三島番外編04 新隊員編

自衛隊に向かう風景

「なんだか、刑務所行くみてーだな」
静かなマイクロバス内で、誰かがこう漏らした。
バスの中にいた、若者達に、その一言が重くのしかかる…
自衛隊に入隊…
世間に大きく公表される事の無い、自衛隊の新隊員教育の場へと、護送ならぬ、人員輸送と言う名目で、バスの乗員 新隊員となるべく13名は駐屯地にむかった。
「自衛隊なら入れるかもよ」
三島が高校時代、担任や進路指導担当の先生から言われた一言だった。
優等生と呼べる高校生活ではなかった。特に部活に燃えるわけでもなく、と言い、停退学をするような悪でもなかった。
が、勉強好きじゃないなどの理由 三島自信、「自衛隊て走ってれば金もらえるんだろ」と言う気持ちだった
バスは駐屯地内に入り、連隊教育隊 と書いた看板がひときわ目立つ玄関の前に止まった。
ここに来ると、さすがに皆、何かを感じとったのか、誰一人無駄口を叩く事がなく、静かになっていた…


20代後半から30代くらいだろうか。
山本と名札のついた人がバスから降りると、「佐々木君!佐々木和也くん!高橋君〜!高橋弘之くん!」とひときわ大きな声でバスの前で呼んでいる
いや、よく見ると、山本以外にも3〜4人、同じように、名前を叫ぶ人がいる。
「三島君!」山本が叫ぶと 三島はすぐに反応をし、山本の元にかけよる。
佐々木・高橋・三島の3人は山本につられ、営内1区隊2班へと誘導される。
みな緊張しているようだった
部屋に着くと、さらに緊張は増す。
二段ベット が4つ並ぶ部屋
既に先に来ていたのだろう
3名ほど、青いソファーに座り、煙草をすいながら、雑談していた


山本は、三島、佐々木、高橋の3名に
「君達は、まだ18歳だが。もし煙草を吸っていたりしたらここで、堂々と吸ってよいからな。ただし、灰皿にはこの煙缶を使用すること。あと、細かい説明はのちほどするが、ようは、隠れて吸って火事を出さない為だと言う事だ。まぁ今から、ジャージに着替え、荷物を整理でもしてなさい。今日の夕方には、部屋の8人全部揃うから。何か疑問があったら、この廊下奥の事務室まで来るといい」三人は長々とした話より エンカン?と言う聞き為れない言葉に疑問を持っていた。
先に来ていた、林、森田、仲間の三人が、「これからよろしくなぁ〜」とかったるそうに、挨拶をしてくる。三島なども「よろしく〜」とかったる返事で帰す。
山本はじめ、自衛隊の光景が予想と大きく違う事からのダルさの現れだろう。
三島は、〔こいつらも俺と同類な感じかも〕と感じていた。
彼らはまだしらなかった。
着隊した時はお客様扱いであると言う事を…


初めての作業

営内班にはすべての、新隊員がそろい、夕方、隊員食堂、風呂 売店と駐屯地内を使用しながら案内される。
飯を食い終ると、班付きと呼ばれる、佐藤士長が、「残した食べ物は、大きな皿に一つにまとめて」と説明
その後も風呂 売店と説明をされながら、用事をすませ、営内に帰ると山本と佐藤が、「じゃあ、自衛隊の布団の取り方おしえるから」と教えてくれた。最後に来た、熊田が熱心にメモをとるなか、淡々と作業が行われる。それぞれが、自分のベットメイクを終ると山本が、「自衛隊の消灯は23時。23時になったら佐藤が、見にくるから、電気を消してゆっくりやすんでくれ」と説明する。すると佐藤も続いて「電気が消えたら、私語はしないようにな。あと消灯前に確実にエンカンを洗って、元の場所にもどせよ」と
やはり優しいのだった。
次の日、作業服や制服、靴などの官物品の調整、交付を受け
名札などを、手縫い作業である。
三島は疑問に感じ、「なぁ、自衛隊てこんなにヌルイのかな?」と聞くと、みな一同に「そうなんだよなぁ なんか班長とかも優しくてさぁ、意外に、厳しいイメージが先行してるだけかめなぁ」と口を揃えて話した。
次の日は、金曜だった。日曜に控えた、入隊式の為、ほぼ、初めて自衛隊の事をする。しっかりと敬礼を学び、号令通りの基本教練を学ぶ。朝から夕方まで、ひたすら、回れ右などの単純動作を繰り返す。ドンクサイ奴もいたが、夕方には、さすがに、人に見せれるようにはなっていた。
終礼で、区隊長の藤田3尉は、やはり優しい口調で「今日の君達は頑張ったな。明日は入隊式の予行、明後日は、入隊式、親が来る人も多いだろうから、今日やった事忘れないで、いいところん親に見せて安心させてやるんだぞ」と言っていた。


入隊〜思い知る若者〜

「宣誓 〜」
入隊式を終え、親などを含め会食をし、日曜日の17時を終わった。入隊式では、親に「大丈夫だよ。自衛隊の仕事思ったより厳しくないみたい」と説明した隊員も少なからずいた。
しかし、事件は起きた。夜飯〜風呂と新隊員が部屋を開けた時、山本、佐藤の二人は、営内居室に来て、毛布をちらばし、半長靴をロッカーから、部屋中に放り投げ、ロッカーの中の作業服などもまきちらし始めた。
「まだ始めだからこれくらいで勘弁しとくか」と山本が言うと不満顔ながら佐藤が「そうですねぇ、俺の時はロッカーも倒れてたりしましたが〜山本班長がこれでいいなら…」と一言
滅茶苦茶な部屋の扉に【汚い部屋には台風が来る!】と書かれた紙を一枚貼り付け、事務室へ帰って言った。
20分後〜 「ウワァ〜!なんじゃこりゃ!」三島の声を筆頭に、各部屋から台風の脅威、被害の絶叫が聞こえてくるのだった。


台風の後片付け中、佐々木「ところでさ、俺達のゴールデンウイークてあるのかな?」
こんな事をボソッと漏らした。
高橋は
「あるだろ!?てか、ねえと困るよ!連休中に俺、彼女と旅行行く予定なんだから!」
すると三島は…
「彼女いるんだ?いいなぁ、うらやましいよ」と休みの話から女の話へと移行させる。この頃の三島2士は純粋だったようで…
いつしか、清掃そっちのけで、班員全てが、彼女がいるとかいないとか、童貞だとか、童貞じゃないとか、初外出にみんなでナンパしようとかで盛り上がっていた。
笑い声も静寂な廊下に響き渡るほど、若い隊員達には、女の話が楽しく…
しかし……
「おい!お前ら!」怒鳴り声にビクッと反応する2班員。声の方向を見ると、藤田3尉だった
「整頓も終わらんうちに雑談とは随分余裕だな!よし!全員その場に腕立ての姿勢を取れ!」
永遠と続いている感覚に陥る腕立て伏せをしている中、三島は(彼女かぁ〜)と考えていた。
このボケ顔に藤田は三島に対しさらに腕立て10回をプラスした。
今後の三島の人生を左右する、藤田との出会い
純粋で童貞な三島少年はまだこの、出会いの重要性には全く気付いていなかった


区隊長精神教育

入隊式から3週間がすぎた。三島始め、2班の面々は、自衛隊生活にも徐々に慣れきていた。
しかし、相変わらず、筋肉痛は襲ってくる。森2士は、太めな体重も祟り、「俺もう駄目だ〜。自衛隊はやっぱり厳しい〜〜」と愚痴る毎日だった。
最初こそ、仲間や、佐々木などが励ましたが、その愚痴り癖にストレスを感じたようで「ガタガタうるせー!」と不仲になり始めていた。
そんな中、精神教育が行われた。
内容は、自衛隊について と言うなんじゃ?そりゃ?な事だった
その教育中、教官の藤田は、自分の自衛隊生活を惜しげも無く語った
22で自衛隊入り〜3曹になり
処分くらったり
災害派遣行ったり
結婚したり
息子を自衛官にさせようと考えていたら、生まれて来たのは娘ばかりでがっくりしたり
SLC受ける決意し勉強したり〜
とまぁ、教育の課目からは、脱線していたが、笑いも入れ楽しく教育をしていた。
こんな教育の中、三島は、印象に残る言葉を頭に叩き付けられた。
藤田
「俺は、この自衛隊生活をしているなか、いつでも、戦争に行っても言いように後悔しない生活を送っている!お前達もこれから、そうゆう自衛隊人生を送ってくれる事を願う!趣味、女、なんでも良い!事件や事故を起こさない程度に、明日戦争行っても言いように遊び、学び、1日1日、しっかり考えて行動してくれ!」
三島の胸に、ズキュンと響いた


本格化

「イチ イチイチ二!」
楽しい連休が終わったある日の課業中である。新隊員達は、ハイポートをなんとかこなしながら、自衛隊の辛さを味わっていた。
ハイポートの理由は、集合時間に全員集まる事が出来なかったからである。
5月〜 行軍 射撃 訓練も本格化する時期である。
課業外の話題はもっぱら女の話だった
「彼女に、体付き変わったって言われたよ〜」
自慢するものもいれば
「彼女と別れた…」と暗い話題の人間もいる
三島は
「生まれて初めてナンパしてみた。けど、難しいなぁ。失敗ばかりだから、もっぱらゲーセンで過ごす連休だったよ…」て暗かった。
そんな暗い新隊員も沢山いる場所に、10キロ行軍の恐怖がヒシヒシと迫っていた


「訓練非常呼集〜!」
朝靄がのこる、05:00
10キロ行軍すべく新隊員が寝ている隊舎内に、声が響く
「服装はジャー戦(ジャージズボンに上戦闘服装)で点呼位置に集合!」
声が一段と響く
眠い目をこすりながら新隊員が集まる
点呼をいつも通りすませると、各区隊長は区隊の前に立つ。
藤田3尉は「05:40より隊容検索を行う!背のうを背負い武器を般出したなら、この位置に集合 武器般出は0530」
相変わらず厳しい時間割りである
無駄口を叩く暇などない
皆、それを理解し、整斉と準備を整えた。1ヵ月前とは比べものにならない、自衛官としての成長ぶりである。
隊容検査を受け終わる
生まれて初めての、運搬食事を飯ごうでたべる。食事となると元気も出てくるのか、軽く雑談を小声でするものもいた
高橋「背のう、銃に鉄帽…実際重いわな…」
佐々木・三島「だよなぁ…本当に10キロも歩くのかな?イヤだな…」
その日は5月にしては、とても暑く…こんな若者達を苦しめる事になるのだった…


7時。
10キロ行軍が開始された。
綺麗に隊列を組み意気揚々と歩きだす新隊員
先頭には、山本3曹が手旗を持ち…後方には、藤田3尉が無線機を背負い共に行軍している。
5月の朝〜 普段は涼しく、訓練日よりな朝も、今日は嫌に暑い。
背のうなど思い物を背負って歩いていると、普段何気なく歩くアスファルト道路に足がうもりながら歩いているのでは?実は砂場をあるいているのでは?
こんな錯覚すら起こす
上かり太陽の光、下からは照り返しがある道を歩く
行軍開始40分
状況は変化してきた。隣の一班の石田二士が、遅れ出したのだ!
脱落…
二班の面々にもこの言葉が頭をよぎる。
「行軍中は敵がいるかもしれない。だから行軍中は無駄口を叩くな」 と行軍開始前に藤田3尉が言った言葉が残っていたから、「頑張れ!」の一声がかけれない。
佐々木、高橋 仲間誰もが、その悔しさ、人の脱落から、自分への不安を大きく実感した時
「石田!頑張れ!きっちりあとついて歩け!」
三島だった。誰もが驚き、三島を注目すると、額を汗を流し一生懸命な顔をして石田に呼び掛けていた。
石田はその言葉を境に意地を見せ行軍完遂出来た

四キロを歩き、初の休憩である
「やっと休憩だぁ」と佐々木が普通に座ると
山本が来て
「佐々木、高橋はこの方向の警戒 。三島、仲間はこの方向」と命令を下す
まともな休憩なんて無い。新隊員に対し多少厳しいが、これは、藤田の方針であえて厳しくと言うものだった。
休憩が終わり歩き出す。先ほどより太陽は照りつけ額のみならず、迷彩服自体が汗で濡れ始めるものも出てきた
しかし…先ほどの石田が脱落しそうな時の三島の一声に気合いが入ったのか、遅れる者なく次の休憩に入った。
休憩中…藤田が区隊の全員に向け、服装をしっかり整え、靴ヒモの緩みがないかなどの点検を指示した


10キロ行軍の終わり
ラスト2キロ
慣れない行軍も終わりに近づいた
普段見慣れた駐屯地の正門が近い
誰もが安堵の気持ちだった。
正門をくぐると、教育隊の事務所要因達が拍手で迎えてくれている
いつの間にか藤田は先頭にいて
「頭〜 左!」と要因達に敬礼をさせた。区隊全ての人員が警衛所を通過すると
「直れ!」と一段と大きな声が響く
誰もがやっと終わったと安堵した時だった……
「控え〜つつ!」
新隊員「!!」
一瞬の間に間髪いれずその声が響く
皆控えつつの体制を不思議そうな顔でとると…
「駆け足〜 進め!」
一瞬の安堵など打ち砕くハイポートである。しかも、向かう先がどう考えても隊舎ではない
先頭は再び山本になり、笛を吹きながら手旗にて、誘導している
その先は…
戦闘訓練場
行軍とは違いハイポートとなると当然脱落しかける者も出てくる
一班からは石田
2班から森が
「おらぁ!同じ班員が脱落しかけてるぞ!助けてやらんかぁ!」
もう誰の声かもわからないくらいの疲労を感じながら、2班の面々も森を引っ張り、押し、励ましていた
しかし、2班付きの佐藤も容赦ない
「我ら 新教 どこの部隊も 負けない〜」と呼称を掛ける
しかし声が中なかでない
「もっと声だせー!出さないとおわらんぞ!」
さらなる激が飛ぶ
最後の力を振り絞り声を張り上げる新隊員
無事ついたのは…予定通りの戦闘訓練場
皆、息を切らしながらも一班〜三班と並んでいる
その前に藤田が出てきた
「只今より区隊は、駐屯地の台を攻撃脱出する 攻撃順は一班 2班 3班の順
各班長は、準備できたら、別名なく、攻撃開始せよ!」
各班の隊員達は、この訓練が終わる事を夢見て、言葉にならない気勢を上げ突撃した
結果
「駐屯地の台、攻撃成功、状況終わり!」藤田の声だった
こうして駐屯地の台を疲労困憊するなか、奪取した一区隊新隊員達
行軍終了後、衛生班が開設した診察部屋には、足の水膨れの治療に訪れる隊員が多かったと言う…

そして彼らは、水虫と言う悪魔の存在を知らされるのであった…


「この靴下履けばさぁ、こいつは大分楽になるみたい」
こう熱弁するのは高橋である
5月末から雨の中の野外訓練が異様に多い
暑い中の訓練も勘弁ではあるが…
雨の中の訓練はさらに辛い
何より辛いのは、行軍で出来た、足のマメなどが、治る所か、悪化する一方…
その影響だろうか?水虫と言う悪魔は着々と新隊員に近づいていた
藤田3尉は「水虫なって一人前自衛官!」なんて力説するが…
「水虫なんてあったらモテないよね?」こんな疑問をいち早く投げつけた三島、それに同意する2班の面々
しかし…、座学の時間を中心にもぞもぞと足を動かしている新隊員は増えて行くのだった
水虫対策を一番に切り出したのが高橋だった。
最強の武器と自ら信じる五本指靴下を右手に取って…
そんな彼らは、水虫にならない職種を無意識に希望していくのである…


職種

今日は朝から異様な空気が張りつめていた
テレビ画面の中ではあるが…
フラフラになりながら重装備で歩く隊員、食料が無く、ミミズを食べる隊員…
そう、今日は1日、職種についての教育と言う事で、一発目に空挺のビデオを見ていたのだ。
降下課程の映像の時は興味を示す新隊員もいたが
空挺レンジャーの教育風景に変わると、次第に場は静まり返って行った…

その後、各職種の教育を藤田3尉より受ける
普通科は、陸上自衛隊のメイン部隊で…特科は簡単に言うと大砲で
施設は要すれば土方で
武器は町の整備工場で…
どうも、普通科以外はあまりPRする言い方は無いようだが、新隊員にはそんな事はわからずだった。
そんな日の課業外
「やっぱり輸送に行ってすぐ大型の免許欲しいな」と、佐々木が言えば
「警務ってかっこいいイメージあるよ。俺でも行けるのかな?」と仲間
さらに「俺は、水虫にならなければ…」と、医務室でもらった塗り薬を足に塗りながら高橋が言う
「俺は、ワックと知り合って楽しく仕事したい!」こう話すのは熊田である
特に興味を引かれる職種が無かった三島が、唯一反応した言葉である
ワックと仕事…
それ、いいかも…
と、なると…
「なんの職種だとワックと一緒に仕事出来るのよ?」
身を乗り出し、熊田に確認する三島だった。


新隊員後期への道〜現実〜

入隊当初から少し、雰囲気は違っていた熊田
自衛隊慣れしているわけでは無いが…回りが知らない知識を知っている事が多いのだ。
そんな熊田が珍しく力説する
「やっぱり、ワックと仕事するって言ったら、会計とか通信、戦闘職種なら特科だよ!ワックも多いとなんとなく楽ってイメージもあるから、選ぶならそのあたりだよ!」
皆、ウンウン頷いて聞いている
さらに
「武器なんかもワックはいるみたいだけど、全体が職人みたいな人達ばかりで、結構ストレスたまるみたいだよ」
と続ける
どこから来た情報かはわからないが、妙な説得力があり、皆、ウンウン頷く
〔特科かぁ…確かに、でかい大砲をぶっ放せば、気持ち良さそうだ…しかもワックがいるってのもいいし…第一希望は特科にしてみるか〕
と三島は考え始めていた。
それから数日後
藤田3尉との面接があった。
藤田「希望用紙に特科と書いたようだがなぁ」
三島「はい。なんとなくですが、大砲を射撃する姿がかっこいいので」
藤田「そうか。そういうイメージを持つてるのか。それは良い事だぞ。ただな…」
藤田は一度言葉をとめる。
「特科に行くって事は、北海道に渡る事になるんだよ」
三島「…北海道ですか?」
藤田「特科の枠がな北海道から1名分しかないんだ。しかもつけ加えると、2区隊にいる近藤2士が彼女が北海道の大学いるとかで、北海道を熱望しててな。彼に決めようて話が強いんだ。」
沈黙する三島に藤田は
「どうだ?大きさこそ違うが、連隊にある迫か重迫で後期受けないか?今の連隊なら大型もすぐ行けるし最高だぞ」
いきなり浮上した迫の話に困惑しながら、三島は…
「次まで考えておきます」
と言って退室したのであった


「で?三島はなんて言ったの?」仲間と職種の話をしていての1コマである
土曜日、せっかくの外出日であるが、6月の雨はあまりに外出意欲をけづりとる。
娯楽室にて、仲間、三島、佐々木の三人は、私服姿で桃鉄をしていた。
三島「いやさ、さすがにワックと楽しく仕事したいなんて言えなくてさ…」
仲間「そりゃ言えないよな」
三島「…実際悩むんだよな。なんか大砲の事考えてたら、実際にあれをぶっ放してみたくなってきたし、免許もすぐって言うし」
と、佐々木が口を割り
「ところでさ、腹へんねぇか?」
時間は昼、13時だった
雨もいつしか降りやんでいる
「外出して飯でも食い行くか!」と、張り切る三人
警衛所まで歩いて行くと、正門にワックが立っていた
隊列を組み歩く三人
身分証、外出証の点検を終え外出を始めた
すると仲間が
「今のワック…重迫中隊の名札だったな」
三島「俺も気づいた!てかさぁ普通科でもワックているんだな。なんか、迫とかで後期やっても希望持てるかも!」
佐々木「おっ!?三島は早くも職種決定か?」
三島「う〜ん やっぱりワックと仕事したいし免許も早く欲しいな。そう考えれば…」
こんな不純な同期から、三島は連隊に残る決意を固めていくのであった


職種決定

「三島…お前、職種の希望する事になんか、隠してないか」藤田は、三島を目の前にはっきりと発言した
「……実は…」
悩み抜いた挙げ句、一生を決めるかもしれない、返事
三島は思い切って藤田に話た。
2回目の面接である。ここで職種と任地先はほとんどの者が決まるだろう
「実は、婦人自衛官と仕事をしてみたいんです!女の人でも、自衛官と言う辛い仕事を頑張る姿を見て、自分自身も…」「奮い立っちたいんです…」
藤田の前ではっきりと言い切った。
昼には、前期最後の体力検定もあり、すでに筋肉痛襲われている身体で…
本音は、普通科は勘弁してくれ〜!だったろう。
駆け足、行軍…もういらないと思ったからこその…
熊田が【ワックがいる部隊は体力的に楽と思う】と発言があったからだろう
その気持ちを、ぶち壊すかのように
ある意味希望を見出すように藤田は言った
「そうか。そういう事か。お前は、その理由で職種をえらんで、戦争行って、死ぬ覚悟があるのか?」
三島はドキッとした
最初に言われた言葉…
後悔しない生き方…
やっぱり彼女が欲しい。ワックと仲良く仕事してみたい!
「はい!それが自分の後悔無い生き方だと今は思います!」自信満々に、ハキハキと発言する三島
藤田は一呼吸おき
「よし わかった!お前は、うちの連隊の迫だ!あとは俺にまかせろ!大型も俺にまかせろ!」
と言う
三島は意外すぎな答えにボーゼンとしたが
藤田は続いて
「今、連隊には、本管中隊と、重迫中隊にワックはいるんだが、今年の後期で、迫にワックを入れ、ナンバー中隊にワックを入れる計画がある。だから、後期からは、ワックの頑張る姿を見て、奮闘しろ!これで決まり!意見は無いな!?」
こう強制されると当然何も言えない三島2士…
こうして、三島の未来は決まったのであった


終わりが近づく
各人の後期の教育場所が決まった
三島、高橋は連隊に決定
仲間、森は施設
ただ仲間は、施設大隊で教育を受けたのち、連隊の本管中隊にある施設作業小隊への配属
熊田は宣言通り、ワックも多いと思われる、高射特科へ
しかし…任地先は、北海道…
さらに言えば、僻地手当てが付くのでは?とまで怪情報が流れるほど良い話はなかった
が、それぞれが、藤田とじっくり話合い決めた道

それぞれの合い言葉は、【頑張ってこう!】
と、単純ではあるが、約3ヶ月を苦楽をともにした、同期に多くの言葉など必要ないのである
そんな中、新隊員前期、最後の訓練
総合野営を迎えるのである


今日も藤田3尉の声は響いていた
「食後、12:30より、天幕を構築する!質問」
負けじと、気合いの入る新体員
「無し!」と答え
別れて、初めての缶飯わ食べる
とり飯…
決して美味いとは言えないが、若い隊員達にはお構いなし
ましてや、ここは演習場
贅沢など言えない事は誰もが知っていた。
食事をしている、2班の面々に、山本3曹は、「天幕構築が終わったら、陣地を守る為、保哨を付ける。よく監視容量を思いだしとけよ」と告げる
すると班員の中には、教範と呼ばれるマニュアル本を読みながら飯を食べる者、ノホホンと飯を食い続ける者がいる
こーゆう所で将来、差が付くもんだなよなぁ
と山本は思いながら、鍛え上げた班員達を見ていた


「杭持ってこいよ〜!」
こんな声や、打ち込みのカーンと言う音が響く
天幕とはようはテント
明日、朝から25キロ行軍であるから、ここで眠る時間も少ないだろうが
行軍終了後、もう一泊するので、基本にのっとり構築していた
天幕が1張り構築されると三島と仲間の二人は、班付きの佐藤に引きつられ、監視の為の穴を掘っていた。
「……」文句も言わず、ただエンピを扱う二人
太陽は容赦なく、二人を襲う
すると佐藤が
「おし!ちょっと休憩だ」
と言い、ぬるかったが…缶コーラを二人に渡した
「これは、他の奴らには内緒だぞ」と今まで厳しさばかり目立った、佐藤の優しさ一面を二人は確認した事、さらに、ぬるいが、演習場でのコーラの美味しいを味わい…感動していた


夜21時
一時状況は中止され、明日の行軍に向け、早めの睡眠を取る
2時頃…
森は、用便を足しに外に出ると…
小ぶりではあるが、雨が降っていた
「雨だ…」
雨衣を着ての訓練は幾度となく経験はしたが…
辛いと言う思いしか、森には無い
嫌、森に 、と言うより、陸自の隊員に取って雨は、大敵と言えるだろう
「朝から雨なら…もう逃げたいなぁ」
無意識に口に出す森。
一時期、自分の弱さから、班員達を怒らせた
さらには、10キロ行軍の最後のハイポートでは遅れてそうになり、佐々木などの体力自慢から背中を押してもらった記憶が蘇る
駐屯地では無い
演習場にいる今なら…
そう一瞬、頭をよぎるが…
【頑張ってこ】
こう言い合い励ましあった同期を裏切るわけにはいかず
「ここまで来たら逃げるなんて変だな…よし!気合い気合い!」
と自分に言い聞かせ、天幕へ戻ったのだった


朝…
「うわっ!雨だ!」起床時間は05:00
誰もがこの雨にショックを隠せない
しかし、行軍は始まるのである。
雨に濡れた演習場の道は、砂場をあるいているように沈む
雨衣は、濡れ、中まで浸透してくる…
1工程では、元気があった者も2・3工程ともなると静かに
ひたすらゴール目指して、歩く
「キツイなぁ」ボソッと三島が呟く
無言で彼らは行軍を続ける
ひたすら ひたすら
ゴールの大松の台を目指して…


大松の台までの道のり

演習場のメイン道路中央道より新山中橋を通りぬけ、小坂道へ抜ける
この小坂道が、名前とは逆になかなか傾斜の厳しさ道路なのである
朝から降る雨は強さを増し、道路両脇の側溝は、流れ早く泥水が流れている
小坂道の終わり小坂ロータリーに入ると、隣には、第2戦車道がある
新隊員達がそこに近付くと、何やら、聞き慣れない爆音が響く
「戦車だ!」
先を歩く一班の方から声が響く
新隊員にとって産まれて初めての動く戦車
駐屯地に展示されてる戦車とは違い、荒々しく泥を巻き上げ、爆音を響かせ
一台…二台…と通りすぎて言った


生戦車と言う思いがけないプレゼントでにわか活気ついた一区隊の面々
ではあったが、やはり朝早くからの行軍と、初めての野営が疲れを助長させていた
しかも雨
当然のごとく送れそうになる隊員も出てくる
三島がふと森を見ると
雨なのか…
汗なのか…
涙なのか…
わからないが、顔をぐちゃぐちゃにしながら、さらに真っ赤にさせながら奮闘中であった
三島「森… お前の顔、汚いぞ。お前彼女出来たとか言ったよな。その彼女俺にくれ。今のお前の顔じゃ彼女可哀想だぞ(笑」
と三島が言うと
森「うるせー、三島の顔だってひでーよ、お前の今の顔なら一生彼女できねーよ(笑」
と、冗談を言い合っていた
この時、二人とそのバカバカしい会話を聞いていた班員達は、今回は辛いけど…
余裕だな
と安心していたとゆう


12:00
昼になると、雨もやんできた
腹も減ってくるが…
朝06:30より始めた行軍も残す所あと一キロとなっていた

ここからは、班行動だった
一班が大松の台に向け前進すると
パンパン
と空砲音が響く
「やっぱりホフクはするんだな」
と佐々木、高橋が話ていると
班長山本は、2班を前進させ、号令をかける
「第二はーん!」
新隊員最後の戦闘訓練だろう
誰もが厳しさを感じながらそれぞれのホフクをし大松の台に突入!
空砲をならしていたであろう、区隊付きの宮川一曹は早々に退避し大松の台を奪取成功!
と思いきや…
先に突入した一班の姿が無い…
「ん!?」三島、仲間がその異様さに気付いた時
パンパンと空砲音が響き、一班員が、大松の台よりさらに、先、500メートルはあるだろう丘に向かい奇声を出しながらダッシュしていた。
山本は
「第二はーん、前方クジラ山まで、突撃に〜」
と声を出すと
次の行動を理解した佐々木は
「二はーん いくぞ!」と毎日終礼後に円陣を組んでかける掛け声をかけり
山本の「進め!」
で全員、言葉にならない奇声でクジラ山まで走る
とにかく走る…

「13:00状況終了〜!」
藤田3尉の声が響く
待ちに待った言葉
その場に倒れるように座る者もいれば、すでに大の字で寝ている者もいる
藤田が
「各班事集まれ」と声をだすと
こんな疲れた表情の新隊員達でも、声に反応し隊列を組む


宴会

クジラ山を奪取した一区隊面々
実はクジラ山のとなりの杉沢平が宿営地であった
宿営地まで徒歩で進み、昼飯
と思っていた新隊員達に思わぬプレゼントがあった
焼き肉…
ようは、打ち上げ宴会の場がセットされていたのだ。
すぐに焼き肉か?
こんな期待をよそに藤田3尉は「宴会は夜からだぞー!まずは昼飯、その後銃手入れ。銃手入れは野外だから確実に班長の言う事きいてやるようにな。15時からカルーク駆け足
で16時30分より、風呂に行くぞ
宴会は18時開始」と説明
しかし、楽しみにしている若者には、そんな半日は一瞬で
宴会が始まった


「乾ぱーい!」
焼き肉の匂いと煙が立ち込める演習場
最後の打ち上げ宴会「あっ その肉、俺が育てた奴だからとんなよ!」とか
「まだ肉あるからガンガン焼くべぇ」とか
「ビール2本目、んー、ポンシュ行く?その前に、普通に飯も食いてえ」
とか、所々から聞こえてくる
18、19の新隊員
流石に…食べる…飲む
2班も同じで
「おら、三島もっと飲めよう。」と仲間が言えば
「酒と言えばさぁカクテルがいいんだよね」と講釈云々と熊田
三島は、進められる酒をチョビチョビと飲んでいた
仲間が「三島〜もっとガァって飲め〜」とすでに酔っ払い状況で絡むと三島は
「俺、ビールの味好きじゃないんだよな。高校の時もあんまりビール飲まないで、焼酎をコーラで割った奴とか飲んでたよ」と冷静
それを聞いた熊田が「なんだよ〜三島は意外にお子ちゃまだなぁ。わかった、俺が上手い焼酎作るから今日はガンガン飲もうぜ」と自信満々だった。
ペットボトルに入った焼酎に入浴時に購入して来たコーラやらスプライトやらで割って飲む三島
「これなら、うまいから飲めるよ」
最初は冷静だった…


「おい!お前らの中で余興やれる奴いないか?」
新隊員に混じり、顔を赤くしている藤田が叫ぶ
その時、三島は班付きの佐藤とゲームの話を熱く語っていた
佐藤が「おぉ 三島〜 お前、前出て一発、周りを笑わせてこいよ〜!」
と言うと
周りも恥ずかしがって誰も出たく無いもんだから
「オォ、三島頼むぞー!」と一斉に声が上がった
宴会場の中心には、まだ誰も出ていなく藤田が
「お前ら〜 どうせ中隊行くと、やらされるんだぞ〜 早く出てこいよ〜」
とすっかり酔っ払いオヤジである

三島は、意を決して「じゃあ ウケないかもしれませんが 行くっす!」と言い焼酎を一気に飲み干した
中央に歩く三島に、酔っ払いからの声援が飛ぶ
「えー それでは、私、三島2士が皆さんを笑わせます」
と始まった余興…
しかし…
結果は全くウケなかった…
余興で緊張と落胆…
さらに飲みなれない酒を大量飲酒で三島は、余興が終わると同時に、吐き気を感じていた
「ヤバッ!」
宿営地から少し離れ、三島は戻す
目の前がクラクラする
星が飛ぶ
これは…ヤバいと本人も覚悟したほどだった
それに気づいた山本は三島を天幕に戻し寝せるが…
三島は寝る事ができず苦しむだけだった…
余興の失敗と酒への恐怖…
「もう飲まねえ…けど笑わしてやる…」と言いながら、うなされていた…
こうして、初めての野営は終了していった。


終了…

長かったようで、振り返ると短い
辛かったけど、思い出すと楽しかった事も沢山ある…
そんなそんな色の濃い3ヶ月…
新隊員前期課程の終了である。終了式を終え区隊で集合する
藤田を始め、各班長や班付きの激励等の一言…
感極まってか、涙をそっと流す新隊員もいる
その後、区隊での集合は解散となり営内班へと戻る一向
明日の移動へ向け、黙々と官物・私物をまとめあげる
そんな作業中…
「みんな、有難うな…次、いつ会えるかわかんないけどさ…お互い元気でいような…」熊田の一言だった…
「ん〜。だよな、次会う日だよ。またみんなで会おうぜ、そうだ、来年の正月!この時使って宴会!班で宴会しようぜ」班員の暗い雰囲気を吹き飛ばす、佐々木の一言である
そこから、彼らは息を吹き返したかのように、思い出話に華を咲かせた。静寂な廊下には彼らの声が響きわたる
高橋「どうせなら次の集合まで三島が童貞か賭けようぜ!」三島「おう!じゃ俺は童貞じゃない方にかける」
仲間、林、高橋、佐々木、森田、森、熊田「童貞に賭ける!」
三島「………」
こんな、馬鹿な話が多かった。
丁度廊下を歩いていた藤田は「またこの班から…こんな昼から馬鹿騒ぎして!」と思ったが、自衛官として、一歩前進した彼らに、もう腕立てをさせる事は無かった。

そんな彼らは、明日、それぞれの任地へと…
旅立つ…
合い言葉
【頑張ってこ】
この一言を頭にたたき込めて…

三島新隊員編


番外編 宴会

佐々木が冷静に語りだす
「んじゃ俺が音頭とって…」
「えー あけましておめでとう と…皆さん一士昇任おめでとう と…再開出来た事に… カンパーイ!」
旧1区隊二班の宴会である。
約束通り、年明けに実施された宴会
その時すでに、酒を飲む三島の姿は無かった
久しぶりにあった熊田
「三島〜酒は?なんで飲まねーの?」と聞くと、三島は
「駄目だ、俺に酒は合わない。後期でも中隊入っても、宴会して飲むと地獄みるんだよ」

熊田は「まぁ、うちの部隊にもそんな人いるよ。けど、飲め無いのに宴会って申し訳ないなぁ」
三島「別に問題ないよ。それに久しぶりだから、すげえ楽しいし。中隊入って残留残留でな」
と話を森が割り込む
「施設も同じ、残留天国だよ。ましてや俺なんてよぉ、先輩に誘われて駐屯地の太鼓部に入ったから他の同期より残留多いんだ」
三島・熊田「太鼓?」
森「そう。ほら、自衛隊の中央音楽祭りなんかでやってるだろ。あれよ、あの太鼓。残留多い以外はなかなかいいよぉ。師団の行事とかに呼ばれると、師団で働くワックと仲良くなれたりとかさぁ」
うんウン頷いて聞く二人
三島「行事かぁ…ん〜そんなんでワックと知り合うて話もいいなぁ」
森「そう言えば結局三島はワックと仕事してるの?」
三島「…藤田3尉にすっかり騙された…ワックなんて一人もいないナンバーに配属になったし…」ふてくされ気味な三島に熊田が
「あぁ!思い出した!じゃあまだ三島は童貞か?」
と言うとワイワイと話ていた他のメンバーも
「そうだ!思い出した」とばかり三島に注目する
「三島、童貞じゃないよ。今も彼女いるよ」
こう証言したのは高橋だった。
なんでも高橋の紹介だったらしい。
三島は、ここでの宴会で知識を得た。夢のワックの彼女…
なんかの支援てのも一つの手かぁ…
こうして、純粋だった三島2士は、階級が上がる事に純粋さを無くし…
自ら、濃いキャラクターへと変身していくのであった。


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