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6 名前: 第1話 「転入者」1 投稿日: 03/08/02 16:35
8月2日
中隊長以下7名の転出者の引っ越し支援も無事終了。惜しまれつつ去ってい
く者も、影でぼろくそ言われてた奴も表向きは「ご苦労様」「ありがとうござ
いました」と声掛けつつ去っていった。我が1中隊には、来春の連隊改編をに
らんでの人事か、幹部1名、准曹3名、陸士1名と−2名の補充だ。そのうち
陸士は、来春の任満退職をにらんだ異動者なので戦力とはいいがたい。
来週中には、転出者も全員掌握できそうだ。出戻り1名以外面識はない。新中
隊長 石田3佐は、比較的常識ある人物との情報を人事幹部から聞いているが
こと指揮官の人物評は当てにならない。指揮官交代に伴う取扱主任検査も、指
定品目だけでいいことになり、補給の鈴木曹長もかなり負担が少なくなった。
中隊の補給係は俺も経験したが、そんなに難しくなかったと記憶していたが、
元銃剣道のエース 鈴木曹長にとっては苦痛このうえないようだ。元武闘派も
すっかり肥満し、中隊の若い者たちから「ローンソルジャー」と言われている
だけの親父である。私もそうだつたが、陸曹になってからも戦技だけやってい
ると潰しがきかなくなる見本である。2・3曹には「反面教師」でしかない。
今度の転入者で、気がかりなのは北方からの出戻り瀬野1曹だ。
7 名前: 専守防衛さん 投稿日: 03/08/10 18:40
転出したときは3曹で、周りでは「身売りされた」「人身御供だ」とも噂されて
いたが、実は私は知っている.本人の希望だったことを…
「最前線部隊(当時)に行って、自分を鍛えてみたい!」と中隊長に直訴し、喜
び勇んで雪深い北海道に転属してはや10年、1曹に昇任してるということは…
それなりに活躍したということか。早速面接をしてみることに
「ひさしぶりだな〜瀬野!元気だったか?」
「お久しぶりです。まぁそれなりに元気ですよ」
「向こうでは何やってたんだ?まさかずっと臨勤じゃ無いだろう?」
これが一番の不安だった。北方ではスキーのできない隊員は、どうでもいい勤務
にまわされることが多いと聞いたからだ。
「普通でしたよ、演習行って訓練して…」
「スキーは?大丈夫だったか?」
「最初の年は苦労しましたが、やったらどうにかなるもんです」
どうやら私の心配は杞憂に終わったようだ。「頑張れよ」と声をかけて面接は
終わった。
「先任、どうだった?瀬野1曹は…」同じく心配だったのか運幹が聞いてくる。
「どうやら問題は無いようですな、一安心です」
「そうか…」安堵のため息「よし!ほかの転属者も頼むわ」まぁ気軽に言って
くれる、いつものことであるから気にしない。
これで新体制がととのった、来年の改編時期まで何も無ければいいのだが…
8 名前: 第2話「中隊長要望事項」 投稿日: 03/08/11 01:05
着任式も近年希に見る早さで終わった。連隊長による新中隊長の紹介、中隊
長の所信表明そして巡閲・・・入隊以来何度経験したろうか。前任者は、CG
S出のBだが、余り人格者とは言えなかった。ほとんど部隊経験もなく、検閲
等では、運幹が起案した命令を朗読するだけで特に実員指揮とか言えることは
していないと言える1年4ヶ月であった。あまり部隊勤務に対する情熱もなく
隊員の服務指導にも取り立てて方針を示すことなくことなかれだった。こんな
人が連隊長やるのかな・・・まあ、パッとしてないから師団長はないだろうけ
ど・・・とぼんやり考えながら中隊長の初度巡視に同行している俺だった。
新中隊長の要望事項「努力」か・・・・なかなか努力できない、しない者がい
ますけど中隊長お手柔らかに・・・・。
10 名前: 第3話「改編の嵐」1 投稿日: 03/08/23 11:44
中隊の充足率は、ここ数年確実に低下している。特に、来春の改編に向けて
三月に19名出たのがでかい。後方態勢移行のため、整備特技持っている者は
片っ端だった。となりの中隊では、自動車整備の専門学校卒業の1士まで取ら
れた。それって、自衛隊の特技か・・・?「来春から、ナンバー中隊6コに
なるのに大丈夫かな」入隊同期の隣の中隊の小隊長 神原2尉が麦茶飲みなが
らその特徴のあるだみ声出しながら俺しかいない事務室に入ってきた。「おっ
精強 2中隊の対戦車小隊長暇そうですな」、結局連隊にいまも残ってるのは
俺と神原だけだ。奴は、驚異的早さで昇任しSLCもトップで出た切れ者だ。
「おっ 先週司令部で聞いてきた話だが、特科と戦車減らすのは部隊だけで人
間は7割方残るらしいぞ」初耳だつた。神原の妹は、WACで今は師団司令部
付隊に勤務している。そいつの旦那も、付隊所属で司令部1部勤務している。
神原の「司令部から」と言う情報はほとんどそこがニュースソースらしい。
「大砲撃ちや戦車乗りだけの小銃小隊なんて様にならんだろ」ははなるほど、
師団改編で、残留を希望する他部隊の隊員の受け皿になりそうだと言うことか
・・・。以前、7師団が機械化から機甲化になる時、大量に普通科隊員が3コ
の戦車連隊に流れて、大変だつたと言う話を聞いたことがある。
15 名前: 第3話「改編の嵐」2 投稿日: 03/08/26 18:43
「先任、陸士の数減るって本当すか?」浅黒くずんぐりしたいかにも九州
男児然とした今田3曹が神原2尉と入れ替えで事務室に入ってきた。「おっ
今日は代休だったな」「そうですよ 今は業務隊輸送班のエースですから」
今田は、大学を中退して補士で入隊した。今でこそ、補士制度は定着して陸
曹の供給源となっているが1〜3期は概して素養も低く中隊にも四名来たが
ちゃんと陸曹として働いているのはこいつだけだ。陸曹教育隊も前期中隊長
賞 後期教育隊長賞だったな。九州で入隊してあえて、地元以外でやつてみ
たいとこつちにに来て、3曹になってからも「臨勤も経験ですから」とみん
ながいやがる輸送班勤務も承諾してくれた。幹部になっても、陸曹のままで
も中隊の軸になってほしい奴だ。「陸士の数か・・・わからんな また来月
には新兵来るけどな・・」「そうすか・・・なんか業務隊の連中の話だと来
春の改編見越していろいろあるみたいだし・・・・」実際俺もよくわからん。
ただ、このままでいられないのは事実だが・・その日の1500 命令会報
で1科に言った時、改編の足下を感じざる得ないことを庶務幹部から聞かさ
れる。「1中と3中の先任は残って」付配置まで半年切ったがおよそ50代
には見えない庶務幹部 宮本2尉から飛んでもない爆弾を投下された。
22 名前: 第3話「改編の嵐」3 投稿日: 03/08/26 22:18
「1中はどうなった?」「はあ・・」何言ってるんだこの人。3中の付准尉
の池田曹長が割ってはいる。「3中はダメですよ。絶対に。」池田は39歳
と若い。曹学で重迫中隊に来たのがまだ最近のような気がする。彼は、自衛
隊三世で、彼の親父も3佐でつい数年前に定年になったばかりだ。1曹にな
ってすぐに富士学校に助教として三年いたが、曹長昇任とともに連隊に戻っ
てきた。普通科部長から、連隊長に「幹部になるには部隊にいた方がいいだ
ろう」との電話での電撃人事だ。しかし、温厚な池田が語気荒げているのは
なんだろう・・・・。「宮本2尉 なんのことです?」探ってみるか・・・。
「あれ、前の中隊長に聞いてなかった?」何のことだ・・・・。「じゃあ、
3中はいいよ」「頼みますよ 本当に」長身の池田は何事もなかったように
1科を出る。廊下で副連隊長とでかい声で話している。ことさらに、ゴルフ
の話なんかしやがって・・・。「すいません。前中隊長からは何も・・・」
「あっそうなんだ。いいよ。まだ調整のための調整だから」何のことだ・・
来春の改編がらみか・・「あのさ、一般論としてナンバー中隊にWACって
問題あるかな」「職域解放の範囲なら問題ないでしょうね。庶務幹部、女
の子の話ではないでしょ。」なんだ。いったい・・・。「はは、バレバレか」
「これオフレコね 来春の改編で特科の一個大隊分の人間丸々来るんだよね
。それでさ、実際どんな奴来るかわかんないけど病人や訳ありがそうとう流
れてきそうなんだよね それでね・・・」宮本2尉の話を要約するとこうだ。
35 名前: 第3話「改編の嵐」4 投稿日: 03/09/05 19:32
庶務幹部は、1科長の密命をうけ人事幹部とともに師団改編で受け入れる
隊員特に・・・服務上問題ある隊員の受け入れ先について色々と水面下で動
いているらしい。特科連隊が、特に問題視しているのは幹部2・陸曹17・
陸士7としているが、実際はどうなのだろう・・・。付准尉としては、1名
も欲しくないのが心情だ。結局、俺には具体的打診はない。しかし、池田の
あの勢いから相当問題隊員を押しつけられそうなのかな?
そんな事を思いつつ連隊本部隊舎を出た。後期教育中の新隊員が機関銃を携え
ハイポートしていく様子を脇を見つつ事務室に戻って行く俺だった。そして、
三日後、改編準備室内に庶務幹部が人事調整係を兼ねる人事発令通知を見るこ
とになる。
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