三島番外編04 新隊員編 その1

自衛隊に向かう風景

「なんだか、刑務所行くみてーだな」
静かなマイクロバス内で、誰かがこう漏らした。
バスの中にいた、若者達に、その一言が重くのしかかる…
自衛隊に入隊…
世間に大きく公表される事の無い、自衛隊の新隊員教育の場へと、護送ならぬ、人員輸送と言う名目で、バスの乗員 新隊員となるべく13名は駐屯地にむかった。
「自衛隊なら入れるかもよ」
三島が高校時代、担任や進路指導担当の先生から言われた一言だった。
優等生と呼べる高校生活ではなかった。特に部活に燃えるわけでもなく、と言い、停退学をするような悪でもなかった。
が、勉強好きじゃないなどの理由 三島自信、「自衛隊て走ってれば金もらえるんだろ」と言う気持ちだった
バスは駐屯地内に入り、連隊教育隊 と書いた看板がひときわ目立つ玄関の前に止まった。
ここに来ると、さすがに皆、何かを感じとったのか、誰一人無駄口を叩く事がなく、静かになっていた…


20代後半から30代くらいだろうか。
山本と名札のついた人がバスから降りると、「佐々木君!佐々木和也くん!高橋君〜!高橋弘之くん!」とひときわ大きな声でバスの前で呼んでいる
いや、よく見ると、山本以外にも3〜4人、同じように、名前を叫ぶ人がいる。
「三島君!」山本が叫ぶと 三島はすぐに反応をし、山本の元にかけよる。
佐々木・高橋・三島の3人は山本につられ、営内1区隊2班へと誘導される。
みな緊張しているようだった
部屋に着くと、さらに緊張は増す。
二段ベット が4つ並ぶ部屋
既に先に来ていたのだろう
3名ほど、青いソファーに座り、煙草をすいながら、雑談していた


山本は、三島、佐々木、高橋の3名に
「君達は、まだ18歳だが。もし煙草を吸っていたりしたらここで、堂々と吸ってよいからな。ただし、灰皿にはこの煙缶を使用すること。あと、細かい説明はのちほどするが、ようは、隠れて吸って火事を出さない為だと言う事だ。まぁ今から、ジャージに着替え、荷物を整理でもしてなさい。今日の夕方には、部屋の8人全部揃うから。何か疑問があったら、この廊下奥の事務室まで来るといい」三人は長々とした話より エンカン?と言う聞き為れない言葉に疑問を持っていた。
先に来ていた、林、森田、仲間の三人が、「これからよろしくなぁ〜」とかったるそうに、挨拶をしてくる。三島なども「よろしく〜」とかったる返事で帰す。
山本はじめ、自衛隊の光景が予想と大きく違う事からのダルさの現れだろう。
三島は、〔こいつらも俺と同類な感じかも〕と感じていた。
彼らはまだしらなかった。
着隊した時はお客様扱いであると言う事を…


初めての作業

営内班にはすべての、新隊員がそろい、夕方、隊員食堂、風呂 売店と駐屯地内を使用しながら案内される。
飯を食い終ると、班付きと呼ばれる、佐藤士長が、「残した食べ物は、大きな皿に一つにまとめて」と説明
その後も風呂 売店と説明をされながら、用事をすませ、営内に帰ると山本と佐藤が、「じゃあ、自衛隊の布団の取り方おしえるから」と教えてくれた。最後に来た、熊田が熱心にメモをとるなか、淡々と作業が行われる。それぞれが、自分のベットメイクを終ると山本が、「自衛隊の消灯は23時。23時になったら佐藤が、見にくるから、電気を消してゆっくりやすんでくれ」と説明する。すると佐藤も続いて「電気が消えたら、私語はしないようにな。あと消灯前に確実にエンカンを洗って、元の場所にもどせよ」と
やはり優しいのだった。
次の日、作業服や制服、靴などの官物品の調整、交付を受け
名札などを、手縫い作業である。
三島は疑問に感じ、「なぁ、自衛隊てこんなにヌルイのかな?」と聞くと、みな一同に「そうなんだよなぁ なんか班長とかも優しくてさぁ、意外に、厳しいイメージが先行してるだけかめなぁ」と口を揃えて話した。
次の日は、金曜だった。日曜に控えた、入隊式の為、ほぼ、初めて自衛隊の事をする。しっかりと敬礼を学び、号令通りの基本教練を学ぶ。朝から夕方まで、ひたすら、回れ右などの単純動作を繰り返す。ドンクサイ奴もいたが、夕方には、さすがに、人に見せれるようにはなっていた。
終礼で、区隊長の藤田3尉は、やはり優しい口調で「今日の君達は頑張ったな。明日は入隊式の予行、明後日は、入隊式、親が来る人も多いだろうから、今日やった事忘れないで、いいところん親に見せて安心させてやるんだぞ」と言っていた。


入隊〜思い知る若者〜

「宣誓 〜」
入隊式を終え、親などを含め会食をし、日曜日の17時を終わった。入隊式では、親に「大丈夫だよ。自衛隊の仕事思ったより厳しくないみたい」と説明した隊員も少なからずいた。
しかし、事件は起きた。夜飯〜風呂と新隊員が部屋を開けた時、山本、佐藤の二人は、営内居室に来て、毛布をちらばし、半長靴をロッカーから、部屋中に放り投げ、ロッカーの中の作業服などもまきちらし始めた。
「まだ始めだからこれくらいで勘弁しとくか」と山本が言うと不満顔ながら佐藤が「そうですねぇ、俺の時はロッカーも倒れてたりしましたが〜山本班長がこれでいいなら…」と一言
滅茶苦茶な部屋の扉に【汚い部屋には台風が来る!】と書かれた紙を一枚貼り付け、事務室へ帰って言った。
20分後〜 「ウワァ〜!なんじゃこりゃ!」三島の声を筆頭に、各部屋から台風の脅威、被害の絶叫が聞こえてくるのだった。


台風の後片付け中、佐々木「ところでさ、俺達のゴールデンウイークてあるのかな?」
こんな事をボソッと漏らした。
高橋は
「あるだろ!?てか、ねえと困るよ!連休中に俺、彼女と旅行行く予定なんだから!」
すると三島は…
「彼女いるんだ?いいなぁ、うらやましいよ」と休みの話から女の話へと移行させる。この頃の三島2士は純粋だったようで…
いつしか、清掃そっちのけで、班員全てが、彼女がいるとかいないとか、童貞だとか、童貞じゃないとか、初外出にみんなでナンパしようとかで盛り上がっていた。
笑い声も静寂な廊下に響き渡るほど、若い隊員達には、女の話が楽しく…
しかし……
「おい!お前ら!」怒鳴り声にビクッと反応する2班員。声の方向を見ると、藤田3尉だった
「整頓も終わらんうちに雑談とは随分余裕だな!よし!全員その場に腕立ての姿勢を取れ!」
永遠と続いている感覚に陥る腕立て伏せをしている中、三島は(彼女かぁ〜)と考えていた。
このボケ顔に藤田は三島に対しさらに腕立て10回をプラスした。
今後の三島の人生を左右する、藤田との出会い
純粋で童貞な三島少年はまだこの、出会いの重要性には全く気付いていなかった


区隊長精神教育

入隊式から3週間がすぎた。三島始め、2班の面々は、自衛隊生活にも徐々に慣れきていた。
しかし、相変わらず、筋肉痛は襲ってくる。森2士は、太めな体重も祟り、「俺もう駄目だ〜。自衛隊はやっぱり厳しい〜〜」と愚痴る毎日だった。
最初こそ、仲間や、佐々木などが励ましたが、その愚痴り癖にストレスを感じたようで「ガタガタうるせー!」と不仲になり始めていた。
そんな中、精神教育が行われた。
内容は、自衛隊について と言うなんじゃ?そりゃ?な事だった
その教育中、教官の藤田は、自分の自衛隊生活を惜しげも無く語った
22で自衛隊入り〜3曹になり
処分くらったり
災害派遣行ったり
結婚したり
息子を自衛官にさせようと考えていたら、生まれて来たのは娘ばかりでがっくりしたり
SLC受ける決意し勉強したり〜
とまぁ、教育の課目からは、脱線していたが、笑いも入れ楽しく教育をしていた。
こんな教育の中、三島は、印象に残る言葉を頭に叩き付けられた。
藤田
「俺は、この自衛隊生活をしているなか、いつでも、戦争に行っても言いように後悔しない生活を送っている!お前達もこれから、そうゆう自衛隊人生を送ってくれる事を願う!趣味、女、なんでも良い!事件や事故を起こさない程度に、明日戦争行っても言いように遊び、学び、1日1日、しっかり考えて行動してくれ!」
三島の胸に、ズキュンと響いた


本格化

「イチ イチイチ二!」
楽しい連休が終わったある日の課業中である。新隊員達は、ハイポートをなんとかこなしながら、自衛隊の辛さを味わっていた。
ハイポートの理由は、集合時間に全員集まる事が出来なかったからである。
5月〜 行軍 射撃 訓練も本格化する時期である。
課業外の話題はもっぱら女の話だった
「彼女に、体付き変わったって言われたよ〜」
自慢するものもいれば
「彼女と別れた…」と暗い話題の人間もいる
三島は
「生まれて初めてナンパしてみた。けど、難しいなぁ。失敗ばかりだから、もっぱらゲーセンで過ごす連休だったよ…」て暗かった。
そんな暗い新隊員も沢山いる場所に、10キロ行軍の恐怖がヒシヒシと迫っていた


「訓練非常呼集〜!」
朝靄がのこる、05:00
10キロ行軍すべく新隊員が寝ている隊舎内に、声が響く
「服装はジャー戦(ジャージズボンに上戦闘服装)で点呼位置に集合!」
声が一段と響く
眠い目をこすりながら新隊員が集まる
点呼をいつも通りすませると、各区隊長は区隊の前に立つ。
藤田3尉は「05:40より隊容検索を行う!背のうを背負い武器を般出したなら、この位置に集合 武器般出は0530」
相変わらず厳しい時間割りである
無駄口を叩く暇などない
皆、それを理解し、整斉と準備を整えた。1ヵ月前とは比べものにならない、自衛官としての成長ぶりである。
隊容検査を受け終わる
生まれて初めての、運搬食事を飯ごうでたべる。食事となると元気も出てくるのか、軽く雑談を小声でするものもいた
高橋「背のう、銃に鉄帽…実際重いわな…」
佐々木・三島「だよなぁ…本当に10キロも歩くのかな?イヤだな…」
その日は5月にしては、とても暑く…こんな若者達を苦しめる事になるのだった…


7時。
10キロ行軍が開始された。
綺麗に隊列を組み意気揚々と歩きだす新隊員
先頭には、山本3曹が手旗を持ち…後方には、藤田3尉が無線機を背負い共に行軍している。
5月の朝〜 普段は涼しく、訓練日よりな朝も、今日は嫌に暑い。
背のうなど思い物を背負って歩いていると、普段何気なく歩くアスファルト道路に足がうもりながら歩いているのでは?実は砂場をあるいているのでは?
こんな錯覚すら起こす
上かり太陽の光、下からは照り返しがある道を歩く
行軍開始40分
状況は変化してきた。隣の一班の石田二士が、遅れ出したのだ!
脱落…
二班の面々にもこの言葉が頭をよぎる。
「行軍中は敵がいるかもしれない。だから行軍中は無駄口を叩くな」 と行軍開始前に藤田3尉が言った言葉が残っていたから、「頑張れ!」の一声がかけれない。
佐々木、高橋 仲間誰もが、その悔しさ、人の脱落から、自分への不安を大きく実感した時
「石田!頑張れ!きっちりあとついて歩け!」
三島だった。誰もが驚き、三島を注目すると、額を汗を流し一生懸命な顔をして石田に呼び掛けていた。
石田はその言葉を境に意地を見せ行軍完遂出来た

四キロを歩き、初の休憩である
「やっと休憩だぁ」と佐々木が普通に座ると
山本が来て
「佐々木、高橋はこの方向の警戒 。三島、仲間はこの方向」と命令を下す
まともな休憩なんて無い。新隊員に対し多少厳しいが、これは、藤田の方針であえて厳しくと言うものだった。
休憩が終わり歩き出す。先ほどより太陽は照りつけ額のみならず、迷彩服自体が汗で濡れ始めるものも出てきた
しかし…先ほどの石田が脱落しそうな時の三島の一声に気合いが入ったのか、遅れる者なく次の休憩に入った。
休憩中…藤田が区隊の全員に向け、服装をしっかり整え、靴ヒモの緩みがないかなどの点検を指示した


10キロ行軍の終わり
ラスト2キロ
慣れない行軍も終わりに近づいた
普段見慣れた駐屯地の正門が近い
誰もが安堵の気持ちだった。
正門をくぐると、教育隊の事務所要因達が拍手で迎えてくれている
いつの間にか藤田は先頭にいて
「頭〜 左!」と要因達に敬礼をさせた。区隊全ての人員が警衛所を通過すると
「直れ!」と一段と大きな声が響く
誰もがやっと終わったと安堵した時だった……
「控え〜つつ!」
新隊員「!!」
一瞬の間に間髪いれずその声が響く
皆控えつつの体制を不思議そうな顔でとると…
「駆け足〜 進め!」
一瞬の安堵など打ち砕くハイポートである。しかも、向かう先がどう考えても隊舎ではない
先頭は再び山本になり、笛を吹きながら手旗にて、誘導している
その先は…
戦闘訓練場
行軍とは違いハイポートとなると当然脱落しかける者も出てくる
一班からは石田
2班から森が
「おらぁ!同じ班員が脱落しかけてるぞ!助けてやらんかぁ!」
もう誰の声かもわからないくらいの疲労を感じながら、2班の面々も森を引っ張り、押し、励ましていた
しかし、2班付きの佐藤も容赦ない
「我ら 新教 どこの部隊も 負けない〜」と呼称を掛ける
しかし声が中なかでない
「もっと声だせー!出さないとおわらんぞ!」
さらなる激が飛ぶ
最後の力を振り絞り声を張り上げる新隊員
無事ついたのは…予定通りの戦闘訓練場
皆、息を切らしながらも一班〜三班と並んでいる
その前に藤田が出てきた
「只今より区隊は、駐屯地の台を攻撃脱出する 攻撃順は一班 2班 3班の順
各班長は、準備できたら、別名なく、攻撃開始せよ!」
各班の隊員達は、この訓練が終わる事を夢見て、言葉にならない気勢を上げ突撃した
結果
「駐屯地の台、攻撃成功、状況終わり!」藤田の声だった
こうして駐屯地の台を疲労困憊するなか、奪取した一区隊新隊員達
行軍終了後、衛生班が開設した診察部屋には、足の水膨れの治療に訪れる隊員が多かったと言う…

そして彼らは、水虫と言う悪魔の存在を知らされるのであった…


「この靴下履けばさぁ、こいつは大分楽になるみたい」
こう熱弁するのは高橋である
5月末から雨の中の野外訓練が異様に多い
暑い中の訓練も勘弁ではあるが…
雨の中の訓練はさらに辛い
何より辛いのは、行軍で出来た、足のマメなどが、治る所か、悪化する一方…
その影響だろうか?水虫と言う悪魔は着々と新隊員に近づいていた
藤田3尉は「水虫なって一人前自衛官!」なんて力説するが…
「水虫なんてあったらモテないよね?」こんな疑問をいち早く投げつけた三島、それに同意する2班の面々
しかし…、座学の時間を中心にもぞもぞと足を動かしている新隊員は増えて行くのだった
水虫対策を一番に切り出したのが高橋だった。
最強の武器と自ら信じる五本指靴下を右手に取って…
そんな彼らは、水虫にならない職種を無意識に希望していくのである…


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