36 名前: 第4話「死闘!FTC」1 投稿日: 03/09/05 19:54

「先任、主MOS軽火器だよね?」中隊長から朝礼後突然質問を受けた。
なんだろう・・。「そうですけど・・何か」中隊長の顔から、あんまり
悪い話ではないようだ。「うち(1中)が、急遽FTCに行くことにな
ったよ、先任にも参加してもらうよ」詳細については、その日の午後、
中隊長室で聞くことになる。要約すると、師団内でFTCに参加した部隊
が軒並み惨敗であり、師団として成果を出したいという師団幕僚長の意向
があること。テレビ局の取材があること。そして富士学校の全面バックア
ップのもと一ヶ月の事前訓練をして乗り込むこと・・らしい。俺は、小隊
陸曹としてTESCに参加したことはあるが、FTCには参加したことは
ないし、50になり付准尉になった時点で参加することはないと思ってい
たし今もそう思っている。「中隊長、自分が小銃小隊長やるより瀬野、東
山とか橋口とか1曹クラス使った方がいいですよ」「先任、だめなんだよ
先任じゃないと・・・・」俺の関しない所で俺・・・准尉 佐藤克也は激
闘に巻き込まれていくことになる。


37 名前: 第4話「死闘!FTC」2 投稿日: 03/09/05 20:26

 「イラク戦争でもそうだけど、火力なくして機動無しですよ。普通科の悪
口言いたくないけど、今までやってきたような機動訓練と突撃だけではダメ
なんですよ。」連隊3科の前を通ると見たことのない濃緑の識別帽をかぶつ
た3佐がソファーに深々として座って、3科長や運用訓練幹部達に機関銃の
ような早口でまくし立てている。廊下からも、科長以下のいやそうな顔が識
別できる。さて、1中がFTCに参加することに伴う臨時勤務や特別勤務の
変更のため1・3科に寄ってきてわかったことだが、かなり急のことらしく
なぜ1中なのか、ほとんど知らないのが事実のようだ。ただ、陸幕広報から
のFAXがひっきりなしに1科や広報班に着ていることから、テレビが噛む
のは本当らしい。ただ、異様なのは本来戦闘団を組む時来る戦車大隊3中隊
や特科の3大隊からは誰も参加しないと言うことだ。「佐藤大変な編成とる
な、1中」各中隊の通信庫の前で同期の神原2尉に会った。同期と言っても
新卒入隊の奴は、46歳で俺よりも若い。AOCに、入校予定で来春まで帰
ってこない。「何が?」神原は声を抑えつつ「今回の関係部隊は戦車も特科
も施設もだけどな、助っ人だぞ。師団からは1名も出ねえぞ」「・・・」何
の事かわからない。「師団長と富士学校長が防大の時の仲のいい同期で同郷
そして職種も同じ特科なんだけどよ、FOとか戦車小隊長とかに現職の教官
を助っ人として1中につけんだとよ。おいおいおい・・・大変だぞ。何かあ
んな」神原の言う大変さについては、日をおかず知ることになる俺だが今は
残暑の中にも秋を感じるような風を心地よく感じる余裕を持っていた。


38 名前: 第4話「死闘!FTC」3 投稿日: 03/09/06 21:19

 「一ヶ月の準備訓練は、小隊以下の機能別訓練を2週間、中隊以下の火力
と機動の連携訓練を一週間そして中隊訓練と言う名の総合訓練を一週間と言
う内訳。週末には、天幕監視以外の者は帰ってくるから。心配する必要なし
」運幹 乾2尉が終礼でこう告げたことにより少し方向が見えてきた。実際
教育入校や長期入院そして通学者と言った訓練未参加人員は馬鹿にならず、
迫。対戦と言った小隊には2・3中からの支援により編成せざるおえない。
テレビ局が、ドキュメンタリー風の特番にしたいと言う意向から、隊員を数
人単位でインタビューを受けていた。まず、全員にインタビューして特に注目
する隊員を絞るらしい。


50 名前: 第4話「死闘!FTC」5 投稿日: 03/10/09 23:43

「だから、なんで突撃しようとするかな」宇多野3佐は、ゆうに180
はありそうな体躯を震わせながらそして妙に明瞭なしゃべり方をして幹
部職以上の研究会で自論たる「火力最重視論」を蕩々としゃべっている。
従来の・・・・入隊以来やってきた訓練はここ数週間完全に否定されて
しまい准尉の俺どころか、BOC終わったばかり2小隊長の岬3尉も完
全に自信消失気味であり、曹士全員にもその停滞感は伝播しつつある。
確かに特科の教官にガタガタ言われたくないと言う気持ちはあるが、我
々の訓練は、明治以来の銃剣突撃からあまり進歩していないのではない
かと言う疑問が、中隊長以下中隊内に少なからずあるのも事実だ。来週
には、「連隊長の指導する中隊訓練」と言う練度確認があり、それに対
して師団は幕僚長そして3部長が視察に来る。そこで、大事件が発生し
中隊の方向性が定まることになる。


54 名前: 第4話「死闘!FTC」6 投稿日: 03/11/15 20:20

 「これ、班長以上携行ね」連隊4科補給幹部 渡1尉は、でっぷりした体
を揺らしながら事務室に段ボール箱を持って入ってきた。市販されている廉
価版のGPSだ。誤差10b以下で座標が出るやつだ。確か連隊3科だった
か、4中隊にもいくつかあったな。レンジャー錬成・養成で使ってたな・・。
「イラク関連で、防衛庁がサンプル購入した奴借りたよ・・・行くかどうか
も怪しいしな  イラク」渡1尉がそう言っている中、人事係で趣味登山の
坂本2曹が段ボールから一個取ってまじまじと触っている。「かあー、いい
の買ったな やっぱりこれくらい官品でやってくんないとね・・」火力と機動
の連携と言っても特科、重迫そして81迫のFOが戦死すると砲迫火力が途絶
するケースが多い。GPSを各級指揮官に持たせて観測者がいなくても精度良
好な火力・射撃要求をしようと言うことらしい。「班長以上 自習室集合」運
幹の声が廊下に響き渡る。明日は、駐屯地内の西地区訓練場での視察だ。


55 名前: 第4話「死闘!FTC」7 投稿日: 03/11/16 10:15

 FTCができてから富士地区では今まで絶対見ることがなかった北方や西方
の部隊の車両を見る機会が増えた。関東圏にあるうちの部隊にとっては富士は
ホームだが、九州の部隊とかにとってはアウェーってとこかな・・・。今週は
まずFTCの研修がある。通常3佐クラスの分析官によるブリーフィングなん
て通常の参加部隊ではありえない。うざったいことにテレビ局が終始つくので
隊員もよき「自衛官」を演じるようになった。去年の中隊検閲後の講評では、
・・・雨天のためしょう舎内だったせいか・・・居眠りする隊員が散見され副
連隊長からお小言を頂いたが・・全員がメモ帳広げているこのブリーフィング
はマスコミ効果だろうな・・・笑。さて、密着するテレビ局と同系列の雑誌社
と軍事関係専門誌だけの取材も、陸幕広報の売り込みのせいか気がつけば、1
0前後の媒体の取材を受けている。どうも、この訓練はできレースなのではと
言うよりは、ドキュメンタリーとして成立させようとしている素振りを中隊全
員が感じ取っていた。

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