう言ってマイクをひったくる


559 名前:まいにちWACわく!その162 投稿日:04/08/23 16:30

結局深追いはしないという事で斥候要員も帰ってきた「実戦なら仕留められてると思うんだけどな〜」と片桐2曹がぼやく
付近住民との関係でここ極楽山訓練場では空砲が使えない。バトラーも前の検閲で使用しており今回は使えなかったのだ
「実際に見ないと敵がいるって感じがしませんでした…」ちょっとドキドキしている赤城士長であった

夜明け…明るくなると同時に中隊は前進を開始する。敵の斥候が来てるって事は、敵の本隊の位置も近い…そう考えているのか皆のテンションは高い
だがそれも10時くらいになると中だるみしてくる。実戦ならいつ飛んでくるかわからない実弾に備えて、緊張がとぎれる事など無いハズだが…
「実戦的な訓練は難しいよ。なぁ?」と中隊長が言う「確かに…難しいですね。対遊撃は特にですね」同意する田浦3曹
「空砲も使えませんしね」と相づちを打つ先任「やはり実戦を知る人がいなくなったのが痛いのかもしれませんね」
頷く中隊長「権藤さんにでも支援してもらうか…」


560 名前:まいにちWACわく!その163 投稿日:04/08/23 16:31

敵を発見したのは1小隊だった。小高い丘になっている地点に軽易な陣地を築いていた「これはあれだな…FOはいるか?」岬2尉が迫小隊のFOを呼ぶ
「野村2曹、現在地!」とすぐ後ろで迫小隊の野村2曹が声をかける「お〜あの陣地に落とせるかい?」「…座標が…現在地は…わかりました、小隊に連絡します」
そう言って無線機で座標等の細かい指示を出す「1035から3分間、一旦小隊を下げてください」そう岬2尉に言う「わかった、各小隊長!」そう言って細かい指示を出す

対遊撃に関しては敵を発見するまでが勝負。重火器を持たず陣地も軽易なゲリラ部隊は迫撃砲の前に無力である。最終弾落下と同時に1小隊が突撃
3科から支援に来た審判要員が「敵全滅」の判定を下したのはその数分後だった

「状況終了!」無線機で指示を出す田浦3曹「いつもこの瞬間は嬉しいですね」先任もため息をつく「そうだな…各小隊ごと異常の有無を報告させてくれ」と田浦3曹に指示を出す
「ここでモノを落としてたら洒落にならんな…」補給の林2曹が呟く。訓練が終わったのに這いつくばってモノ探しなんて誰もゴメンである

「3小隊異常なし、了解」全小隊から異常なしの報告を受ける「一安心だな…よし、撤収!」


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